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「ボクも賛成かな〜」
「オレも、はっきり言って邪魔だと思ってます」
誠はまだしも、常に優しい尾崎君から信じられない言葉が出て、私は言葉を失った。
「俺は誉也さんが死ぬ気で守ろうとしてる野球部を私利私欲で使ってほしくないわけ。キミのことだから花ちゃんが男ばっかに囲まれるのは色々危ないと思ってるのかもしれないけど、はっきり言って迷惑」
「このセンパイは何かするかもしれないけど、ボクと夕ちゃんは絶対に何もしないよ」
「酷いな〜、ネコくん」
会話はお互いをからかっているような雰囲気だけど、誠と琳音の目は笑ってない。それに、二人の視線は悟に向いたままだ。
私は何も言えず立ち尽くす。恐る恐る悟の方を見ても、やっぱり表情は変わらない。
「確かに花愛を守りたい気持ちはある。でも、野球部に協力したい気持ちも本当だよ。どうしたら信じてもらえますか?」
最初は誠、次に尾崎君、そして最後に琳音を見て悟は言った。
その言葉に言われた三人は顔を見合わせる。三人で何かを確認するように頷き合うと、尾崎君が悟に視線を戻した。
「一週間で一人以上部員を集めてください。それができればオレ達は金剛先輩を信じます」
「分かった」
悟は笑みを深くして了承した。
そこで名簿を持って部室に戻ってきた峰川は、部室内の雰囲気に気付くこともなく悟に話しかけ始めた。悟は何か思案しているらしく相手にしていないが、私はそんな峰川の空気の読めなさがこの時は羨ましかった。部室内の空気、悪すぎる。もう元部員がどうのこうのな雰囲気ではなかった。
それから四日。
悟は彩の力を借りたりしながら、友達や中学の時野球をやっていた人を積極的に勧誘していた。しかし同級生の間では悟が野球部の勧誘をしていることが噂になり、悟に話しかけられただけで入部を拒否する人も出てきた。実績がなく、廃部寸前の部活に入ろうとする人はまずいない。
「……大丈夫?」
「大丈夫だよ」
心配になって聞いてしまうが、悟の笑顔は変わらない。悟に聞かれたから野球部について話したが、なんだか巻き込んでしまったような気がして申し訳なくなる。
「それに、最終手段がまだあるから」
「最終手段?」
私にはその最終手段が見当もつかず首を傾げる。そんな私を見て悟は笑みを深めた。なんだか私は悟の笑顔しか見てない気がする。
「花ちゃん、呼ばれてるよ〜」
「はーい!……呼ばれてるみたいだから行くね」
「オレも一緒に行っていい?」
「え?」
廊下側の席に座っている彩に呼ばれ、悟に席を外す断りをいれると予想外な言葉が返ってきた。
「いいけど……、多分是澤だよ?」
「ちょっと用があるんだ」
「そ、そう……」
悟が是澤に用があるなんて本当に珍しい。どちらかと言うと話しかけずに無言で睨み合っていることの方が多い。ていうか、私の周りと悟の仲が悪すぎる。あの彩でさえ少し警戒しているくらいだ。何をやったんだ、こいつ。
「ほら、待たせるの悪いから早く行こ」
「そうだね」
廊下に出ると、やっぱりいたのは是澤だった。最近是澤は三日から四日おきに休み時間私のクラスに来る。話すのは勉強のことが多いけれど、だんたんとお互いの話もするようになって仲良くなれている気がする。推しがこんな近くで見れるなんて本当に幸せ。
「……?なんでそいつがいる?」
悟を見て是澤の表情が厳しいものになる。
「是澤に用があるみたい」
「僕に?」
是澤は悟の真意を知りたいのか睨むように悟を見つめ、悟も無表情で見つめ返す。久し振りに悟の笑顔以外の表情を見た。
先に口を開いたのは悟だった。
「お前部活入ってる?」
部活?なんで急に是澤の部活の話なんか……ってもしかして、是澤を野球部に入れようとしてる……?これが悟の言ってた最終手段?
なんとなく悟の考えが分かった私とは違い、全く意味が分からない是澤は訝しげな表情で悟を見る。悟はそれに対し挑発するような笑顔を向けると、何故か私の腰に手を回して自分の方に引き寄せた。流石にこの行動は私も理解できず、全力で悟から離れようとする。
「ちょっ、離して……!」
「オレ達、同じ部活に入ってるんだ」
同じ部活に入っているからって、こんなに近づく許可を出した覚えはない!
次話もできるだけ早く投稿します!




