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27 鏑木ミレイ

 閉店された店内で、天上アエルはメイドの女の子たちと口々に別れを惜しんだ。

まだ惜しみきれない。

それなのに、天上アエルは客の存在を知った。知ってしまった。

客が来るはずはなかった。通常でも閉店時間であり、何より、店の看板もすでに撤去してしまった後なのだ。

 扉が開き、手帳を見せながら、一人の男が姿を見せた。

「有難う。あなたには感謝しているわ」

 正直な気持ちだった。

アエルが星刑事の動きを奪ったとはいえ、星刑事が協力してくれなければ、アエルは何も成しえなかった。

「……アエルさん、あなたは自分がなにをしたのか、わかっているんですか?」

 十分解っていた。

人間の法では許されないことだ。

神が許したとしても、法は守らなければならないだろう。

「ごめんなさい。きっと……星さんにも迷惑をかけたんでしょう? ごめんなさい。私には……他にどうしていいのか、わからなかったの」

 正直な気持ちだった。

選択肢は他にもあったはずだ。だが、何も見えていなかった。

ミレイが罪を犯したと聞かされてからのアエルは、ただミレイを奪い返すことしか考えられなくなっていた。いま思えば、すべては悪魔の計略だったのかもしれない。

 アエルは両手を差し出した。星刑事が手錠を取り出す。

つながれるのは怖くない。

罪を償えないことのほうが、よほど恐ろしかった。

 視界が奪われた。白と黒の模様がアエルの視界を埋めていた。メイド服だった。メイドの一人が割って入ったのだ。

 星刑事はメイドに、危害を加えるつもりはないことを説明した。アエルのための手錠ではないと告げ、鏑木ミレイの居場所を尋ねた。

 店の奥から、ミレイの声が聞こえた。

アエルを呼んでいた。

アエルは、アエルを助けようとしたメイドの頭を撫でてから、店の奥に向かった。


 ミレイは動けず、椅子に座っていた。

いつものミレイだった。手足のギブスを除けば、ではあるが。

 既に魂を見る力は失ってしまったようだ。

アエルは現在、自分が天使なのか堕天使なのかわからなかった。

少なくとも、肉体を持った身であることは間違いない。ならば、生きなければならない。

人間なのだ。

「アエルさん、私、警察にいきます」

「辛いわよ。きっと苛められるわ」

 ミレイは笑って見せた。

「それだけのことをしたんですから」

 アエルはミレイを抱きしめた。

アエルの背後に、星刑事が立った。

「ミレイちゃんはどうなるの?」

 背中を向けたままでアエルは尋ねた。

「拘留し、裁判を受けてもらいます。証拠はそろっていますから、有罪は間違いないでしょう。ただし、未成年です。極刑はありません。生い立ちを考えれば、情状酌量の余地もあるでしょう。罪を償えば、釈放されます」

 アエルが顔を上げると、ミレイと視線が交差した。

ミレイは求め、アエルは求められるまま、ほほを重ねた。

 立ち上がり、アエルは刑事の目を見つめた。

「あなたと行けば、ミレイちゃんは幸せになれるの?」

「逃げ回るよりはましだと思いますけどね。それに話を聞くかぎり、アエルさんと出会う前の生活よりは、刑務所のほうがましかもしれませんよ」

 アエルがミレイを振り返る。

ミレイは小さくうなずいた。

ミレイの過去を、アエルは何も知らなかった。どうして星刑事がミレイの過去をアエルより知っているのか不思議だった。

人生経験というものだろうか。

「ミレイちゃんと、また会えるの?」

 刑事に尋ねた。

「面会の許可をとれば。取調べ中は無理ですが、しばらくすれば可能になります」

 アエルもゆっくりとうなずいた。

星刑事に向けて片手を差し出した。

星刑事はしばらく戸惑ったあげく、アエルの手を握った。星刑事の表情が緩んだが、アエルは気にせず言った。

「ミレイちゃんを幸せにしてあげてね」

 なぜかメイドたちがいっせいに笑い出したが、アエルの本心だった。

大切なミレイを預けるのだ。この刑事には、ミレイを幸せにする義務があるはずだ。

そう信じていた。


 メイド喫茶『@ホームIN』秋葉原店は永遠に閉ざされた。

 従業員に暗い表情をするものはなく、店長は晴れやかに、みんなの門出を祝った。


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