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 「あ、そろそろ時間だね」


 私が動けずにいると、室内の時計を見た悟がいつも通りの声を出す。私もつられて時計を見ると、保健室に来てから十五分ほど経っていた。


 「ほら、更衣室行こう」


 「う、うん……」


 さっきまでの雰囲気なんて感じさせない悟に、私の方が慌ててしまう。私の名前を呼んだ時の悟の声は今まで聞いたことがないくらいに甘くて、自然と顔が赤くなる。

 二人とも座っていたソファから立ち、先に悟が保健室から出る。私も続いて出て、扉を閉めようと悟に背を向けると、後ろから覆い被さるように悟が扉に肘をついた。


 「呼び方、忘れちゃダメだからね?忘れたら……」


 耳にすごい近い場所で囁かれる。声を出す度にかかる吐息がくすぐったくて、少し身をよじってしまう。


 「ああ、逃げちゃダメだよ。最後まで聞いて」


 悟が扉を閉めようとしていた私の手を取り、肘をついていた方の腕で扉を閉める。つかまれた手を引かれて悟と向かい合わせにされると、扉を閉めた腕でまた扉に肘をつく。

 ここまであっという間でされるがままだったけれど、向かい合わせになって悟と目が合うと、距離の近さに体温が上がり、心臓の動きも早くなる。


 「あ、あのあのあの……!?」


 私が恥ずかしさで声を出すと、私の手をつかんでいた手を離し、そのまま人差し指を立てて私の唇にあてる。まるで私が声を出すのを禁じるように。

 固まってしまった私を見て、悟が少し笑う。そしてまた、私に顔を近づけると言った。


 「忘れたら、キス、するからね」


 私の時は止まった。何が起こってるのかまったく理解できなくて、目の前にある悟の顔を焦点の合わない目で見つめることしかできない。

 悟は私の様子を楽しそうに眺めると、体を離して一歩後ろに下がった。


 「じゃあオレは行くよ。次の授業、遅れないよに気を付けて。もし遅れるようだったら、……オレが誤魔化すけど」


 今の悟の様子からして、どんな内容で誤魔化されるか分かったもんじゃない。私は少しだけ意識を取り戻すと、全力で首を振った。


 「そっか。じゃ、後で」


 悟はそのまま行ってしまった。私は緊張からやっと抜け出せて足の力が抜けてしまったのか、ズルズルとその場に落ちた。顔は真っ赤だろうし、心臓だってまだすごい早さで動いてる。確かに、これは授業に間に合わない可能性も……。


 「!!花ちゃん!?」


 ちょうど授業が終わったのか、彩達が下駄箱から向かってきた。更衣室へ向かう階段は逆方向だから、私のことを心配して来てくれたのかもしれない。そう思うと、少しだけ心が落ち着いた。

 彩は私の様子を見て顔を真っ青にすると、すごい速さで私のところまで来てくれた。


 「大丈夫!?顔真っ赤だよ!?少し震えてるし……」


 私の手を取った彩が、普段よりも早口で私に質問をする。


 「だ、大丈夫……。ちょっと色々あって……」


 「色々?」


 私の返答に訝しげな顔をした彩は少し考えるとあることに気付いたのか、私のことを見つめながら言った。


 「そう言えば、金剛君は?」

 

 名前を聞いた瞬間、収まり始めていた私の熱はまた上がった。彩はそれに気付くと、深い深い溜め息を吐く。


 「はぁー……、あのヤロウ……」


 更衣室へ向かう階段のある方を彩は睨むと、彼女からは考えられない低音で何かを呟いた。私には聞こえなかったけど、聞こえなくて良かった内容……だと思う。

金剛のターンこれにて終了!楽しかったです♪

次は誰のターンにしようか…。アイツも最近出てないし、アイツの話もまだまだ……。楽しみにしていてもらえると嬉しいです!


想像以上のブクマにビビっておりますw

これからの活力になります、本当にありがとうございます!

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