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「ねぇ、何でこっちを見ないの?」
私は何故こうなっているのでしょうか。
「……聞いてる?」
声はもちろん聞こえています。こんな近い距離にいるのですから。ただ現実が受け入れられないだけです。もう逃げられない。
朝、いつも通り登校した私は昨日と同じで琳音を下駄箱で見つけた。今日もすごいな〜、何て思いながら眺めていると、女子の中心にいた琳音と目が合ってしまう。私はつい目をそらしてしまった。いかにもわざとらしかっただろう。
目をそらしてから急いでこの場から動こうとした私は、女子の叫びに驚いて足を止められた。そしてその場から動けなくなる。琳音が私の目の前に来て、下駄箱に手をつけて壁ドンしたのだから。
「名前は?」
息がかかるぐらいの近さで言われる。顔を上げられるわけがない。お互いの顔はかなり近くにあるはず。
「あぁ、俺は赤原琳音。君は……後輩だね?」
私達の高校では学年によって上履きの色が違う。一年が赤、二年が青、三年が緑。身長的に私を見下ろしている琳音にとって、足元を見ることなんて簡単だろう。
周りにいる女子が少しずつ騒ぎ始めてる。これ以上騒ぎが大きくなるのは避けたい。そうなると、名前を教えてしまうのが手っ取り早い気がする。
「桜宮花愛です」
決意を込めて顔を上げた。琳音と初めてちゃんと顔を合わせたけれど、急に顔を上げた私に驚いたのか、普段と違う顔をしていた。その顔が何だか面白くて、笑いそうになってしまう。
「へぇ?そうやって笑うんだ」
顔に出てしまっていたらしく、琳音の表情がいつものヘラヘラした顔になり、私にもっと近付いた。鼻と鼻がぶつかってしまいそうな距離に、自然と体温が上がる。
「リンネ〜、早く行こぉ〜?」
そこで女子が痺れを切らしたらしく、声を上げ始めた。それを聞いた琳音は私から離れ、女子の元に戻って行く。
離れたことで私の緊張も溶け、深く息を吐き出した。
「あ、花愛ちゃん」
急に琳音から声を掛けられ、目を合わせてしまった。その顔は楽しそうで、何だかむかついた。
「俺のことは琳音、って呼んでね」
ウインクとともに言われた台詞。周りの女子は黄色い悲鳴を上げている。
でも私はときめかない。その台詞はゲームの中で既に聞き飽きている。
「分かりました。琳音先輩で」
「呼び捨てで全然構わないのに。まぁしょうがないか。じゃ、またね」
少し残念そうに、でもすぐに表情を戻して手を振りながら女子とともに去っていく。
すぐに変わる表情。でも何を考えているかよく分からなくて、何でか不安になる。そんな表情が私は苦手。でも出会ってしまったことにはしょうがない。何としてでも好感度を上げないように頑張るだけだ。
あえて文句を言うなら、ゲームの時よりも距離が近いこと。イケメンに耐性なんてない私には、はっきり言ってツライです。
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