40話 国軍の密かな追跡
クラウスト内にある高層ビル、そのうちの一つの30階に住む、村上麻紀奈という女がいる。序列は59位。国軍の切り札と裏で言われるほどの実力を持つ麻紀菜のスキルは、芽衣と同じ重力操作能力だ。
だが、芽衣のように一瞬で照準したりすることは出来ない。照準には数秒ほどかかり、なおかつ3次元的な重力の操作が不可能。目の前に巨大な重力の壁を作って相手の弾を落とすと言ったことは可能だが、芽衣がよく使っている《弾道を無重力にして命中率を100%にする》という使い方は出来ない。
だが、重力による地形などの把握の範囲は、芽衣を遙かに凌ぐ実力を持つ。範囲は半径100キロほどで、しかもどの人間がどこにいるかという情報も、重力の感覚により把握できるという、ある部分では芽衣ですら足元にも及ばない。
それに加え、元の身体能力も極めて高く、白兵戦に於いてはかなりの実力者だった。だが流石に、50位以内の暗殺者などには勝てるかどうかは微妙だが、それでも隙をつけば一撃で敵を殺せる自信はあった。
朝から銃撃音が絶えないクラウストを、リビングの一部がガラス張りになった場所から見下ろす。
現在の時刻は夜7時。日が落ちる少し前だ。普段はあまり使わないタッチパネル式の携帯端末が鳴った。
「もしもし、国王」
『村上麻紀菜、お主に頼みがある』
「珍しいですね。銃撃戦で誰か逃がしたんですか?」
『そうだ。ただ今回は解放軍の隠密部隊だ。把握できてるだけで8人。もしかしたらもう少しいるかもしれん。大部隊を送って拘束する為に、位置を探ってほしい』
「了解しました………」
少しの間をおいて、麻紀菜は位置を割り出した。
「南東側にある、廃校です」
『あそこか。助かった、感謝する』
「礼には及びません、国王」
『いや、お主のようなスキルを持った人間がいると、こちらも助かるというものだ。報酬は後日振り込む』
「分かりました」
そこで、通話が終わった。
大きく溜息を吐いたのは、相手の実力があまりにも上だったからだ。このままだと確実にこの街ごと吹っ飛ばされる。
ただ、先ほどの高高度核爆発で、相手の通信機器を使用不能にした為、UAVが飛んでくることは無い。本来なら麻紀菜の携帯も使えなくなっているが、地下に有線の通信施設があるため、あまり影響は無かった。
「どうなるかな」
今後どういう展開で事が運ばれるのかは、少しばかり麻紀菜も楽しみではあった。国王のローにすら告げていない、一つの事実。
神崩を持たない9人は、どうやって、《あの場に現れるA級の魔物を屠るのか》を。
◆◇◆◇◆
午後9時。芽衣曰く、まだ追手は来ていないそうだ。ただここから今すぐ離れないといけないのは事実で、下手をすれば国王が脱出して身を隠すかもしれなかったからだ。そうなってしまえばお手上げで、浩二も確実に処刑される。
だが、浩二は薄々気付いていた。この時点でもう俺の死は確定してるんじゃないか。国王を殺しても、また何かしらの理由をつけて殺されるかもしれない。
あくまでも憶測の域を出ないので、誰にも言っていない。だが、完璧なはずの潜入作戦は、見事に失敗している。
ここで浩二の考えはさらに加速し、思わぬところに行き着く。
仮に、芽衣が言っていた神々の刺客が関わっていたとして、そいつらの誰かが、このチームに潜り込んでいたら?そうすれば、口合わせも上手くいくだろう。
少なくとも芽衣と雷希は仲間であり、朱雀や月菜なども、一応は一緒に戦った仲だ。軸座だって死刑を回避するために努力してくれた。怪しいとなれば、あとは佐倉希留と佐々木翔、牧原筑璃だろう。
いや、やめよう。これ以上は考えるのをやめよう。
浩二はそう思い、いつの間にか配られていたパンにかじりついた。
無言の夕食。昨日のように、ここが安全ではないということを全員知っていた。ここは敵地のど真ん中であり、ここで騒げる人間というのは、まずいないはずだ。
◆◇◆◇◆
胸騒ぎがする。敵が追ってきているのは明白で、おそらく持っても明日の朝までだろう。だが、それが原因ではなかった。
先ほどから、非人間的な殺気が充満している。そして殺気を放っている者の正体は、浩二を除く8人全員が知っているものだった。
浩二はまだ出会ったどころか、教えられてすらいない、本来存在してはいけない存在。
―――この世界には、本来地球に存在している生物とは別に《魔物》という存在がある。




