一秒二猫(いちびょうにびょう)(猫の日記念に気まぐれ投稿)
仕事が急に嫌になって、ついさっき辞めてきた。
病んでいた心にすがすがしい風。
僕は今、家の近くの公園にいる。スーツのままで。
ちらほらいる親子連れの隅で、単独行動の猫を発見。
多分シャム猫だろう。
どってことない猫、どってことない風景だけど
なぜか気になって、猫のあとをつけてみることにした。
特に猫も急ぐことなく、公園の周辺をウロウロしているだけ。
段々追っかけも飽きてきた。
公園のベンチで仮眠しよう。
仮眠のはずが、気づいたら親子連れはもういない。
というか寒いし、夕日出てるし。
なんで2月だというのにコートも着てなかったのだろう。
ベンチから立つと、ふわっと触感とともに足元に登場したあの猫。
どうやら今度は僕が追っかけられる番らしい。
家までついてきてしまった。
我が家は賃貸、ペット不可当然の格安物件である。
こっちも追っかけた建前、なんだか放っておくのは気が引ける。
何を思ったのか、僕はコートを取り急に走り出した。駅の方向へ。
猫のおまわりさんに追っかけられている気分だ。
駅まで僕が逃げ切れば、僕の勝ちでいいかな。
いや、何かが違う。とりあえず閉店間際のペットショップへGoだ。
ネコかご買って、これで引き分けだ!
猫もすんなりとカゴの中に入っていった。
さあこれで準備完了だ。もう走る必要もない。
1人と1匹の超党派コンビで、駅に入っていく。
行く先なんて決めてないが、辞めた仕事のことを思い出すのは嫌だったから
相棒には申し訳ないと思いながらも、帰りのラッシュで混んでいる下り方向を選んだ。
しばし互いに瞑想を続けていたが、終着駅のひと駅前で急に相棒が動き出したので
そこで降りることにした。
ほとんど灯りのない駅前で、相棒を開放してみたところ
勢いよく走っていった。
電車の中で程よく寝違えた体をこき使って、猫のあとを追う。
行き着いた先は、地元の公園によく似ている公園だ。
相棒は昼間と同じような行動を繰り返していたが、わりとすぐ飽きてしまったようだ。
懐かしの半分埋まったタイヤの上で、英気を養っておられる。
僕はまたもやベンチで仮眠を取ることにした。
気づいたら朝日が出ていた。
当たり前ではあるが、疲れが取れない。
古タイヤの上には猫はいない。
椅子の下にもいない。
カゴの中に…いた。
戦いはまだ続くようだ。
今自宅方面へ帰ろうとしたら、確実にラッシュの時間だ。
無職の僕には屈辱だ。
やはりまた下りに乗ることにした。
段々海が近くなり、観光地の匂いもしてきた。
相棒も心なしか、カゴの中で高揚しているようだ。
また、終着駅手前の駅で降りて
海の方向へ歩いていった。
海辺で相棒を解放すると、前ほど勢いよく飛び出しはしなかったが
ヒゲをなびかせながら、ゆっくりと砂浜などを歩いている。
僕はなんとなく相棒が時間を長く潰しそうに見えたから、カゴだけを置いて
このボロボロのスーツ姿を何とかすべく、服屋を探すことにした。
地方で車もないので、目的地に行くだけでも一苦労だ。
なんだかんだで昼もだいぶ過ぎてしまって、あと小一時間で夕方になりそうだ。
カゴを置いてあった場所へ戻ってみるが、置いたはずのカゴがなくなっている。
相棒もいない。
たった2日とはいえ、ここまで共に時間を過ごしたのだから
簡単に諦めることはできない。
日が暮れ、終電が過ぎ、僕は力尽きるまで探した。
砂浜の壁にもたれかかり、朝に気づく。
やはり猫はいない。
疲れがたまり、感情も希薄になってしまった今
僕は、相棒を置いて家に帰ることを決断した。
家に到着するなり、僕は布団に倒れ込んだ。
たまった疲れの発散と、気を紛らわすためにしばらく家に出なかった。
やがて心が安定し、買出しのために家を出た。
帰り道、公園を通り抜ける。
親子連れはいつもの風景、猫はいない。
ただ、ベンチの下に身に覚えのあるものが置いてあった。
この汚れ具合、微かな磯の匂いがする砂。
相棒と旅をしたカゴに似ている。
確信がないのでカゴはそのままにし、家に帰ると
玄関先に確信的な、あの相棒を目にした。
NHKで猫特集やってたのでついつい