あの子が見ている替え芯入れ
学園ものは妄想が命です。
整理・・・因数・・・分解?・・・分解・・・エックス・・・ワイ・・・?
最初の定期テストだからと思って、少々高校のテストを甘く見ていたようだ。目の前の空欄を消しゴムで隠す。さあ空欄なんて見えませ・・・あれ、右にも左にも空欄がある・・・。何か隠すものはないか・・・。あ、替え芯入れ替え芯入れ。それに予備の消しゴム・・・。さて今度こそ完全に隠せ・・・隠した上にも空欄!替え芯の上は取りあえず埋まってるけど、予備の消しゴムの上!ああ、万事尽きたり!・・・一度忘れよう。
私はふっと顔をあげて、スピーカーの上の時計を見つめた。テスト開始前に見たときから、ほとんど長針が動いていない。中央列左側の、前から三番目の席からは、秒針の動きまでよく見える。ついでに、秒針の、チクタクチクタク、という音もよく聞こえる。さらに耳を澄ますと、どうやらカッ、カッ、カッ、カッ、という音も聞こえる。どうやら、時計の音じゃないらしい。「みなさん、よく解けるもんですねぇ~。」と思ってから、少し情けなくなって、また空欄を隠す作業に戻ろうとした・・・が・・・。
あの子・・・何見てるんだろう・・・?ひとつ前の席の女の子・・・天野さんだったかな・・・。その手は止まることなく動いているのに、問題用紙を全く見ていない。彼女が熱心に解答用紙と交互に見ているそれは・・・替え芯入れ?いや・・・替え芯入れに触って・・・。スライドした!シュッって!シュッってスライドした!よくよーく見てみると替え芯入れには一つも替え芯は入っていない。それどころか、替え芯入れにモニターがついていることが分かった。もはやあれは替え芯入れではないらしい。
彼女が替え芯入れ・・・いやモニターをスライドする度に、小さく、ウィーン、ウィーン、という音が聞こえる。私は耳と目を集中させて、彼女の手元を見つめた。・・・スライドした!フィーーーー・・・ンンン・・・という音の元を耳で追っていった。前、後ろ・・・前方!・・・上にあるのか・・・。あ!・・・発見した。天井の汚れのように見える中に、小さなカメラがあるのを発見した。これは先生には見えないだろう。
カメラは私と同じ中央列の一番前、森君の真上にある。森君は、入学式の生徒代表挨拶をやっていた子だ。その時は、挨拶自体より、それが終わった後、自分の席に座った時に、他の子たちより頭一つ出ていたことの方が印象に残ったのだが、後々の噂では、入学試験の成績がぶっちぎりでトップだったとのことだ。
その彼の頭上にあるカメラ・・・モニターを見ながら回答を書く女の子・・・。そのモニターが映しているのは・・・。私は確たる証拠をおさえようとそのモニターをじっと見つめようと・・・したところでチャイムが鳴ってしまった。私はハッとして、下を向いて自分の答案を見た。空欄が、まだ半分はいかないにしても多すぎる。いや、さっきの消しゴム二つと替え芯入れを取ると、半分超えた。負け越しである。
先生がドアを開けて帰った後、私は頭を抱えて机に突っ伏していたが、ふと、目の前の動かない背中に目がとまった。私は胸がドキリとした。頭を抱えていた手をサッと下におろしたが、その手はちょっと震えていた。さっきまで目と耳に労力を取られて、一切使っていなかった頭がせっせと働き始めて、同じ問いがグルグル頭を回った。
「・・・何?」と、抑揚の無い声がしたので、ハッと前を見ると、細い目が横目でこちらを見ていた。私の手は、知らぬ間に、彼女の背骨にチョンと触れていた。グルグルしていた頭は考えを放置して、「どうしよう」しか言わなくなった。私は、口を開こうとしたが、唇がプルプルとしただけだった。足は机の下で縮こまって使い物にならないので、手を机にグッと押しつけ、体をなんとか支えていた。手をギュッと握ると、なぜか少し強気になったので、何とか言葉が出てきた。
「さ・・・さっきのテストさ・・・。」
「・・・何?」と答えながら、彼女は手を椅子にかけてグルリと腰を回して、まっすぐ私を見た。心なしか、少し目を見開いているように見えた。なんだか責められているような気がして、私はうつむいてしまった。
「ちゃ・・・ちゃんとできた?」と、私はわざと明るく聞いた。
「うん・・・できたよ。」と、言い終わるより前に、彼女はまた前を向いてしまって、私はまたその背中を見た。私は、ふぅーーっと深い息を吐いて、また机に突っ伏した。
でも・・・これって多分いけないこと!何とかして止めさせないと!
急に妙な使命感とやる気が湧いてきて、私はしっかり足を地につけて、次のテストに備えた。
主人公の名前をいつ出すんだ。今でしょ。