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長め

 次の日、是澤はまた別の教科のノートを借りに来たが、彩が間に入ってくれたおかげで何事もなく渡せた。その間是澤の表情筋は動くことがなく、昨日の笑顔が幻のように思える。悟は峰川に邪魔されて私に話しかけてくることはなかった。

 昨日の夜悩んだ結果、私は彩以外に相談することに決め、相手にメールを送っておいた。返信には向こうも私に用があるらしく、放課後に下駄箱でと書いてあった。


 「そっか、何かいい意見が聞けるといいね!」


 彩に別の人に相談することを伝えると、笑顔でそう言ってくれた。緊張がほぐれる。



 放課後、どの学年の下駄箱からも見える場所に立っていると、この学校ではほぼ見られない色が視界に入った。相手も私に気づいたらしく、全力で腕を振りながらこちらに走ってくる。


 「花ちゃんセンパ〜イっ!おっ待たせ〜!」


 今日も変わらずパーカーの袖はありあまっていて、髪の毛も左側をピンでとめているだけであとはセットも何もされていない。それでも清潔に見えて、可愛いと思うのは彼がゲームのキャラだからだろうか。


 「誠、暑くないの?」


 「えぇ〜?少し振りに会ったのに第一声がそれ〜?でも大丈夫!暑くないよ」


 ほら、と言って誠はあまった袖を私に突き出す。


 「触ってみて、結構布薄いから」


 触らせてもらうと、本当に薄かった。これなら下にシャツを着ていてもそこまで暑くならないだろう。

 私が感心していると、誠のパーカーのフードを誰かが掴んだ。


 「誠!おいてくなよ!」


 少し息を切らしながら話すのは尾崎君。


 「走るの遅い夕ちゃんが悪いんだよ」


 尾崎君がパーカーから手を離すと、誠は素早い動きで私の背に隠れて、頬を膨らませながら言った。私よりも少し身長が高いだけの誠じゃないと、身長の低い私の背に隠せるなんてできないし、可愛くもない。誠だからこそできることだ。


 「あっ!おまっ!っと、先輩、少し振りです」


 誠に言いたいことはあるけど、その前にいる私のことは無視できない。彼の真面目さがよく分かる挨拶をしながら、尾崎君はペコッと頭を下げた。


 「気にしないで。少し振りだね!」


 「センパイ!ボクにも挨拶!」


 そんなに挨拶が欲しいものなのか疑問だけど、後ろから制服を少しだけ引っ張る誠が可愛いので、つい意地悪をしたくなった。


 「女の子の後ろに隠れるような人には挨拶しません」


 少し誠を真似て、可愛く見えるように言ってみる。


 「先輩!?」


 言ってから、もしかしたら誠も身長のことを気にしているのかもしれない!と思ってしまった私よりも、 前にいる尾崎君の方が慌てている。


 「誠にそんなこと言うと……!」


 反応のない誠のことが心配になり、制服から手が離れているのを確認して振り返る。その間に尾崎君が言っていたことは耳に入らなかった。


 「誠……?その……」


 謝ろうと誠の顔を見ると、笑っていた。でもいつもの笑顔じゃなくて、瞳の奥に人を見下したような色が見える。その笑顔が怖くて、私は一歩後ずさった。


 「センパイ、今すっごいイイ表情してる」


 「……へ?」


 今の私なんて、誠の見たことのない表情が怖くて怯えているくらいだろう。それのどこがいいというのか。


 「センパイは、何でボクが可愛く見えるような態度とってるか知ってる?」


 後ろであぁ〜、と尾崎君が呻いている。その後に、それ以上は言うなー、やめておけー、とかよく分からないことを言っていた。助けてくれ。


 「センパイ?」


 高くて可愛い声ではなく、色気のある、でもやっぱり高いアンバランスな声で問いかけられると、何も言えない。


 「ザンネン、時間切れ。答えはね……?」


 そこで急に私への距離を詰める。そのまま私の腰に腕を回して引き寄せると、かなりの近距離で楽しそうに言った。後ろで尾崎君が叫んでる。本当に助けて。


 「そういう怯えた顔が見たいから」


 ぞわっと全身に鳥肌が立った。それほどに誠の崩れない笑顔は怖くて、目に涙がたまってくる。


 「ボクよりセンパイの方が可愛いよ」


 それだけ言って腰から腕を離すと、一歩後ろに下がって私から離れる。

 私は力が抜けてしまい膝をつきそうになったけれど、後ろにいた尾崎君が支えてくれた。

 そしてこのデジャブ感。こんなこと、つい先日悟にやられたばかりではないだろうか。


 「誠……、お前本当に変態だな……」


 変態……?誠が……?あの可愛い誠が変態?

 尾崎君の言っていることが理解できない。


 「先輩、大丈夫ですか?」


 「う、うん……。多分……」


 反射的に頷く。肩を支えてくれている尾崎君の手は優しくて、安心できた。


 「もぉ〜、ボクは変態じゃないよ!」


 前では誠が腰に手を当てながら怒っている。さっきまでのことが嘘のようで、信じられない。


 「いや、人の怯えた顔が好きとか変態だろ……」


 尾崎君の言葉に、私の頭の中に信じたくない考えが浮かんだ。

 普段可愛く振る舞っているのは、何か地雷を踏んだ時に見せるさっきのような表情と差をつけるため……?あんな目を向けられれば、誰だって怖くなるし、普段との差もあって一段と怯えた顔になるだろう。その怯えた顔を見るのが好き……。相手の様子を楽しんでるということ……?た、確かに変態だ。


 「も、もしかして……!!」


 「先輩にちゃんと説明しろよ」


 「もっちろん!」


 私が急に叫んだのは無視されてしまったが、今はありがたい。続きの言葉を叫んだら、誠がまたあの表情をしていたかもしれない。


 もしかして、誠の裏ルートってドS……!?

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