8話 ステータスとスキル
スキルを追加。
「これが、俺のステータスか……」
俺は、目の前に現れた、所謂ホログラムを見つめる。
「はい。あ、因みに、そのステータスは他人から見ることはできませんので、ご心配なく! 勿論、私は見ることができますが、それくらいは許してくださいね?」
「まあ、一応は管理者だからな……」
こいつはオンラインRPGで言えば、ゲームマスターみたいな存在だからな。チーフプログラマーも兼ねているが。ディレクターは全能神といったところか?
俺は、そのステータスを隅々まで確認する。
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名前:ユーキ
レベル:62
経験値:0/63000
HP:1240/1240
MP:370/372
攻撃:744
防御:496
魔攻:248
魔防:496
素早さ:62
運:70
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○スキル
・女神の加護
・聖なる光
・悪切断
・創造魔法
・魔法属性<光>
・経験値4倍
・サーチング
・無限倉庫
・無詠唱
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「……うん、よくわからん……」
比較対象がないため、喜べばいいのかどうなのか……少なくとも、スキルを見る感じでは、結構いい線いっているんじゃないかと思うのだが。
「おい、この数値はどの程度の強さなんだ? この世界の住人は俺と比較して、上なのか下なのか」
「そうですね、一般の農民の攻撃力や防御力は、ユーキさんの100分の1程度に設定してあるはずです。名を馳せる冒険者では、10分の1、といったところでしょうか?」
「設定って……ま、まあ、わかった」
そうか、どれだけ強くても、俺の10分の1、俺ですら魔王を倒すのに途方もない苦労をしたのだから、そりゃ現地人だけでは到底倒せそうもないわな。俺の仲間として共に行動してくれた奴らも、実際は俺よりもステータス上は下だったのか。まあ、だからと言って見下すわけでもないし、散々助けてもらったことに感謝もしている。今でも、失われた命のことを想うと、悲しいものがある。
「……魔王自体はよくあるイレギュラーなのですが、住民の数値を弄りすぎるとまた別のイレギュラーが発生する恐れもあるので……初期設定からいじるのはあまり勧められたものではないのです」
「神様の世界のことを、そうベラベラと喋って大丈夫なのか?」
「まあ、聞かれても困るものではありませんので。前回は、そこら辺のことはお聞きになりませんでしたよね?」
「ああ、とにかく、世界の常識やモンスターの形態等、冒険に必要であろうことを聞きまくったからな。裏話を聞く余裕がなかったんだ」
世界の経済状況や、文明の発達度の確認はしたが、やはりそれも冒険するにあたって不都合がないようにするためであった。今回は強くてニューゲーム、前回とは違った攻略情報を得るのが筋というものであろう。
「うふふ、今回はまだ余裕そうですか?」
「サヤがいなかったらな! やはり、そこは許せねえ……」
「そ、そうですか……さ、サヤさんにも何か異能を与えておきますので、お許し下さい……」
「ちっ、できるだけ安全に過ごせるよう、頼んだぞ?暴れたところで帰ることもできねえし、お前がいなくなったらそれこそ二度と戻れなくなるんだしな」
「はい、確かに……」
「後は……ん? 経験値が、4倍、だと?」
スキルの欄には、確かにそう書いてある。
「あっ、そんなのです! この、成長チート改は、経験値1.5倍から、なんと4倍にまでパワーアップしたのです! ユーキさんはレベルも高く、なかなか上がりにくくなっているので、丁度いいかと思いまして」
「なるほど、確かにそれは有難い。魔王を倒すときに、前回とあまり変わらないのではまた厳しくなるからな」
「それと、サーチングについても説明しておきますね。サーチングは、文字どおり調べたいことがあればすぐに調べられる能力です! 聞き込みをせずとも、疑問に思ったことがあれば、サーチングのスキルを使うとすぐに理解することができますよ。といっても、失礼な言い方ですが、ユーキさんの頭の出来にかかってはいるのですが……」
「なるほど、効果のわからない道具があれば、調べると説明文がポップすると考えればいいか」
俺のわからない単語が出て来れば、それはそこまでということで。そこらへんは、地球産のゲームも同じだ。やたらと難しくて遠回しな設定がされているゲームがあったりするからな。
俺は試しに、足元の絨毯をサーチングしてみた。
[絨毯:神殿に敷かれている、神様の通り道となる赤い絨毯。最高級の糸を使い編まれている。また、刺繍に使われている金糸は本物の金である]
「……ほーん、こんな感じなのか」
絨毯から俺の目線まで吹き出しのようなものが伸びている。吹き出しは、俺の目線に合わせてくれるようで、少し動いてみると、頭の高さに合わせて一緒についてきてくれた。なるほど、これは便利だ。更に、吹き出しは半透明なので、誰かと対面している時でも、視線を気取られずに調べることができるだろう。
「また、サーチングはモンスターの能力を調べるときにも使えます」
「ん? まてよ、ステータス確認は、モンスターには使えないのか?」
「はい、すみませんが、人族にしか使うことができません……」
「そうか……少し面倒くさいが、まあいいか」
「それと、サーチングも他のスキル同様、MPを消費します。情報量によって消費量が変わりますので、そこもお気をつけください」
「つまりは、あまり多用してはいざという時に困るというわけか。使いどころを考えなければな」
確かに、ステータスのMPの部分が減少していた。2だけなので、これくらいなら全然大丈夫だ。
「ん? 経験値はどうみればいいんだ? 総獲得なのか、レベル毎なのか?」
「レベル毎ですね」
「……は? つ、つまり、63000を貯めれば、次はさらに多いという事か?」
「そうですが?」
「そうですがって……い、一応聞くけど、スライムの経験値は幾らなんだ?」
スライムとは、この世界でも雑魚の部類に入るモンスターだ。といっても、国民的ゲームに出てくるような雫型ではなく、ドロドロの粘液のような生物だ。口を塞がれたら息ができなくなるし、中にはそのまま体内に入られて食い破られる、という恐ろしい目にあう者もいる。この世界でのモンスターという存在は、ゲームでボタンを押せば倒せるようなものとは違う、正に脅威なのだ。
「そうですね……手元で確認したところ、”2”ですね!」
「2……だと……?」
つまり、スライムを31500匹倒せば、レベルが1上がるという事だ。レベル64に上がるためには、さらに倒さなければナいけないだろう。
「で、でも、経験値4倍がありますし!」
「そ、そうだったな! それでも、7875匹か……まあ、モンスターはスライムだけじゃないし。だろう?」
「はい、ユーキさんが魔王を倒されてから、確かにモンスターと言う存在も一時的に激減しました。しかし、復活してからというもの、その数がまた増大しているのも事実です。中には、強力なモンスターもいるはずですよ?」
「その強力なモンスターを倒せば、経験値もより多くもらえると」
「ええ。ですので、そう落胆しないでください。私とて、異世界から無理やり呼び出した事は申し訳なく思っています」
本当かぁ?
「ですが、異世界から呼び寄せるというのは、全能神様がお決めになられた事。その真意は我々下級の神には理解しかねますが……きっと何か理由があってのことのはずです」
「神様の考える事なんて、一般人な俺にはわからねえしな。だが、てめえのミスはてめえで補えよ?」
「そ、それは! はい……サヤさんのことでそれほどお怒りになられるとは……」
「当たり前だ! 俺の大切な! た、大切な……」
「大切な?」
テレシャがニヤニヤしている。こ、こいつ、遊んでやがるな!
「……幼馴染みだからよ」
「あっれれー? おっかしーなー? 先程は、俺もサヤのことうぉっむぐっ!?」
「ソレイジョウ、ハナシタラ、コロス……」
「むーっ! むーーっ!」
テレシャがジタバタと暴れる。テレシャの口を塞いでいる右手に鼻息がかかるが、俺は気にせずに力を強めた。
「ふぁふぁりまひた! ふぁふぁりまひたかはっ!」
そしてテレシャは観念したのか、涙目でそう訴えかけてきた。
「ちっ……」
俺は、突き飛ばすように右手からテレシャを離す。すると彼女は、ゴホゴホと喉元を抑える仕草をし、涙で濡れた目を手でこすった。
「ううっ、ちょっとからかっただけなのにぃ……」
「調子にのるなと何回言えばわかるんだ? とにかく、サヤについては俺も守り通す。だが、サヤ自身のステータスにも気を配ってくれなければ、辛いものがあるのも事実だ」
「はいっ! 先ほども申し上げましたが、サヤさんにも獲得経験値やスキル等の異能を授けさせていただきますので、何卒……」
畏まられるのも微妙な気分になるが、まあそもそもこいつが悪いんだした。暫くふんぞりかえらせてもらおう。
そしてまた、少々問答を繰り広げ。
「--はあ、取り敢えず、一通りは聞き終えたか?」
「そうですね、もしわからない事があれば、サーチングの魔法で調べてみてください。私がこれ以降干渉できないのは変わりがありませんので……」
「そこは仕方ない。俺やお前がぐちぐちと言っても変わる事のない規則だろうからな。じゃ、さっさとお暇させてもらおう。あの草原でいいから、転移させてくれ」
「はい。あ、最後にこれだけお願いします!」
女神テレシャはそういうと、両掌を合わせ、その上に光の玉を作り出した。
「これは、サヤさんの分の異能が込められた玉です。ユーキさんがサヤさんに触れると、私の時間停止の魔法が解除されるとともにサヤさんに与えられますので!」
「そうか、わかった」
「内容については、お楽しみということで。また一から説明するのもなんでしょう?」
「まあ、ステータス確認があるしな。人には使えるんだろう?」
「はい、サヤさんにも使えます。サーチングで無駄な魔力を消費することもありませんしね」
「わかった、それじゃあ、頼む」
「はい!」
そして俺は、何度目かの白く眩い光に包まれた。
「--ユーキさんとサヤさんに、幸多からん--」