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話していたのが下駄箱ということを忘れていた私達は、いつの間にか集まっていたギャラリーに気づき急いでその場を離れた。
「ここなら大丈夫なので」
そう言って案内されたのは尾崎君の所属する野球部の部室。私達の高校には運動部、文化部、生徒会室の集められた部活棟と呼ばれる場所が校舎の隣にある。野球部はその一階にあった。
「さて、何から話しますか?」
尾崎君がお茶を用意し、全員が一度落ち着いたところで尾崎君は切り出した。
私は色々聞きたいことが多すぎて困っている。もちろんさっきの誠のことが最優先だが、メールにあった誠の用事とは何なのか、尾崎君が誠と一緒に下駄箱に来た理由、それとこの綺麗すぎる部室。もしかして野球部って……。
「先輩はやっぱり誠のことが聞きたいですよね?」
「……う、うんっ!」
考え事をしていたせいで反応が遅れてしまったが、尾崎君は特に気にしていない。きっと、私がまだ放心状態から戻っていないと思ったのだろう。
「え〜?そんなに気になる〜?」
「さっきちゃんと説明するって言っただろ」
「はーい」
誠は説明するのが面倒くさいのか渋ったが、尾崎君に注意されて話し始めた。
僕と夕ちゃんが出会ったのって小学生だったんだけど、その時はまだ友達じゃなくて、逆に僕は夕ちゃんのこと嫌いだったんだ〜。今と変わらず何かと注意してくるし、うるさい、って思ってた。それでね、卒業式の日に、中学生になるんだからもっと落ち着け、制服は絶対にちゃんと着ろ、女の子に簡単に触らない、って他にも色々夕ちゃんは言ってきたんだ。それを聞いた時僕も流石にイラッとしてさ、その時言ったんだ、確か〜……。
「いい加減にしてくれない?うるさいよ。僕だって怒らないわけじゃないんだよ?」
だったかなぁ?……ん?なんで二人ともそんな顔してるの?まぁいいか。
それで続きなんだけど、その時の夕ちゃんの顔!本っ当に怯えた顔しててさ、すんごい気分が良かったんだよね〜!いっつもうるさい奴がこんな顔するんだ!って。そのまま夕ちゃんは逃げちゃってお別れになったんだけど、どうせ中学で会えるし、僕はそんなに気にしてなかったんだ〜。でもね、夕ちゃん中学に入った途端僕のこと避けるようになったんだよ。いつもだったら怒られるようなことしても何も言ってこないし、本当につまんなかった。だからかな、中一の僕はすんごい荒れてたよ。何も面白くないからずっと無表情だったし、イラついてた。周りの皆はそんな僕を怯えた顔で見てたけど、その顔見ても全然楽しくなかったんだよね。でも、そんな僕に夕ちゃんは話しかけてくれた。小学生の時みたいに注意してくれたんだよ、今の僕じゃダメだ、って。その時の夕ちゃんすっごく怯えた顔してたの!その顔見た時に気づいたんだ、僕って、勇気がある人や好きな人の怯えた顔を見るのが好きなんだ、って!それから僕は可愛く振る舞って、友達の中から好きだと思える人に時々本性を出すようになった。そうすれば皆可愛い顔してくれるし、僕もすっごく楽しかったんだ!
誠の話はこれで終わった。もうドン引き。これ以上ないくらいには引いた。
「……それで、今ではオレが誠のストッパーであり、誠が本性を出した後のフォローをやっています」
ということは、今まで見てきた誠の可愛さは作り物であり、本性はさっきの色気のある方だと……?
「オレもこんな奴だとは思いませんでしたよ。中一の時は周り皆がこいつのこと怖がっちゃって、仕方ないからオレが代表として注意したんです。それがこんな結果になるなんて…」
「なーんで、夕ちゃんがそんなに申し訳なさそうなのー?可愛い僕だって僕なのに〜」
いや、あれは違いすぎる。今まで騙していたことを謝ってもらいたいレベルだ。
そして尾崎君は勇者か。本性を出した誠に話しかけるなんて……。
「誠は先輩のこと気に入ってるみたいだし、多分これからもさっきみたいなことが起こると思います。そこで何ですが……」
私がドン引いている間に、尾崎君が私の机を挟んだ向かい側で頭を下げていた。
「オレ一人ではもう限界なんです!先輩、誠を止めることを手伝ってもらえませんか!?」
「絶対に嫌だ!!」
私は一秒と開けずに答えていた。
お久し振りです!お待たせしました!
実はなんですが、先月10月でこの作品も連載1年を迎えました!我ながら全然進んでないなー…、と思います…。それでも読んでくださっている方には感謝しかありませんっ!これからもゆっくりになってしまいますが、進んでいこうと思います。よろしくお願いします!




