王宮・小姑・利害の一致(2)
2.
反対者には反対者の論理がある。
それを聞かないうちに、
いきなりけしからん奴だと
怒ってもはじまらない。
問題の本質的な解決には結びつかない。
- 渋沢栄一 -
「どうもこうも、鐘の音が聞こえただろう。そういうことだが?」
怒れるラ●オンキングを前に、エドゥアルトは表情を崩さず答えた。
その返答がお気に召さなかったのか(まぁ、お気に召すわけがないのではあるが)、赤毛のライ●ンキングは額に青筋を浮かべ、まさに怒髪天を衝くといった様子であった。
そのうち、どこかの戦闘民族よろしく、スーパーサイ●人にパワーアップしそうだ。
「・・・つまり、そこの妖精と契約したということですか。」
チラリとライオン●ングがアスターを睨む。それだけでアスターは失禁しそうだった。
エドゥアルトも迫力があるが、この男のほうがムキムキな分威圧感がある。怒っていてこちらに敵意むき出しというのも大きいだろうが。
蛇ににらまれた蛙よろしく、アスターは冷や汗を垂れ流すしかない。変に口をはさんだら、どえらいことになりそうな予感がひしひしする。
「ああ。アスターという。平凡な顔つきだが花妖精だ。」
「私が聞きたいのは、彼女の名前ではありません。なぜ、議会も通さず、何の相談もなく契約されたのか、伺いたいのですが。」
「必要か?」
「当たり前でしょう!あなたは一国の皇帝、それもこのブルーム・エアデの皇帝なのです!
陛下の行動の一つがどれだけ国民や周辺諸国に影響を与えるかよくお考えになっていただきたい!そこの妖精の出自も調査してないのです!
・・・兄さん、あなたもあなただ!あなたが居ながらこのようなことを許すなんて!」
ちょっとまて。
もっともだなぁ、と感心して聞いていた激高するライオンキ●グの言葉の中に聞き捨てならないものがあった気がする。とアスターは冷や汗が一瞬で引っ込んだ。
「兄さん?」
「あ、私のことですよぉ。」
ライオンキン●の怒りなど感じていないかのようにひらひらとベルタが手を上げる。
「この子はぁ、私の弟で、宰相補佐しているアンニーバレっていうのぉ。一応伯爵ぅ。宰相である父が今諸国漫遊の旅に出てるのでぇ、実質宰相的な感じなのぉ。気難しい子だけどぉ、仲良くしてあげてねぇ。アンって呼ぶと喜ぶからぁ。」
「いや、そっちじゃない!」
アスターは思わず、小さな全身を使って突っ込んだ。
というか、この厳ついラ●オンキングを気難しいで片づけていいのだろうか。
「兄さんって何!?姉さんじゃなくて?」
「ああ、そっちですかぁ。まだ未改造なのでぇ、兄であってますよぉ。」
「未改造!?」
未改造ということはつまり、ベルタの本当の性別は男であって、まだ男性的なあれやこれを改造していないから女ではないということか。
しかも兄弟は似てなさすぎる。
金髪で線の細い美女兄さんと、真っ赤な髪の毛の厳つい人が兄弟ってどんなマジックだ。兄弟なのにリアル美女と野獣とはこれいかに。
「まっ、それはともかくとしてぇ。アンったらよく考えてみてよぉ。私は陛下の護衛であってぇ、陛下のお決めになったことに意見するなんて恐れ多いっていうかぁ~。」
「そうですか。本音は?」
「面白そうだからぁ、ほっときましたぁ。妖精ちゃんも悪い子じゃないみたいだしぃ。」
ブチっと何かが切れたような音が部屋に響く。
アンニーバレ・・・アンの顔は怒りのあまり、赤を通り越して青い。
「良い子悪い子の問題じゃないでしょう!素性の知れない者が陛下のお傍にいるというのが問題なのです!陛下に悪意を持っている者の息のかかった者だったらどうするのですか!」
ギロリとアンがアスターを睨む。
一度止まった冷や汗がまた吹き出る。アスターの手なんて、びしょびしょ過ぎて、ハンカチを忘れた小学生のようだ。
「そこの妖精・・・アスターだったな。なんの花妖精だ。」
「え、えっと・・・。まんま、アスターって花で、蝦夷菊とも言いますけど・・・。あ、この花です・・・。」
床に落ちている花を拾い上げる。
花を睨みつけるアンの眼光はまるで親の仇でも見ているかのような鋭さである。
「親は。」
「いないです・・・っていうか、私花から生まれたタイプの花妖精なんで・・・。」
その言葉に、以外だとでもいうようにエドゥアルトが口を開いた。
「ほう。お前花生まれの妖精だったのか。」
「その割には没個性的な感じですねぇ。」
言いたい放題言う二人を一瞥するだけで、アンはアスターへの尋問の手を緩めない。
「今まで人間と契約した経験はあるか。」
「ないです。」
「何のために、陛下と契約した。」
「え、なんか・・・。騙されて?」
そのアスターの返答を聞いた途端に、もともと般若のようであった顔が、さらに強張る。
もはや阿修羅のそれである。
気を抜いたら真っ二つにひきちぎられそうだ。
「・・・騙されて?」
「あ、いや、でも、今は契約する気あります!芋食べ放題だし!」
「芋・・・?まぁ、いい。それで、お前は何ができるんだ?」
「え、何って?」
「仮にも!陛下と契約した妖精なのだから何か特出した能力があるのだろう?特に、花生まれのような自然が生んだ妖精はその力も強大だと聞く。だからお前は何ができると聞いているんだ。」
仮にも、という部分をやたら強調されたアンの言葉にアスターは固まった。
何ができる。
何ができるといわれても困る。
アスターは確かに花生まれであるが花生まれの花妖精の中でも異例中の異例。
特に秀でたところもなければ、そこまで何もできないというわけでもない。
しいて言えば器用貧乏。何もかもが平凡な花妖精らしからぬ花妖精なのである。
急に特技をいえと言われても困る。
しかし、特技なんてありません、といったが最後、花占いの花のように、そのまま引きちぎられて窓から捨てられそうである。
熟考したいところだが、10秒以内に答えないと特技はないものとみなす、とアンの目が語っている(ような気がする)。
アスターは慌てて口を開いた。
「は、占い!花占いが得意です!私の花ってよく花占いに使われるから、それで!」
「他には。」
「ほ、他?えー・・・。」
もう何もない。アスターは縋るような気持ちで事の原因であるエドゥアルトを見上げた。
もう状況を打破できるのは一応アンの主君であるコイツしかいない、そう思ったからである。
一方、エドゥアルトはアスターから縋るような視線を受けて、顔に出さずにときめいていた。
男というものはいつの時代も好いた子から頼られたい生き物である。
むしろ、アンに対し、いいぞ!もっと追い詰めろ!とすら思っていた。好きな子が追い詰められて自分を頼る・・・信頼を勝ち得て恋愛フラグをおっ立てるには最適なシチュエーションである。
無表情の下に下心を隠したエドゥアルトはアンに向かって言った。
「アン。俺が選んだんだ。例え花占いしかできない役立たずな妖精だったとしても・・・。」
「オイ、言いすぎだろ!」
助けを求めたら喧嘩売られた。
アスターは自分の味方が誰なのかわからなくなった。むしろ、アンのほうが正当なイチャモンなだけ、限りなく自分の味方なんじゃないのか、とすら思えてきた。
「それでも、俺はコイツがいい。」
エドゥアルトの言葉に、アンが毒気を抜かれたような顔をする。
「コイツじゃなきゃ、ダメだ。・・・どんな能無しでも。」
ともすれば熱烈な告白のようであったが、前後の言葉のせいで、まったく台無しであった。
遅くなりましたが、更新しました。
いまだに小説内では一日もたっていないという事実に、私が驚きました。
次もなるべく早くあげられるようにいたします。