31話 提案と不可視な男
「よぉ。あんたが吉樹浩二か?」
ここにぶち込まれてからどれだけ時間が経っただろうか。ふとそんな男の声が後ろから聞こえてくる。
幻聴か。浩二はそう思うと、コンクリートの冷たさを感じながら寝転がった。
「おい、無視すんなよ。まぁ幻聴だと思われても無理はないけどな」
ここで、浩二は起き上がって辺りを見回す。だが、男の姿どころか、人の気配すら感じられない。
「探しても無駄だ。俺は常に不可視の状態だ」
「……どうして不可視なんだ」
浩二は名前を聞く前に、何故この男が視えないのかを知りたかった。
「俺のスキルは、空間操作能力と暗殺者。自分の周りの空間を歪めて光を屈折させて自分の姿を消して、暗殺者の効果で気配を完全に消し去る。念のために、光学迷彩を施したマントなんかも羽織ってたりする。言い忘れていたが、俺の名前は酷霊軸座、解放軍の中にある特殊部隊に所属している」
そうか。と、浩二は納得した。この世界なら、あらゆる不可解なことも全て《スキル》という一言によって片付けられる。
「で、お前は何で俺の近くにいるんだ?」
「今から話す《提案》を聞いてもらいたかったからだ」
◆◇◆◇◆
「まず、あんたは解放軍に入ってもらう。そして極秘任務を受けてもらう。まだ任務の内容は決まっていないが、メンバーは俺の所属する特殊部隊の人間とあんただ」
「……要求を呑まなかった場合は?」
「副将の命令通り死刑だ。吉樹浩二、あんたの死刑を回避する方法はこれしかない」
「そもそもいきなり死刑と言われても、何で死刑になったかも分からない。そんな状況で要求を呑めって言うのは、おかしいんじゃないか?」
「だな、俺もそう思った。んじゃその話からしようか」
少しの間を置いて、軸座は言った。
「麓城封鬼は知ってるな?あいつは解放軍の中でもかなりの逸材だった。それをお前が殺した」
「それだけなのか?」
「麓城封鬼は、副将の彼女だったって言えば納得できるだろ?あの性格だ、お前を殺しても気が済まないだろう」
「ただ、あいつは」
「分かってる。偵察してたやつの報告だと、確かに麓城封鬼が勝手にお前たちに攻撃を仕掛けたんだ。それを報告したやつらは1人を除いて全員惨殺された。俺たちは真実を知っている。だからこそお前を助けたい」
「……分かった。要求を呑む」
死刑を回避すればそれでいい。浩二はそう思った。
「早いな。まぁいい。とりあえずここから出よう」
すると、いきなり鍵が開く音が聞こえ、やがて鋼鉄の扉が開いた。




