43話 最悪の展開
ザー……ザー。
そんな音が、無線機に付けてあるイヤホンからした。
高高度の核爆発による電磁パルスにより、使用不能となっていた無線だったが、どうやら使用可能になったらしい。
『……佐倉希留だ。薙咲、及び冥夜が重傷。呉射はここにいる。それ以外は、直ちに報告せよ』
浩二と芽衣は、静寂に包まれた渡り廊下で頷いた。
「こちら吉樹浩二、芽衣と一緒だ。特に怪我は無い」
そう報告すると、すぐに別の声が入る。
『俺だ。翔と筑璃の2人と合流した。全員怪我は無い……が、最悪だ』
最悪。その言葉に、浩二は冷や汗が噴き出るのを感じた。
『レイン・フィアーが完全体になった。原因は、誰かが銃を放ったことによるものだ』
『……とりあえず、さっきまでいた体育館前に集合しろ。そこで、改めて話し合う』
◆◇◆◇◆
数分後、体育館内に9人が集まった。雷希と朱雀が、血塗れになって横たわっている。
「雷希は右脇腹を触手が掠めた。そしてその後ろにいた朱雀に直撃して……こうなったと」
姿を晒している軸座が、舌打ちをする。朱雀は大量に吐血し、今はもう意識すらないらしい。このままでは確実に死に至る。そして雷希も、かなり失血している。
「とりあえず私が応急処置を施すわ」
月菜は持っていたバックパックから応急処置キットと深紅色の結晶を取り出すと、応急処置を始めた。
「そっちは任せる。で、脱出なんだが……」
「それに関しては俺から話す。結論から言えば、不可能に近い。国軍兵士の妨害によってレイン・フィアーが完全体となり、校庭に出現した。だがその周りには1000人近い国軍の攻撃旅団がいて、俺たちが出た途端、蜂の巣だ。ここから先どうするかは、希留、お前に委ねる」
「分かった。ならこうしよう。吉樹浩二、それと桜木芽衣でレイン・フィアーと国軍を同時に相手しろ。その隙に、この校舎の裏側から脱出し、救出用のUAVを待つ。異論は認めない、さっさと準備に取り掛かれ」
この時、浩二は既に動いていた。紅剣を抜き、希留の胴体目がけて思いっきり振る。だが、刀身が触れたと思った瞬間、その姿は消えてなくなっていた。そしてすぐに、後ろから強烈な蹴りが飛んできて、浩二を直撃した。
「最悪の展開だ。それを引き起こした原因は、お前にある。作戦変更だ、こいつを置いて逃げるぞ」
「希留、どうするつもりだ?」
「軸座、見て分かるだろう。こいつはもう解放軍ですらない。その辺の豚にでも食わせておけ。桜木芽衣も、移動するぞ」
「………了解」
浩二が聞いていたのは、そこまでだった。
◆◇◆◇◆
どれほどの時間が経過しただろうか、気付けば体育館は火の海となっていた。校庭の方からは無数の銃声が鳴り響いている。
「俺は、どうなったんだ?」
ガシャガシャガシャ!という足音が聞こえてくる。
「動くな、手を挙げろ!」
気付けば囲まれている。浩二は体を起こすと、いきなり紅剣を抜いて目の前の兵士を襲った。
バシャッ!という音が、やけに鮮明に聞こえる。刀身がその兵士の皮膚に触れた瞬間、針を刺した水風船のように血と肉片を撒き散らす。
そして唖然とする兵士たちを次々と葬っていく浩二は、ものの数秒で10人はいた兵士たちを殺害した。
「……これが、芽衣の言った嵌めってことか。笑わせる」
―――コロス。
―――ゼンイン、イキテカエサナイ。
浩二の心の中には、絶望と共に湧き上がる果てしない戦闘の欲望が渦巻いていた。




