38話 潜入
村を出て、クラウストから東側に広がる樹海に入る頃には、日が高く昇っていた。
だが、樹海に入った途端、鬱蒼と茂る巨木たちが行く手を阻む。
神崩を使って真っ直ぐ進みたいという意見もあったが、さすがに潜入がばれるために却下。仕方なく6時間ほど無言で歩き続けると、遠くに灰色の壁が見えた。
『全員聞こえるか。潜入場所に到達した。今から軸座が潜入し、見張りを殺す。芽衣と翔は援護に就け。他は待機しろ。念のため、防壁の上から見つからないように警戒しろ』
希留の無線。浩二たちは一斉に、あらかじめ決められていた方向に銃を向けた。
数分後、今度は軸座からの無線が入る。
『敵はあらかた殺った。今がチャンスだ、すぐに来い』
後方にいた浩二と冥夜は、後ろを警戒しながら防壁の方へと進んでいく。
芽衣や翔たちが防壁内へ入ったのを確認すると、浩二たちはなるべく音を立てずに走り、何とか防壁内へと達した。
入り口には2人の男が倒れていた。どちらの首にも、クロスボウの矢が刺さっている。
そこからさらに奥へと進んでいくと、ようやく防壁内から出ることが出来た。
◆◇◆◇◆
「防壁内に全員入ったことを確認した」
『了解、ここからは遊撃は狙撃の援護に回れ。道順は事前に知らせたとおりだ』
希留からの指示を確認した浩二は、横にいた朱雀に合図を送る。朱雀が小さく頷くのを確認すると、それぞれ近くにある雑居ビルの屋上へ向かう。
「芽衣、どうだ?」
バレットM95を構えて微動だにしない芽衣に話しかけたが、何も返事は無かった。
M95というのは、M82を軽量化し、運搬しやすくしたモデルだ。ブルパップ方式の為、全長が短くなり、華奢な芽衣でも背中に背負って運べるようになっている。
「浩二、後ろ」
「え?」
いきなりそう言われ、一瞬立ち止まった。だが、浩二は殺気を感じる前に左に跳び、着地と同時に回し蹴り。すぐ後ろでサプレッサーを付けたハンドガンを構える男の胸に蹴りが当たった。
肋骨が折れた手応えがあった。呻き声がうるさかったので。首筋を思いっきり強打して気絶させる。
「潜入がばれてる!おい、聞こえるか!潜入が……ッ!」
ダダダダダダダッ!という銃声が無線越しに聞こえてきた。おそらく、出発前に芽衣が言った通り、嵌められたのだろうか。
『作戦変更だ。午後10時までに、例の廃校に集結せよ。敵に尾行されないように気をつけろ!オーバー』
それきり、無線が使用不可能となった。
ドォーン!という強烈な爆音と、太陽のような猛烈な閃光が空から降り注ぐ。
それが、高高度での核爆発だと分かるのに数秒かかった。
「浩二、援護は任せた」
芽衣はそう言うと、躊躇いもなく引き金を引く。そしてボルトアクションをすると、また同じように引き金を引く。
10発を全て撃ち終わった芽衣は、バレットM95を捨てた。そして腰のハンドガンを抜くと、屋上の手摺に手を掛けた。
「付いてきて。私のスキルなら、ここからでも簡単に飛び降りることが出来る」
瞬間、芽衣が視界から消えた。
「嘘だろ?」
独り言のように呟くと、浩二も手摺に手を掛けた。下を見ると、上を見上げる芽衣の姿があった。どうやら無事に着地出来たようだ。
躊躇いがあったが、腹を括ると、浩二は手摺を乗り越えて飛び降りた。
胃が持ち上がるような独特の不快感。だがそれも、すぐに軽減された。驚くことに、徐々に減速していく。地面に着地した時には、まるで宙を舞う羽のような気分だった。
「……私のスキルは、重力操作能力。だからどこから飛び降りても問題ない。あと、半径10キロ以内の地形とかは把握できる」
そんなスキルがあったのか。と驚く暇もなく、芽衣は持っていたハンドガンの薬室に弾を装填した。
デザートイーグル。50口径の弾を吐き出す厳ついフォルムは、華奢な芽衣には到底似つかわしくない代物だ。だが、浩二は知っていた。芽衣の驚異的な力を。
「行こう」
その言葉に、少し怒りが含まれているのを、浩二は密かに感じ取っていた。
そして浩二も、歩き始めた芽衣に付いていくように歩き始める。




