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皇国妖精恋歌  作者: yogu
第一章
3/16

出会い・運命・契約(3)

やっと妖精と皇帝が出会えました。


3.


初恋は、

男の一生を左右する。

- アンドレ・モロワ -




ぽとっ。

間抜けな音を立てて、自身の頭に落ちた物体にエドゥアルトは手をやった。

べちょり。濡れている。無言のまま頭の上のそれを指先でつまむ。

目の前まで持ってきてみると、ぐっしょりと局部的に湿った服を着て、目から涙をこぼす、おそらく花妖精━気絶したアスターであった。

「なんだこれは?」

思わず、エドゥアルトの声は震える。

「ええーとぉ・・・花妖精、ですかねぇ・・・?なんか湿ってますけどぉ・・・。」

気まずそうに、主君になんて言っていいのかわからないベルタが答える。

「花妖精は美しいものではないのか。」

「一般的にはそうだと思いますけどぉ・・・。」

エドゥアルトは目の前にぶら下げた意識のないアスターをまじまじと見つめる。

なんだかはっきりとしないボンヤリした赤毛はふわふわというよりもぼさぼさ。

陶器のように澄み切った肌色とは程遠い少し日焼けした肌。

鼻が低いとは言わないが、まぁ、決して高くない鼻。

よれよれですこし傷ついた翅。身にまとう黄緑のワンピースもなんか湿っていて小汚い。

どこを切り取ってもいたって平凡(それかやや中の下)で、花妖精の代名詞『美しい』とは程遠い。

しかしエドゥアルトの鼻孔をくすぐる香りだけはふわりと甘い。

「へ、陛下!ベルタ様!ご無事ですか!」

ようやっと固まっていた兵士たちは主君に駆け寄る。

「ああ。大事ない。」

「そうよぉ。私がついてるし、いざとならなくたって陛下に護衛なんか不要ですしぃ!」

部下を安心させるように微笑むベルタをよそに、気もそぞろな返事を返したエドゥアルトはじっと指先でつまんだままのアスターを見た。

(大方鳥に餌と間違われて、俺の頭に落ちてきたというところだろうが・・・。

なんて間抜けなんだ。)

アスターが起きていたなら、千里眼の持ち主かと震えただろうが、そんなことを知らないエドゥアルトの口許は知らず知らずのうちに弧を描いていた。

見目麗しい妖精のはずなのに平凡。

鳥に餌と間違われ翅すら傷ついている。

挙句の果てに人の頭に落下して、意識もないのにぽろぽろ泣いている。

なんて不恰好。なんて間抜け。なんて貧弱。

なんて、なんて━

「愛らしい。」

「はぁ!?」

兵士たちと話していたベルタは幻聴のような主君の言葉に振り向き、そして青ざめた。

兵士たちも、主君の顔を見ては顔を蒼白にしていく。

━笑ってる。

あの、あの陛下が!

生まれてから今まで仏頂面しかしたことないんじゃないかと(主にベルタに)言われている陛下が!━

兵士たちは声なき声でざわつく。信じられないものを見たせいか、その微笑みが麗しすぎるせいなのか、心なしか目の前が暗くなるような心地である。

しかし、そんな周囲の心情なんぞお構いなしに、真夏にセミやカブトムシをつかまえてはしゃぐ小学生のように、あるいは友達の恋路を囃し立てる女子高生のごとく、興奮した声色でエドゥアルトはつづけた。

「こいつはまるで俺と正反対だ。美しくないし、間抜けだし、この上なく貧弱!

だが・・・そこがいい。」

「はぁ・・・。」

「こんなに愛らしい生き物が世界にいたとは・・・。とりあえず手厚く介抱してやらねばな。

おい、ベルタ。俺の部屋にかごと、柔らかい布、それから・・・そうだな、蜜を用意しろ。

今すぐにだ。」

いうだけ言うとウキウキと歩き出すエドゥアルトに慌ててベルタは声をかけた。

「ちょっ!陛下がお世話なさるんですかぁ!?ご自分でぇ!?」

「もちろんだ。好いたものを手厚く介抱するのは男の甲斐性だろう。」

「はぁぁぁぁぁ!?正気ですかぁ?打ち所わるかったんじゃないですかぁ?」

「重ね重ね失礼な奴だな、お前は。」

とにかく、用意しろ、すぐにだ。というが早いか、私室に向かって小さくなる背中を呆然とベルタは見つめた。

「えーとぉ・・・春・・・?」

確かに、季節は春だった。




すべすべした何かが、アスターの小さな頭に触れる。すべすべの何かは暖かくって、いいにおいがする。

アスターは思わずにじにじとすべすべの何かに擦り寄る。すべすべの何かは一瞬動きが止まったが、またゆっくりと髪に触れている。

気持ちよくてまた再び意識を落としそうになったところで、アスターは気が付いた。

(このすべすべ、なんだろう・・・?)

そもそも自分はどうしていたのだったか。

森で芋を洗っていて、鳥に餌と間違われて、それで。

(黒い何かに不時着して、あれ・・・。)

「私…。」

パチリ。

アスターが目を開けると、すべすべが動きを止めた。

「起きたのだな。」

寝起きでぼやけたまま、声の方向に顔を向けた刹那。アスターは顔を向けたことを後悔した。

(目が・・・!目がぁぁぁぁぁ!)

思わず手で両目を抑えて、どこぞの空のお城の王族の子孫の大佐のように心の中で唸る。

そこには、イケメンが頬杖をついてアスターに指を伸ばしていた。

イケメンといっても、ただのイケメンではない。なんだか光り輝いているイケメンだ。

度を越したイケメンは、どうやら後光を放つらしい。

「・・・まだ気分がすぐれないのか?」

「あ、いや。そういうわけでは・・・。」

声をかけられて正気に戻ったアスターはまじまじと目も前の男を眺めた。

艶々と光をはじくみどりの黒髪。薄紫の瞳を覆う睫毛はバサバサで自然な上向き。

全体的に怜悧な印象を持つが、それすら意図されたかのような造形美。

10人いたら10人が文句なしに美形だと持て囃すだろう容姿の男だった。

位置的に先ほどのすべすべは男の指先だったようだ。

一体全体なにがどうして知らない部屋で知らない男に頭をなでられているのか、事態がさっぱり理解できないアスターは、恐る恐る尋ねた。

「あの、あなたは・・・?あと、ここはどこなんでしょう?」

アスターの言葉に男は鼻で笑うと、むっつりした顔で告げた。

「人に名前をうかがう前にまず自分から名乗れと習わなかったのか?

さすがは愛玩用と名高い花妖精の教育だな。」

「はぁ!?」

男の言葉にアスターは思わず身を乗り出して、男の指を頭から振り落とした。

(確かに私が礼儀知らずだったかもしれないけど、ここまで言う!?)

同族である花妖精は確かに他の妖精たちや働く人間たちからしてみたら、怠惰に生きている愛されニートかもしれないが、ここまで文句を知らない男に言われる筋合いはない!とアスターは憤慨した。

ニートにはニートの意地がある。

「私の名前はアスター!お察しの通り花妖精だけど、あなたに花妖精の教育を馬鹿にされる筋合いなんてないわ!何様のつもりよ、この不愛想男!」

「皇帝様のつもりだが。」

男はゆっくりと立ち上がると、悠然と微笑んで見せた。

「俺はブルーム・エアデ皇国第98代皇帝、エドゥアルト・バルヒェット。

今現在はアスター、お前の生殺与奪を握る男だ。」

「え、えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

与えられた情報の突飛さに、頭と胃が痛くなるアスターであった。


この時の王様の心情も番外とかであげられたらあげたいなーと思います。

遅筆で申し訳ないです。

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