鳥取城の戦い①
経家は考えていた。
このままでいいのか。
人が人らしく生きられなくていいのかと……
1581年、
吉川経家は鳥取城に入城した。
その前年、もともと鳥取城の城主だった山名豊国が
突如羽柴軍に降伏。
それを良しとしない家臣団に豊肉が追放されたため
毛利家の山陰担当である吉川元春の親戚である経家が城代として城に入った。
「経家様、お待ちしておりました」
鳥取城で経家を待っていたのは
山名家の家老・中村春続と森下通与であった。
「これからよろしく頼む」
挨拶もほどほどに経家は早速城の見回りに向かった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「こ、これだけか?」
経家は驚きを隠せなかった。
なんせ兵糧庫にある兵糧が3ヶ月分しかないのだ。
「これから羽柴軍がやってくるが、
雪が降りはじめればいくら羽柴軍といえども撤退せざるおえないはずだ。
だから最低限雪が降り始めるまでの5か月の兵糧が無ければ話にならない」
山名の家臣たちは戸惑った。
「何を隠している」
「じ、実は……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「は~」
山名の家臣たちの話によると、
数か月前、どこからか商人が来て、
時価の2倍の額で米を買い取ってくれるといわれ売ってしまったらしい。
「それは罠だ」
落胆する経家だったが、
いつまでもそうではいられない。
「皆、千代川に砦を築け」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
千代川は日本海につながる川であり、
籠城をする上ではとても重要なところである。
「皆の者、心配はいらぬ、
今元春殿に兵糧のことについての書状を送った。
そのうち元春殿の軍勢が兵糧を持ってきてくださるだろう」
沸き立つ城内、
これで籠城の準備は整ったと思っていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
経家が鳥取城に入って数か月後、
羽柴軍が鳥取城にやってきた。
だが、元春の軍勢はやってこない。
経家は焦っていた。
「羽柴軍が鳥取に来たというのに元春殿は兵糧を持ってきてはくれない。
しかも羽柴軍は千代川の河口に砦まで築いている」
だが、経家は焦りの色を見せず軍議に向かう。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
軍議の結果、
経家と中村春続と森下通与は鳥取城に、
向かいの堅山・雁金山には山名家家臣の塩冶高清が、
千代川に築いた砦には但馬の海賊・奈佐日本助が籠ることとなった。
すべての拠点で心配なのは兵糧であるが、
経家は力強く言った。
「元春殿は必ず鳥取城に兵糧を届けてくださる。
心配はいらぬ」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
籠城からしばらくが経った。
鳥取城の周りには羽柴軍が包囲網を張っている。
兵糧を底を尽きかけていた。
そんな中、城内の兵たちが騒がしい。
「一体何があったのだ?」
そう聞くと、兵たちが一斉に海のほうを指差した。
その方角へ目を向けると
一文字三ツ星の旗を掲げた船がこちらに向かってきている。
「毛利の船だっ」
経家は思わず叫んだ。
その瞬間、人々は歓喜した。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
しかし、その歓喜はすぐに絶望へと変わった。
「ふ、船が沈んでく……」
一文字三ツ星の旗を掲げた船が織田の軍勢によって沈んでいく。
その瞬間、城内から言葉がなくなった。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
それからの城内は今までとはがらりと変わった。
兵士たちは気力を失い、
兵糧も尽きてしまった。
しばらくは木の皮や実を食べ、それがなくなると軍馬を食べた。
日に日に苦しくなる食糧事情とは裏腹に、
鳥取城を囲む羽柴軍は毎晩のように宴会を繰り返す。
その声を聞き城内はさらに気力を失っていく。
そして遂に、地獄が始まる。