バカ男とクソ女2
そんな事を考えながら歩いていると、上り坂の先に校舎が見えた。
瑛太が今日から通う光明学園だ。来賓用の玄関から職員室へと向かう途中、制服をだらしなく着崩した茶髪の男子生徒とすれ違った。
瑛太はどこの学校にもああいうのが居るんだな、などと思いながら職員室に到着するとすぐに担任教師のもとへと向かった。
「おはようございます」
「あら、おはよ。遅刻しなかったみたいね、感心感心」
そう言って瑛太に笑いかけた担任教師井口綾子。
見た感じ教師の中では一番若く、肩より少し伸びた艶のある黒髪と笑うと見える八重歯が印象的な女性なのだが、
「ちょっと待ってねー。出席簿は……っと」
整理整頓は苦手らしく、机の上はかなり賑やかだ。
「お、あったあった。んじゃ、ちょっと早いけど教室行こうか」
井口に連れられ教室に向かう途中、登校してきた生徒達から親しげに声をかけられていた。彼女はなかなか人気があるようだ。
「さて、ここが我が二年A組の教室よ」
井口に案内された教室は校舎の三階にあった。扉が閉まっているにもかかわらず、笑い声が廊下まで聞こえてくるほど騒がしい。
「私が呼んだら入って来てね」
井口が教室に入り、一人ポツンと廊下で待つ瑛太。廊下側にも窓はあるのだが、磨り硝子の為中の様子はいまいちわからない。
「んーっと皆居る?」
どうやら井口が出欠を確認しているらしいが、その確認の仕方はどうなんだ?と心の中でつっこんでみる。
「えーっと、明後日毎年恒例の歓迎遠足があるからね。遅刻しないように。詳しい事はこのプリントに……プリント忘れた……」
机を整理整頓しないからだろう。これでちゃんと教師としての職務を全う出来ているのだろうか?と不安になる瑛太。
「連絡事項はこんなとこかな」
「あ、先生質もーん」
「ん? 何?」
男子生徒の声が聞こえてきた。磨り硝子越しでも人影は室内からも見えるのだろう、瑛太はいよいよかとゴクリと唾を飲み込み、息を整える。が、
「今日の下着は何色ですかー?」
予想外の質問に思わずずっこけそうになる。この男子生徒カンペキにセクハラだ。
「アンタの母ちゃんと同じ色よ!」
「イダッ!」
井口の声の後に聞こえた男子生徒の苦悶の声と鈍い音。男子生徒が何らかの制裁を受けたのだろう。
「か、母ちゃんと同じ? あ、赤!?」
「うわぁー、アンタの母ちゃん派手ねー」
そのやり取りに教室内は大爆笑だ。
「んっじゃ、今日も1日頑張ってねー」
そう言って扉を開けた井口と廊下で待たされたまま、暫し見つめ合う瑛太。
「……俺は?」