おいちゃん、お団子一つぅwww
異世界、それは未知なる世界――
異世界、それは果てなる世界――
そう、これは、変態の、変態による、変態のための、ちょおぅ!! ファンタジーストーリーなのであぁるぅ!!!!
サアァ……。鬱蒼と生い茂る雑草が、柔らかな風に当てられ揺れ動く。
静寂と化しているこの場では、それがイヤに耳に届く。
そうか、これが緊迫した空気って奴なのか。そんな事を肌で感じつつ、手足に力を込める。
『フシュルルルルルルルルゥ……ッ』
どうやら対面するモノも、このイヤな空気を感じ取ったのだろう。一つ息を吐く。
彼我の差は三十メーターあるかないかの付かず離れずな距離。
無意識にジリリと足が動く。臨戦態勢に入る。
ゆっくり、じっくりゆっくりと俺は足首を器用に横に動かし、そして――――今だ!!
――――俺は体全体を翻し、猛ダッシュで対面するモノから距離を取った。
そう、これは俺が近距離戦闘や中距離戦闘を苦手とし、遠距離戦闘すらも苦手故の索。
所謂、俺には、これっぽっちも、戦闘の、心得なんてもん、無いって事ですわwww
敵が、いや、獲物が逃げたのだと、そう気付いた奴は、脱兎する此方へその強靭な四本足で猛追してきた。
ダッダッダと走る俺に対し、ダダダダダダダッと猛追する敵。
圧倒的に相手速すぎますからwww そもそも只の一般人Aどころか一般人Zにすら加わらない様な落ちぶれた一般人なこの俺が、こんな三食プロテイン生活した狼みたいなモンスターから逃げれる訳も無かろうにwww
そんな風な事を耽りながら逃亡するが、無論、脱兎する前から分っていた通り、見事に追い付いた狼モドキは、背後から食いかかって来る。
おいおい、そんな積極的だと草食系な俺はもっと避けちまうぜ? こういう時は少しずつ外堀から埋めて襲うんだよ。
なんて冗談を思う暇もなく(ちゃっかり思ってるが)、その場から真横にダイビングする。
グキッ!
ザスッ。
前者が俺の手首から放たれた音で、後者が狼モドキの着地音だ。
うぇっwww うぇっwww 今どんな気分?www 仕留めたと思った獲物に避けられるってwww くやちぃ?www くやちぃでちゅか?www
思うだけだ、言いはしない。何故か言ってしまったが最後、まさに俺の人生の最後の言葉、遺言と化してしまう気がしたからだ。
それにだ、避けたとはいえ、大きな代償が出来てしまった。なにせ手首を捻挫しちまったんだからな……。ちっ、こんな事なら中学んときの体育であった柔道の受身の練習をもっとしっかり学んどくべきだったぜ。などと後の祭りな思いが浮かぶ。
因みにあの時はむさ苦しい男子で体を密着させるという圧倒的にヤバイもんだと考えていたのでサボタージュして女子のバレーを見学(許可無く)しに行っていたな。
そこまで思い出して、意識の集中を目の前の狼モドキに戻す。どうやら敵さんもそろそろ襲い掛かりそうな雰囲気だ。
ったく。一体全体どうしてこんな命をかける場所に、状況に陥ってんだよ、責任者出て来い!
少し、そうだな、一万年と二千年(俺からして約三時間ぐらい)前程まで、記憶を遡ってみようか。
キーンコーンカーンコーン、四限目終了の合図が校舎全体に鳴り響く。ここからは二次元目のターンだぜ! とまぁ冗談を心中のみで加えつつ、自席を素早く立ち上がる。
急ぎ歩く。なにせ今日ずっとこの瞬間を待ち侘びて居たのだ。
どうして待ち侘びて居たのか。それに対する問いの答えは単純明快。
――腹が減っているからだ!
――本日は、とある重要な任務のため、朝食を逃してしまったのだ。
それはとてつもなく大事で、俺の人生において第一優先すべき行為。
その行為に及ぶため、朝早くから学校に来なくてはならず、朝食を口にする暇すらも無かったのだ――。
詰まるところ用事があって朝早かったから朝飯抜いたから腹が減ってて、この昼休みを待っていた、というわけだ。
きちんと椅子を机に仕舞いつつ早足に歩き出す。
そんな急いでいる俺に、不意に声が掛けられる。
「遊人君、そんなに急いでどうしたんですか?」
背後から名前を呼ばれたので振り向く。
本来ならば無視して一直線に学食に向かいたいのだが、あまり焦っている様子を見せると俺の行為がバレて……否、知られてしまうので、ここは平静を装うため少し話した後に退出した方が賢明なのである。
体を反転させた俺の前に見ゆるのは、一文字で言えば『美』だった。
長く流れる黒き艶やかな髪。柔和でどこか安らぎを与える落ち着きある顔立ち。そしてそこから素晴らしい凸凹を兼ね備えた体躯。
頭の先から足のつま先まで文句無しの清潔感煽るる彼女は、完成された大和撫子だった。
初対面の者ならば性別問わず見惚れること間違いなしな容姿を持つ美少女から下の名前で呼ばれるとか俺マジリア充www なぞと思いながらに、返事をしてやる。彼女に見惚れるなんて事は、十年以上前に卒業している。話し掛けられてどもる男子生徒みたいな事も無く。
「いんやーwww それが朝飯食って無いから腹減っててなwww ちょっとそれが耐えれ無いんで急いでたんだわwww」
ここで嘘を言っても高確率でバレてしまう。この者はどうやってか俺の嘘だけは90%、いや、95%以上の確率で見破るのだ。
勿論本気の本気で黙そうと頑張ればどうにか出来るがそんなの毎回の嘘で出来るわきゃ無い。
となればこういった時は言いたくない部分のみを言わずに事実を伝えるのだ。
「そうですか、良ければ一緒にどうかと思いましたが、今日は無い日でしたか」
無い日、とは省略しているが恐らくは弁当が無い日、って事だと思われる。
その物言いから察せれるだろうが、週に少なくて三回、多くて毎日弁当を作ってきているのだ。
持って来ているでは正確ではない。作ってきているのだ。要するに自作なわけだ。
がしかしこの度は朝飯も食べれ無かったのに弁当を作る暇なぞ当然有る訳もなく、彼女風に言えば無い日なのだ。
「あぁ、てなわけで今日は無理だわwww 悪いな、また今度誘ってくださいなwww」
じゃ、と手を挙げて返事も聞かずにその場を後にする。
他の男子生徒からすれば、あの聖女の会食の魅力的な誘惑(誘いでは無い)を断るなど有り得ないと述べるだろうが、俺からすれば今の彼女は敵だ。聖女よりも魔女だ。一瞬でも気を抜けば奈落へと落ちるのだ。
教室を出て食堂へ……。
着いた食堂は、出遅れた事も有りそれなりに盛況していた。我が校の食堂は全校生徒の約八割が座れる広さを誇る大きな空間を持つ。(無論キツキツにはなるが)
今は全体の二割と一番混む段階よりも二段階は低いので良しとする。
人の合間をスルスルと抜き歩く。さながら忍者にでもなったかのようなその素晴らしい動きは――
「いちっ、おっと……。悪いな、ただお前も気を付けて歩けよ」
――ぶつかっちゃいましたwww
調子乗って紙一重で行ってたらお盆持った先輩と衝突しましたわwww どっちかってぇとこっちに非があるのに謝罪するとは優しい先輩だwww
「さーせんっしたwww」
それに比べて俺は簡単に謝って反省無しにまた紙一重で抜き歩くとかwww 駄目な人間だなwww←
へらへらと歩き券売機の列に並ぶ。人数にして八人。他の券売機の行列もさほど変わらない人数なので移動はしない。
適当にスカートと絶対領域の事を考えながら待つこと数分、漸く順番が回ってくる。
目の前の券売機には様々な料理の名前が貼られたボタンが並べられている。
サイフから千円一枚を挿☆入(☆に他意は無いよ?www ホントだよ?www)しつつどれにするかを選ぶ。
選ぶと言っても主に食べる品は三品なのでそこから絞るだけだが。
オムライスは前回食べたし、牛丼もその前に食べたからなー、ただサンドイッチじゃ今日は足んないしなー……。
結局そのメインメニューの三品は全部脳内判決で却下となる。
何時もならこの三品から選んでるんだよ? ホントだよ? などと誰に対してか分からない言い訳を心中でしながらに券売機のメニューを見ていく。
※ハンバーガーセットランダム、親子丼、※寿司セットランダム、わたあめ、りんご飴、輪投げ、たこ焼き、焼きそば、ドネルケバブ、チーズセット、十段アイス、お好み焼き、※うどんセットランダム、サバ定食、フルーツ盛り合わせ、ハンバーグ定食、※ラーメンセットランダム、――――ってなんで直々変なメニューを挟むかねっ!www わたあめからの祭にあるある屋台シリーズが連続で来てるし、つか輪投げとか最早料理じゃないし、『※ハバネロをふんだんに使うセットが出てくる可能性が有ります』ってwww 自由に選ばせろや!www なんでランダムにすんだよwww アホかwww
おいおいこんなに学食のメニュー死んでたのか?www 俺が知らなかっただけか?www
これ以上長居しては後ろで待っている先輩やその他諸々がいつまでたっても昼飯を食えないので、俺は料理を選ぶ事にした。
ポチッとボタンを押すと、ういいいぃぃーーんと実に機械的な音をさせつつ、券を出す。
券を手にしてからその場を離れながらにきちんとその券が自分の選んだものかを確認する。
『魔法を宿す未知のファンタジックフーズ』
かなり長い料理名という点と、その名前からでは全く想像も出来ないという点からこの品を選んだのだ。
どれだけの数を売っているのかは分からないが、何となく数食限定だと思える。モチのロン確証も何も無いがなwww
ただ買う価値アリとは一目で判断出来た品だ。何も分からないのにねーwww
ただ買った券の色が――普通の券なら白紙に黒字なのに対して――銀紙に金字と実に派手やかな見た目をしている。
少し得した気分だ。
券を料理を作っているおばちゃんに……渡そうと思ったが、どうした事か券を受け取るあの馴染み深いおばちゃんが変わって――三十代後半だろうか、少し髭の濃い――おっさんになっていた。
「誰がおっさんだ誰が」
不意に券を渡そうとした手を止める。
――――え? 今もしかして俺口にした?
おっさんとは思っても口にする程失礼な人間ではない。綺麗or可愛い異性にタッチする際もしっかり一度許可を取る。
「その胸揉んでいっすか?www」モミモミ
とな。……許可を取りはするがその可否は無関係である、ただの痴漢だと相手は言うが、俺からすればただのスキンシップである。誠に犯罪ですねありがとうございますwww
閑話休題それはさておき。俺口にしたっけと思っている俺を見て、おっさんは何処か「しまった」といった表情をとる。
そして目を逸らしたと思うとこちらを見て破顔する。
「俺口にしたかとか思ったろ? もうその反応は今までの生徒からされたから分かったんだよ」
あーだからね、とは心底からは思わない。何やら嘯いていて見える。が証拠も無いし気の所為だろう。
「これよろしくお願いしまーすwww」
あいも変わらずへらへらとして券を渡す。
券を渡すとおっさんが反応を示す。
「お、これ神料理じゃねぇか、良かったな、お前」
どうしてか喜ばしげに券を受け取るおっさんの言葉……神料理。
やはりこの品は通常のそれとは違うようだ。
それだけで俺のテンションは上がる。
「この料理はな、取り敢えず今日だけで、かつ一品限定の超超ちょーう!! 特別なメニューなんだよ」
それを聞いて益々テンションが上昇する。
弁当作らなかったせいで我が校の美女、大和撫子と会食出来なかった事など今やいい思い出。
作らなかった俺万歳! 朝の俺ナイス!
自画自賛している俺に、おっさんはその場から離れる。普通ならその場で中の料理人らに声を張って伝える訳だが、どうした事だ。
首を傾げるがおっさんがそう(声を張って伝える)しなかった理由が即座に判明する。
「おら、魔法を宿す未知のファンタジックフーズだ」
一分もしない内におっさんが帰って来ると、お盆を目の前の台に置く。
本来ならその券を確認するだけで返還して、出来上がった料理を隣のトレード場でトレード(料理と食券)するのだが、今回は券は返されずに料理を直に渡された。
実に何から何まで普段とは違うらしい。今日の俺ツイてるうぅ!
――――そう思っていた時期が俺にも有りました。
なんと、運ばれてきた料理は……、
「え?www 何これ?www 一口サイズの団子が一つだけ何だけどwww」
大層大きなお盆の上の、大きな皿に、それは小さな小さな団子が一つだけ……。
因みにお盆や皿は普通のサイズだがその上の料理(とすら呼べない)が余りにも小さいため比較対象的に表現しただけだ。
つまるところ小さい。いや、二百円っつう安さからあんまそこまでは期待してなかったけど、ここの食堂案外安価だからそれなりのもんかなってぐらいは思ってたんだよ。
それがお前コレ、一口サイズの団子一個ってwww 一口サイズの団子一個ってwww(大事な事なので二回言いましたwww)
流石のこれには温厚平和主義略して温和なこのワタクシの堪忍袋の緒も切れるっつうか切られたと言いますか。
「オイオイおっさん、あんたコレふざけてんの? 商売する気あるわけ? あんたもしかして舐めてんの? 餓鬼だから何も文句言わないと思ってるでしょ? 一つだけ言わせて貰うよ? ……頂きます」
俺は素直にお盆を受け取る。なぜかなんて理由は無い。強いて言うなら既に買ったからだ。コレを買って後悔していない。
なにせ本日限りの一食限定の団子だ。それは小さかろうと大きかろうと変わらない。なら得をしたろう。俺しかこれは口に出来ないのだから。
ならば喜んでコレを受け取ろうではないか。堂々と頂きますを言って食べようではないか。
そう考え、お盆を両手に、その場を離れた。
そう、決しておっさんの凄まじい睥睨にビビリ慄いた訳では、そう、決して、あるわけが無いのだ――――。
ズルズルズルズルとコシの入った麺を啜る。
あの後流石にこれだけでは足りる訳でも無く、新しくうどんセットランダムを購入した。肉うどんにご飯と唐揚げのセットだ。
そのセットの隣には未だに手を付けていない未知の団子さん。
見た感じ団子(実際はオニギリかも知れない)なので食後のデザートとして押さえている。
ゴクゴクと器を持ち上げうどん汁を飲み干す。
「ぷはぁーっ……」
机上に器を置いて一息つく。
爪楊枝で口の中のネギやら何やらを取ったりして、団子を見やる。
色は赤。真紅と表現出来よう真っ赤な色の団子。ただ匂いを嗅いでみたがほんのりと甘い香りが漂うだけで、鼻を刺す辛味を思わせる匂いはしなかった。
もしこれでハバネロ使用だったら俺は許さない。地の果てまであのおっさんを追い掛けてやる。
ふう、と息を吐き、うどんセットを脇に退け、団子の皿を手前まで寄せる。
が手は出さない。如何せん不気味なのだ、この団子は。
今日限定、謎のおっさん、この色合い、もう――草葉の陰から望遠鏡で遠くを見ているスーツ姿の人程に――怪しい。
――――何が有るのか、この団子に……。
勿論どれだけ考えようとも出来るのは推測だけで、実際の所は食べてみてからのお楽しみなのだ。
これだけ疑っておいて、何も無い、唯々美味い団子なだけかも知れない。
なので考えるのは止め団子を二本の指で持つ。
肌触りは滑らか。粉すら掛かっていないのか手には何も付いた様子はない。
よし、と軽く気合いを入れて俺はその団子を口に入れた――――。