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2話 爆発

魔法の名前を変更。

 

「……ユーキ、頭は大丈夫?」


 サヤは俺の断言するような態度を見て、可哀想なものを見ているかのような反応をした。いくら頭が追いつかないからって、この態度はないんじゃないか?


「こほん、当たり前だ。もう一度言うぞ? ここは異世界だ。間違いない」


「……はあ、ユーキ。いくら受験勉強が大変だからって、そんな妄言で逃げようとしてはダメよ? きちんと現実を見据えなきゃ」


 サラは興奮していた頭が一気に冷めたようで、乗り出していた体を元の位置に戻し、両掌を上に向けてやれやれとでも言いたげなジェスチャーをしてみせた。


「に、逃げてねえよ!」


 た、確かに? 少しレベルの高いところを選んだけど? その言い方はないんじゃないかな、サヤさん?


「はいはい、わかったわかった。でもね、ユーキ。もしかしたら、誰かに連れ去られたのかもしれないでしょ? というか、普通はそう考えると思うわ」


「そうは言っても、こんな草原に連れ去るメリットがあるか? しかも、わざわざ勉強机にもたれかかった状態でだぞ? どんな神業だよ」


 俺たちはフィギュアじゃないんだぞ?


「そ、それは……ダンボールに突っ込んだとか?」


「それこそ妄言だな。運ばれる時点で、いや、梱包される時点で気づくだろう。そもそも、どうやって俺たちを眠らせるんだよ? あの部屋には、俺とサラ以外はいなかっただろ?」


「む、むむう……確かに、ユーキも私も、勉強している途中に寝てしまったことはなかったわね」


「更に決定的な点は、今さっき魔法を使えたという点だ。な、異世界だろ?」


「魔法……?」


 サヤは、魔法という単語を聞いて更に訝しげな表情をした。


「さっきサヤに向かって使っただろう?」


「えっと……もしかして、急に気持ちが落ち着いたときかな?」


「そうそう」


「はあ、ユーキは、あれが魔法のせいだっていうのかしら?」


「魔法のお陰な。そこまで疑うか?」


「普通は疑うわよ? 友達が異世界がどうとか、魔法がどうとか言い出してみなさいよ、本気で心配するわよ?」


 んん、そうかあ? ”前の件”がなくても、俺は割とすぐに受け入れられそうだけどな。


「じゃあ、サヤとしてはさっきはどうして落ち着いたんだよ?」


「そ、それは、ユーキの顔をみて安心ゴニョゴニョ……」


「え? なんだって?」


「う、ううううるさい! と、とにかく、そこまで言うなら証拠を見せなさいよ、証拠を!」


「いいぞ」


「え?」


 俺はサヤの注文通りに、魔法を見せてやることにした。


「さてさて、何にしよっかなあ」


 といっても、俺が使える魔法といえば限られているのだが。


「え? ちょ、ちょっと、なんで立つのよ?」


「まあまあ、立った方が力を入れやすいんだよ。さあ、見てろよサラ、異世界の力を……!」


 そして俺は、できるだけ大きめの魔法を発動した。



「<シャイニング・ボム!!>」




 --俺がそう唱えた瞬間、草原が爆発した。




「きゃあーっ!」


 し、しまった!


 サヤは音に驚いたのか、途端に叫び声を上げた。


 そして、ものすごい爆音と爆風が辺りを駆け回る。俺は少し近すぎたかと後悔すると同時に、サヤのことを地面に押し付け、上から被さり庇うような体勢をとった。


「ぐっ……!」


 吹き飛ばされた土や雑草が混じった砂埃が、俺たちを襲う。俺は砂埃や爆風の熱気を凌ぐために、無詠唱で簡単な防御魔法を発動した。


「ゆ、ユーキぃ? な、なんなのいったい!」


 サヤが涙目で俺の顔を見る。庇った時に向かい合う形になったためだ。


「ちょ、ちょっと黙ってくれ!」


 自分で発動したとはいえ、流石にこの威力は集中しなければ危ないレベルだ。俺だけでなく、サヤのことも魔法で覆わなければならないため、消費する魔力も二倍になる。もし途中で魔法が途切れて、サヤのことを傷つけることになってしまえば、間違いなく後悔するだろう。


「う、うぅ、わかったわ……」


 サヤは俺の表情で感づいてくれたのか、それ以上騒ぐのをやめ、目をぎゅっとつぶると同時に俺の背中に手を回し抱き締めてきた。サヤの胸からドクドクと鼓動が聞こえてくる。また、背中に回された掌からはほのかな暖かみも感じられた。



 --そして俺は改めて気づかされた。この暖かい手を、大切な人のことを、とんでもないことに巻き込んでしまったということに……



「……ふ、ふう……も、もう大丈夫か?」


 先ほどまで感じていた、防御魔法にかけられる圧を感じなくなった。一先ず、爆風などは収まったようだ。


「……ぐす、ふうっ……ふえぇ……」


 気がつくと、サヤが泣いていた。ど、どうしたんだ? 爆発がそんなに怖かったのか?


「さ、サヤ?」


「ユーキ……も、もう大丈夫なのぉ? ぐすっ」


「あ、ああ。なんとかな。それで、なんで泣いてるんだよ?」


 俺はサヤの上からどき、と同時にサヤの手を取り起き上がらせた。


「だ、だって、ユーキの顔が怖くて……見たことないような険しい表情だったから……」


「えっ?」


「ま、まるで、親の仇を討つみたいな……ごめん、騒ぐだけ騒いじゃって、うるさかったよね?」


「あ、いや、き、気にするなよ。俺の方こそ、見通しが甘かった。座標指定を忘れるだなんて……2年も経てば鈍るものなんだな……」


 取り敢えずといった気持ちで、安易に上位の魔法を放つべきではなかった。よくある創作物とは違い、生身の身体で魔法を操るというのは、色々と大変なのだ。まあ、ほとんどの行程をすっ飛ばしている俺が言えた義理じゃないが。


「……とにかく、すまなかった。ちょっと驚かすつもりだったんだ。俺の方こそ、剣と魔法の世界であれ、人は簡単に死ぬということを忘れていた。勘が鈍ったで片付けてしまってはいけないな。本当に気をつけるからさ、その、泣き止めよ。な?」


「う、うん……」


 サヤは両手で目を拭い、深呼吸をした。


 ……顔が怖かった、か……もしかすると、まだ心のどこかに戦争の記憶が残っていたのかもな。3年にも及ぶ魔王軍との戦争、大切な人を守りきれたこともあったし、守りきれなかったこともあった。無意識のうちに、サヤのことを絶対を守り抜かなくてはという気持ちが、顔に出てしまっていたのかもな……


 兎にも角にも、調子に乗らないようにしなければ。勘を取り戻せていない以上、下手に戦闘を行いたくもないしな。さっきの爆発を魔物に感づかれてしまったかもしれない。魔王を倒したとはいえ、魔物そのものがいなくなるわけではないのだから。


はあ、サヤを落ち着かせることばかり考えていたが、一番落ち着かなければならなかったのは俺の方だったのか……考えなしに動き回りすぎだな。サヤを危険な目に合わせないためにも、気を引き締めなければ……!


「あの、ユーキ……」


「ん? どうした? まだ、辛いか?」


 サヤが変に落ち着いた声で俺の名前を呼んだ。


「……机は、どこ?」



 あ……



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