20 取り調べ所感
メモ帳に走り書きした自分の筆跡を眺め、星黒也はため息をついた。
――悪魔ねぇ。あんなに美人なのに、頭でも打ったのかな。
「星さん、あの女、どうですか?」
たいがい一緒に行動する、大柄な刑事が話しかけてきた。天上アエルのアパートにも同行し、車を運転していた大塚刑事である。
一緒に行動するのは、ペアを組まされているからだ。
「美人でスタイルが良くて、変わり者だな。そこそこの変わり者なら良かったんだが、あそこまで行ってしまうと、寄り付く男もいないかもしれないな」
星は自覚していた。
事実を曲げた。脚色したのだ。
わかっていた。星は、天上アエルに惹かれている。たとえ、どれほど現実離れした夢物語をされたとしても、アエルの印象は変わらない。
「なら、チャンスじゃないですか」
大塚には見透かされていたようだ。星は苦笑しながら応えた。
「まだ、男がいないと決まったわけじゃないだろう」
そうであればいい。まるで祈るような気持ちで手帳をしまいながら、星は、話題が事件と何も関係ないことに気付いた。
「おい、そんなことを言うために残っていたのか?」
「俺は事件のことを聞いたのに、星さんが勝手にそういう話を始めたんじゃないですか」
確かに、思っていたことをそのまま言ってしまった。
「なら、止めろよ」
「今度からはそうします。それで、あの女は、事件と関係なさそうですね。鏑木ミレイのことを一年間もなにも知らずに生活していたってのは不自然ですけど、事件に関係ありそうなら、星さんが惚れたりするはずないですし」
「そうだろ……いや、そうじゃない。なんだその基準は。そもそも、俺があの女に惚れているなんて、いい加減にしろ」
突っ込むべきことが多すぎて、星は混乱していることを自覚した。
大塚刑事は後輩だが頼りになる。その男が言うことだけに、星は動揺した。
めったに冗談を言う男ではなかったのだ。
「悪くないと思いますけどね。外見は文句なしじゃないですか?」
大塚は既婚者である。星より若いが立派に家庭を築いていることもあり、特に女性関係については星に協力しようとすることも多かった。
星自身があまり女性に積極的ではなかったこともあり、いままでは上手くいかなかった。
――確かに……。
思い切るなら、いまだろうか。
時計を見た。本来の終業時間はとっくに過ぎている。もっとも、規定時間通りに働いた記憶はほとんどない。
残業手当をどうやって計算しているのかの記憶すら曖昧なのだ。
時計を見ながら、呟くように、言い訳をするかのように、星は口を動かした。
「今日は被疑者を二人確保した。そのうちの一人は、未解決事件として迷宮入りしそうだった事件だ。取調べは明日以降になるだろうし……今日は帰るかな」
「そうですね。星さんは上がってください。報告書は俺が作っておきます。そういえば、さっきの参考人、正面玄関から出たようですよ。タクシーを拾うつもりみたいで、電話番号を確認していました」
まるで独り言のように大塚は言った。後輩としての気遣いのつもりなのだろう。
顔が笑っているので、成功しているとも言いがたい。
とにかく、星は職場を後にした。




