32話 偽装基地内での出来事
浩二はここが解放軍の偽装基地だということは知らない。
ヴェルタイト南部、中心都市クラウストと第二都市カルマのちょうど中間地点にあるこの建物は、地下7階から地上2階まである。山の中腹にひっそりと佇むこの建物は、遠くからでは絶対に見つからず、仮にヘリなどで空から探しても見つからないようになっている。
◆◇◆◇◆
「今日はここで過ごせ。机の引き出しの中に、支給品を入れておいた。あとクローゼットには装備品とかライフルが入ってるから、着替えとけ。冷蔵庫には水がある。無くなったら支給品の中に入っている地図を見て、1階の食堂に行け」
ガチャ。という音を立てて、木製のドアが閉まる。
部屋は全面真っ白で、まるで病院のような清潔さを感じられる。パイプベッドと引き出しがある机と小さな冷蔵庫、それとクローゼット以外は何も置かれていない。
浩二は試しに机の引き出しを開けてみる。すると、中にはベレッタM92とマガジンが6つ、簡素な地図とタッチパネル式の携帯端末が入っていた。
それらを取り出して机の上に並べると、次はクローゼットを開ける。その中には、黒の戦闘服が上下一式とタクティカルブーツが綺麗に並べてあり、横にはM4A1が立て掛けられていた。下の方にはバックパックとポーチ、それに拳銃用のホルダーが並べて置いてある。
とりあえず今着ているTシャツとズボンを脱ぎ、戦闘服に着替える。ブーツを履き替えると、腰のベルトにガンホルダーを装備し、弾を装填したベレッタをその中に仕舞った。
そして、ベッドの上にそのまま寝転がると、首のあたりに不意に痛みが生じ、次の瞬間、眠気が襲ってきた。
そのまま浩二は、深い眠りに落ちていった。
◆◇◆◇◆
浩二は、気付いていない。
部屋の中には、出ていったはずの酷霊軸座がボウガンを持って立っていた。
だが、誰からも目視で捉える事が出来ない彼が出ていったという保証は、そもそもどこにもない。
ただ出て行ったかのようにドアを開け、またドアを閉めるという、極めて単純なトリックだ。
手に持っているのは、自作した麻酔ボウガンだった。銃器などは一切使わず、神崩以外の武器は基本的にボウガンだけの軸座は、今日この時のためだけに威力を低めに設定したボウガンを一から作り直していた。麻酔用のボルトは、いつも使用しているボルトの先端部分に強力な麻酔薬を仕込んだものだ。
おそらくこれで数時間ほどは深い眠りについているだろう。前日、試しにその辺の兵士に撃ちこんだところ、つい先ほどまで全く目を覚まさなかったほど強力なものだった。だが、万が一のことを考えても、数時間は確実に眠っている。
それを確認した軸座は、速やかに浩二に布団を掛けると、無線で合図を送った。
すると、木製の扉が静かに開き、浩二の持っていた剣や銃を入れた袋を持った芽衣が入ってきた。
「ここに置いておけ。こいつが目を覚ます前に終わらせるぞ」
軸座がそう言うと、無言で芽衣が頷く。
2人はそのまま静かに部屋を後にすると、この基地の最深部へと降りて行った。




