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1話 再召喚

 

「……ううーん……」


 俺の耳元から、女性の声が聞こえてくる。


「……んあ?」


 俺は、寝起きな頭をゆっくりと持ち上げた--



 --さわ……さわ……



「……え?」


 すると目の前には、いつも見ている俺の部屋の壁ではなく、



 緑一色の草原が広がっていた。



「……はあ?」


 俺は寝起きな脳みそでは事態を理解できずに、変な声を出してしまう。いや、寝起きでなくても同じ反応をとったであろう。


「どこだ、ここは? 俺の部屋……なわけないよな」


 好きなアイドルグループのポスターも、叔父さんから譲り受けた少し大きめなCDコンポも、漫画本ばかり詰め込まれている本棚も、何一つない。あるのは、10センチほどであろうか、地面から伸びている雑草だけだ。


 それと、先程まで使っていた折りたたみ式の勉強机。そしてその机の上には--



「あっ……つい……んぅえ?」



 俺の見知った女性の頭が乗っかっていた。


 口元から少し涎が垂れている。直上から俺達を照らす光が熱いのか小さな声でそう呟き、目を手で擦りながら、ゆっくりとその長い髪の毛ごと頭を持ち上げた。


「……あう、おは、よう? ゆーき?」


 彼女は、まだ焦点の定まらないぼんやりとした目で俺のことを見つめながら、俺の名前を呼ぶ。普段は真っ黒に見える髪の毛が、陽の光に照らされて少し茶色がかって見えた。



 --そして俺は、ようやく状況を理解し始める。



「サヤ……落ち着いて聞いて欲しい」


「んん? どーいうことぉ?」


 彼女、こと幼馴染のサヤは、首をカクンと傾け甘ったるい声でそう言った。勉強机越しに対面する彼女の側から流れてくる風に乗せられて、サヤのふわりとした女性特有の良い匂いが俺の鼻腔を刺激する。


 おかしい。何故、サヤまでここにいるんだ? ”呼ばれた”のは俺だけじゃないのか?


「サヤ、取り敢えず、目を覚まそうか」


 俺は、推測した状況が正しいかを確認するため、”それ”を発動した。


 サヤの身体が薄緑色に淡く光る。この現象を初めて見た時は、まことびっくりしたものだ。今では慣れてしまったが。


 っと、その前に、きちんと発動できたということは。


「……え? ユーキ? え? こ、ここどこ!?」


 サヤは目を覚まし、周りをキョロキョロと見渡しながら慌て始める。それはそうだろう、俺の部屋で勉強していたと思ったら、いつの間にか見たこともない草原にいたのだから。そして遂に俺は確信した。”それ”が使えるということは、つまりそういうことなのだろう。


「よーし、落ち着け、サヤ」


「ゆ、ユーキ!? なんで!? おうちは? おばさんは!」


 サヤは身を乗り出し、凄い剣幕で俺に迫ってきた。俺の肩を掴みガクガクと揺らしてくる。


「だ、だから、落ち着けって!」


 俺は揺れる体を踏ん張りながら、続けて”あれ”も発動させる。成功したようで、サヤの身体が再び光った。今度はオレンジ色だ。


「え……あ……」


 サヤは次第に動きを鎮める。心なしか、動揺が見えていた目の色も落ち着いたようだ。


「あ、あれ、私……ご、ごめん、ユーキ!」


 サヤは俺の肩から両手を離し、上半身を元の位置まで戻した。


「いや、落ち着いたようでよかった」


「う、うん。なんでか、不思議と冷静になったわ。ゆ、ユーキは? ユーキこそ、落ち着いているようだけど……ここはどこなの? それに、一面草だらけだなんて……あ、頭がついていかない……」


 サヤは今度は眉間にしわを寄せ、ウンウンと唸るような仕草を見せた。


「その気持ちはわかるぞ、サヤ。俺だって初めて飛ばされた時は、意味がわからずサヤのようにあたふたと騒いでしまったものだ。ま、今は大丈夫だがな」


「え、うん、そうなんだ。私の頭の中は現在進行形でパニックなんだけどね……え、初めてって? ここに来たことがあるの!?」


 サヤは眉間から指先を離し、机をバンと叩き再び乗り出した。やはりあの程度では効果が薄かったか。仕方ない、今のうちに全て説明してしまおう。落ち着かせるのはそれからだ。


「ああ、ある。ここがどこなのか厳密にはわからないが、似たような景色は何度も見たからな」


「に、似たような……そ、その景色って、どこで……?」



「うん。サヤ、ここは異世界だ!」



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