プロローグ
目の前に迫り来る車。もうどう頑張っても逃げられないスピードと距離。
私はその光景に既視感を覚えた。そして思い出す。
……ーー私は一度死んでいる。
そこで私の意識は途切れてしまったけれど、次に目覚めた時には全てを理解した。
私はゲームの世界に転生している。
前世の私はそこそこ友達もいて、学校にも楽しく通っていて、何不自由無い生活をしていた。その友達の中にゲームが好きな子がいて、その子にオススメされてやったゲーム、「SweetMagic」。それが今の私、桜宮花愛さくらみや はなえがヒロインの乙女ゲームであり、今生きている世界だ。
攻略チャラは五人と少なかったけれど、ゲーム初心者の私にとってはやりやすかったのを覚えている。
そしてそのゲームを全て攻略し終わった後、前世の私は交通事故で死んだのだろう。最後の記憶が車が迫ってくるシーンだから間違いはないと思う。
今私は八歳。小学二年。ゲームのスタートはヒロインが高校二年だったはず。
今から頑張ればゲームから逃れられるかもしれない。はっきり言ってゲームの舞台である高校に行きたくない。
理由は一つ、乙ゲーにはよくいる悪役、その子に会いたくない。
「SweetMagic」は攻略もラクで話も良かったけれど、悪役が悪かった。それはもう現実にされたら引きこもりたくなるレベルで。
悪口や集団無視、そんなのはいい方だった。攻略キャラと同じ部活に入ればその子も入部し徹底的に私の傍にいるし、攻略キャラと親密度が上がるとクラスが違うのに休み時間は常に隣にいたりと、ストーカーに近いことをしてくる。しかもいかにも仲の良い友達のように。
私はもともとストレスに弱いから、本当にされたら倒れる可能性もある。
だから私は努力した。勉強はもちろん、部活、委員会も頑張った。
それなのに、中学三年、親に押し切られて私はゲームの舞台である白鷺高校に受験し受かった。押し切られた理由は、お婆ちゃんが倒れ、その介護でお母さんが忙しく、できるだけ家に近い方がお金もかからず何かとラクだろう、というわけだった。
悪役は二年で転校してくる。そして攻略キャラとも特に関わりのないまま、私は今日、高校二年生になります。