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皇国妖精恋歌  作者: yogu
第一章
7/16

王宮・小姑・利害の一致(1)

1.


状況?

何が状況だ。

俺が状況を作るのだ。

- ナポレオン・ボナパルト -



「くっ・・・・。」

「くぅ?」

「クーリングオフを要求するっ!!」

「なにっ!?」

「あらあらぁ。この期に及んで抵抗とは妖精ちゃん中々ガッツ溢れる子ですねぇ。」

このままじゃヤバいと確信したアスターの瞳は燃えていた。

具体的にいうとどこかの王様に腹を立てたメ●スさん(職業:羊使い)並みに、権力に抗おうと必死であった。

アスターは妖精と人間の契約には明るくなかったが、契約とは正しい手続きを踏めば解約できるものである。

詐欺同然にひっかけられたのだから、クーリングオフしてしまえば問題あるまい。

「おい、ベルタ。普通ここは俺の美しさに見蕩れ、雰囲気に流されるところではないのか?(小声)」

「そうですねぇ。陛下の無意味に完璧な造形をもってすればそうなるはずですけどぉ・・・。妖精ちゃんは予想以上に普通の子じゃないですねぇ。(小声)」

エドゥアルトとベルタはアスターのガッツに慄いていた。

だがしかし、エドゥアルトもここで引くわけにはいかない。

「残念だが、クーリングオフは認められない。」

「はぁ!?」

「基本的に妖精と人間の契約は互いの魂を結ぶものだ。一度互いの魂に深く刻まれた縁は断ち切ろうとも断ち切れるものではない。」

「つまりぃ、恨むならぁよく考えずに契約してしまった自分を恨めってことですねぇ。」

なんたることだ。アスターは目の前が真っ暗になる心地がした。

多少怠惰に生きていたとして、基本的には善良に花妖精らしく過ごしていたというのに。

鳥に食べられそうになったら、目の前の悪鬼二人エドゥアルトとベルタに騙され、搾取されるとは昨日まで考えたこともなかった。

あの鳥、次に会ったら焼き鳥にしてやりたい。アスターは基本的に草食だが、やってやれないことはない。皮までおいしくいただいて、羽はきれいに消毒して羽毛布団にしてやる。

アスターがひっそりと仄暗い決意をしていることなぞ全く知らないエドゥアルトはアスターを逃すわけにはいくまいと内心どぎまぎしながら、表面上は冷静を装って告げた。

「もちろん、ただでとは言わん。お前の望むものをなんでも報酬として与えてやろう。」

「え?」

「おお~!陛下太っ腹ぁ~。妖精ちゃん、金銀財宝土地爵位、なんでもねだり放題だよぉ。しかも三食昼寝付きもオッケーだしぃ、妖精ちゃんは花妖精だからもちろんご飯は最高級の花の蜜だよぉ。しかも食べ放題ぃ。こんな雇用条件中々ないよぉ。」

思わずアスターは目を見開いた。

なんでも、なんでもといっただろうか。目の前の男は。しかもその部下はニートにとって理想的な雇用条件を上げた気がする。

もしかしたら、念願の夢がかなうのかもしれない。

ゴクリ。

「じゃ、じゃあ・・・!三食種類違いの芋食べ放題、花壇付も可能なの・・・?」

「ああ・・・。・・・・・・・芋?」

何やら鬼気迫るアスターの勢いにのまれて頷いたエドゥアルトだったが、馴染みはあるがこの局面で出るはずはない単語に首を傾げた。

「や、やっぱりダメ?毎食種類違いの芋は贅沢すぎだよね・・・。えーと、おんなじ種類でもいいんだけど・・・。」

「いやいやぁ、そうじゃなくってぇ。花壇はわかるけどぉ、なんで芋ぉ?花妖精の主食は蜜でしょぉ?」

もじもじと恥じらうアスターに見蕩れて言葉が出ない主君に代わり、ベルタが尋ねる。

つくづく、いい年こいて初恋をこじらせた恋愛童貞である。

「ああ。確かに蜜は好きだよ。でも芋のほうがもーっと好きです!」

「いやぁ、そんな鼻息荒く『キリンさんが好きです』みたいに言われてもぉ・・・。

っていうかぁ、毎食種類の違う芋を用意するくらい朝飯前ぇ?むしろ蜜より安上がりだと思うよぉ。ですよねぇ、陛下ぁ?」

アスターの勢いにやや引きつつ、ベルタはエドゥアルトに投げかける。

エドゥアルトは油を差し損ねたロボットのようにぎこちなく頷く。

いまだに好きな子の恥じらう姿を見てしまったショックから抜け出せていないようである。

しかし鉄仮面が幸いしてか、動きがぎこちない以外はいたって平常に見えた。

「お前の望みが花壇と芋ならば、用意させよう。調理法もお前の好きにするといい。」

「ほんと!」

「ああ。だからお前は安心して俺に仕えればいい。」

アスターの中で騙されたことと、芋が天秤にかけられる。

騙されたことは正直ムカつく。しかし芋をくれる人に悪人はいない。

クーリングオフはできないといったが、多分森に帰れば契約を破棄する方法はわかるだろう。妖精はそういう魔術の抜け穴に詳しい。

でも芋は食べたい。三食芋生活はアスターのあこがれだ。花妖精の主食は蜜だから森に帰れば滅多に芋が食べれない生活に戻るだろう。

芋かプライドか。

アスターはこれまで生きていた中である意味最大の選択を迫られていた。

しかし。

「芋は食べれるけどプライドは食べられない・・・!」

ぐっと拳を握ると、アスターはエドゥアルトを見上げた。

「決まりだな。」

ふっとエドゥアルトが目を細める。うまくまとまったことにご満悦らしい。

「じゃあ、雇用契約も結んどきますぅ?一年更新ですけどぉ。」

「あ、その辺しっかりしとくんだ。」

「当たり前ですよぉ。雇用契約結んどかないと、手当とかボーナスとかでませんよぉ。」

その辺りはファンタジックな世界観の割に現実的だな、とアスターは独り言ちた。

「我が国はクリーンでホワイトな政治がモットーだからな。」

「本当にホワイトでクリーンな政治する人は詐欺なんてしないと思う。」

アスターがぼそっとつぶやいたその時。

廊下から言い争うような声が聞こえてきた。

『・・・様!陛下は只今・・・でして・・・!』

『・・・さい!・・・もそこだろう!・・・』

「あー。ヤバいですねぇ、陛下ぁ。」

言い争う声を聴いたベルタがほんとにヤバいと思ってんのかお前、と問い質したくなるような余裕のある笑顔で口を開いた。

「そうだな。あいつのこんなに憤慨している声を聴くのも久しぶりだな。」

「激おこってやつですねぇ。いやまぁ、怒るだろうなぁとは思ってましたけどぉ。」

何が?ってか誰が?とアスターが問い質す前に、部屋の豪奢な扉が、重苦しい音を立てて開いた。

開いた扉から見えたのは、先ほどの言い争いの相手だと思われる警備兵をひきずって立っている筋肉隆々の肉体に真紅の髪を持つ、さながらライ●ンキングに出てくるキャストのような威圧感のある男であった。

「陛下・・・。どういう事か、お聞かせ願いたい!」

見た目に違わず低くてずっしりと重い声にアスターは思わず震えあがった。

心なしか声を発すれば、その衝撃波でビリビリと部屋の家具が震えている気さえする。

簡潔にいえば堅気に見えない。

「来ちゃいましたねぇ。ある意味究極の小姑ぉ。」

にんまりと笑ったベルタが楽しそうに言う。アスターは、こんな小姑にいびられたら絶対ちびる、と若い妖精としての尊厳を失う未来をひしひしと感じるのであった。


新キャラクター登場です。

アスターはちびらずに小姑と話すことができるのか。

次回の更新は少し間が空くかもしれませんが、できるだけ早くかきあげたいと思います。



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