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お待たせしました!
次の日の放課後、私は正式に野球部の一員となり、部員として野球部の部室を訪れた。そこには既に尾崎君と誠がいて、何やら話し込んでいるようだった。
「遅れちゃった?」
「いえ、大丈夫です。部員である桜宮先輩なしに何か決めることなんてありません」
少し不安だった私に対し、尾崎君は優しく答えてくれる。本当にできた後輩だ。
ソファの昨日と同じ場所に座り、尾崎君が私のためのお茶を入れ終えてから話し合いを始めた。最初は三人とも元部員の方に戻ってきてもらうための意見を色々出していたが。二十分も経てばそれも尽きる。それぞれが無言で頭を悩ませる中、尾崎君は諦めの滲む声で言った。
「絶対にやりたくなかったけど……」
「夕ちゃん何かあるの!?」
尾崎君の言葉に誠が飛びつく。私も顔を上げて尾崎君を見つめた。尾崎君も顔を上げて一度誠と目を合わせると、次に私と目を合わせ、そのまま以前から考えていたらしい案を話し始めた。
あれから三週間。私が野球部のマネージャーになったという噂が広がり、それで元部員の方が何人か戻ってくるなら良し、戻ってこないならと考えていた案を実行することとなった。集合したのは下駄箱を出てすぐの所。
「本当に大丈夫かな…」
「オレも先輩にこんなこと頼むのは嫌です。でもそれしか思いつかなかったんです。……本当に、すみません」
私がこぼした言葉に、尾崎君が深く謝る。
「いっ、いいんだよ!乗りかかった船だし、野球部に入ることは自分で決めたんだから!それに、私っていうマネージャーはこのためにいるんだしね!」
「桜宮先輩は本当にいい人ですね。オレが謝ると先輩を困らせてしまうみたいなので、言い方を変えます。……本当に、ありがとうございます」
私の焦った様子に尾崎君は苦笑しながら言い方を変えてくれる。私も、謝られるよりかはお礼を言われた方が何だか自信が持てる。よし、今日は頑張ろう。
「夕ちゃん、センパイ!来たよ!」
私達の会話に入らずずっと下駄箱の方を見ていたのは誠。目的の人物を見つけたのか、抑えながらも緊張した声で私達を呼ぶ。珍しく誠も緊張しているみたい。目的の人物は野球部元部員の一人。今までの尾崎君の説得を比較的聞いてくれた人だ。
「じゃあ先輩、行きましょう」
「う、うん……!」
私達が元部員の人に近づくため一歩を踏み出した瞬間、思いもしない人の声が後ろから聞こえた。
「どこに行くの?花ちゃん。俺のところじゃないみたいだけど」
私は信じられない思いで勢いよく振り返る。そこに立っていたのは、やっぱり琳音だった。
「琳音先輩…!?」
「うん、久し振り」
私の驚きなど気にした様子もなく、ひらひらと手を振る琳音。私の横にいた尾崎君、少し前にいた誠も驚いた顔で琳音を見ている。
「良かった、ちゃんと下の名前で呼んでくれてる。ついでに先輩を取ってくれても構わないよ?」
いや、それはどうでもいいです。もし遭遇した時に下の名前で呼ばないと面倒臭いことになると思ったからそう呼んでいるだけです。そして先輩を呼び捨てにすることはできません。いくら心の中で呼び捨てていようと。
「琳音先輩、どうしてここに?」
少し落ち着いた私は、質問をぶつける。琳音は少し残念そうな顔を見せたけれど、すぐにいつもの笑顔に戻して言った。
「んー、気になる?」
「もちろんです」
はっきり言って無視して元部員の方に話しかけに行きたいが、今までの教訓から自分が満足するまでこの人が相手を解放することがないことは分かっている。だったら早く話を終わらせるだけだ。
「いいよ、教えてあげる。……花ちゃんとお近づきになりに来たんだ」
「えっ……!?」
「は……?」
今まで何も言わずに私達の様子を見ていた尾崎君と誠が反応する。尾崎君は少し慌てたように、誠は後ろにいるので顔は見えないが、琳音が気に入らないのが声色で分かるし、普段よりも低い。きっと睨んでいるだろう。
言われた本人である私は慌てることもなく、ただため息をこぼしただけだった。この人は本当に何がしたいのだろうか。それに、その台詞をいったい何人の女子に言ったのだろうか。
設定を一度見直し、整理し直している間に前回の更新から間が開いてしまいました…。本当に申し訳ないです。これからも更新は不定期になってしまいますが、楽しみにしていただけると嬉しいです。
そしてご紹介。
実は現在もう一本連載をしています。そちらも学校が舞台ですが、乙女ゲームの世界ではない学園での恋愛モノです。よろしければご一読ください!
「学園改造計画っ!」
https://ncode.syosetu.com/n4378er/




