29話 終わりと目覚め
トラックが見えた。運転席には、報告に受けていた序列23位の冥夜朱雀が乗り込んでいる。
希留は右手を上げた。すると、支援部隊員たちが一斉に銃を構えた。M4A1の銃口は、走ってくるトラックに向けられる。
「止まれ。さもなくば射殺する」
希留もグロック18を抜き、照準をトラックに合わせる。
すると、トラックは徐々に減速。そして希留の目の前で停まった。
運転席から手を挙げて降りてきたのは、冥夜朱雀だ。
「何の用だ。貴様は」
「どうでもいい、と言いたいところだが、自己紹介だけはしておこう。解放軍第一攻撃師団の指揮官、13位の佐倉希留だ。お前たちに用がある」
希留はグロックの銃口を下ろすと、他の隊員たちも銃を下ろした。
「トラックの荷台に3人いるはずだ。怪我をした者は今すぐ手当てを行う。お前は大丈夫か?」
「応急処置はした。ただ出来るなら傷をしっかりと塞いでおきたい」
「よし、他の奴はどうだ?」
「肩を撃ち抜かれた者が1人と、意識が無い者が1人だ」
「了解した。今から基地へと案内する。付いて来い」
希留は支援部隊を連れて、臨時基地へと向かう。朱雀はトラックの運転席へ乗り込むと、ゆっくりと発進させた。
◆◇◆◇◆
それから1日後、カルマ周辺に、静寂が訪れた。ミラ軍の撤退により、解放軍の勝利となった第五次ヴェルタイト南部紛争は幕を閉じた。
撤退命令を聞かなかったミラ軍の兵士たちは、解放軍たちによって撃滅された。
カルマは壊滅し、その場で残った住人は全員死亡。逃げた住人達は、近くの村に避難している。
解放軍はこの地に守備旅団を置き、死体などの片付けと復旧に尽力していた。守備軍なので、例え襲撃があっても即座に対応できる。
ミラ軍を率いたミラ将軍こと佐藤輝は、撤退命令を下した後に、しばらくカルマに留まっていた。そして解放軍の守備旅団が到着したのを機に、静かに撤退した。この事実は、当の本人と一部のミラ軍将校しか知らない。
今回の戦いは小規模だったものの、ミラ軍は1ヶ月前の村襲撃も含めて7000人以上を投入し、生き残って帰れたのはわずか100人にも満たなかった。それに対し、解放軍は3700人を投入。1000人以上が生き残り、守備旅団が到着するまでには残っていたミラ軍の撃滅も完了していた。
◆◇◆◇◆
暗闇の中に降り立つ、一筋の白い光。
必死の思いで、それに手を伸ばしていく。
すると、視界が徐々に暗くなっていき、数秒後には意識が回復してきた。
瞼を開けると、まず視界に入ってきたのは、白い天井だった。そして横には、ずっと前に知り合っていた、今この世界で会いたかった人のうちの1人がいた。
「……芽衣?」
寝ぼけてるのか。と思ってしまう。先ほどの長くて苦しい悪夢から解き放たれた浩二は、これが現実なのかどうかという区別すらつかなくなっていた。
「浩二、久しぶりね」
無表情だが、珍しく喋った芽衣を見て、やっぱり夢なのかと思っしまう。そしてそのまま寝ようとすると、頬に強烈な痛みが走った。
それが芽衣に引っ叩かれたということを認識するのに数秒ほどかかったが、やがてこれは現実なんだなと思わず苦笑した。
「良かった。本当に良かった」
「ん?」
芽衣は不思議そうに浩二を見る。浩二の手形に赤くなった頬を、涙が伝った。
「芽衣がこの世界にいてくれると、心強いな」
そう言って笑う浩二を見て、芽衣も表情を見せた。
微笑。しかも通常の人間なら無表情にしか見えない僅かな微笑だった。それでも浩二は、驚きを心に仕舞いつつ、笑った。
この時は、まだここがどこかと言うのを聞くことすら忘れていた。




