25話 序列の壁
掻き消えた。浩二はその瞬間、反射的に右側へと移動していた。
ドンッ!という衝撃音が真横を通り抜け、先ほどまで浩二がいた場所を地面ごと抉る。深紅色の残像が、振り下ろす速度が尋常ではないことを物語っている。
輝は右手に持った青竜刀を右側に突き出す。それを紙一重で躱した浩二は、どす黒い煙を纏った剣で青竜刀を弾く。
ゴッ!という、激しい音が2人に襲いかかる。衝撃波が発生し、近くの塵や石が巻き上げられていく。
間髪いれずに、浩二が四連撃。だがそれをいとも容易く避けた輝は、一旦距離を置いたかと思えば、浩二の真後ろへと跳躍していた。
瞬間、地面が大きな音を立てて割れた。突き立っているのは輝の青竜刀、そこからひびが放射状に伸びている。
そしてぎりぎりで回避した浩二の胴体目がけて、あり得ない速度で迫る青竜刀の刃を、浩二は跳躍して回避。輝を捉えた浩二は、両方の剣を振り下ろしながら笑った。
「ここまでだ」
頭上から、一気に叩き斬る。この距離なら、外すこともない。
殺った。と思った、その時。
不意に黒いものが視界の中に入った。それはまるで剣のように鋭く、真っ直ぐに浩二の方へと向かってくる。
それを片方の剣で防いだ瞬間、ドッ!という衝撃音と共に、数メートルほど吹き飛ばされた。
◆◇◆◇◆
その時、広場のすぐ近くまでトラックを回した月菜と朱雀は、浩二が戦っている様子をただ静観していた。
トラックの荷台にはM2重機関銃を固定し、2人ともP90で武装している。
ただ、戦闘系スキルの奴らにとって銃弾は敵でもないということだ。
「ミラ将軍のお出ましってとこだな。噂じゃスキルを持った人間って話だな」
「そうらしいわね。もしそうなら、一筋縄じゃいかないレベルだわ」
2人は銃を構えながら、ただ浩二とミラの2人の戦闘を見ていた。
だが、黒い何かが浩二を吹っ飛ばした瞬間、朱雀は目を見開いた。
「無属性……!」
属性の中でも、最も希少価値が高く、多くが謎に包まれてる。それが無属性であり、朱雀はこの世界に来てから一度だけ見たことがあった。
それに対し月菜は、まるで見慣れたかのような感じでその属性を捉えると、不意に立ち上がり、トラックに乗り込んだ。
「朱雀だっけ。行くわよ」
唖然としてる朱雀は我に返ると、トラックの荷台へと乗りこむ。
◆◇◆◇◆
そして無属性を繰り出した、ミラこと佐藤輝と吉樹浩二の戦闘を1キロ先からスコープ越しに監視していた者がいた。
M82対物ライフル。武骨なデザインをしているそれは、射手の桜木芽衣の華奢な体にはあまりにもミスマッチだった。身長は160センチほどで、都市迷彩が施された戦闘服に、タクティカルグローブとタクティカルブーツを身につけている。ヘッドギアを装備し、腰には小さなポーチが2つと、コンバットナイフ。右太腿のベルトには、M92Fが収まったホルダーを装着していた。
『敵を殲滅。建物内に爆発物の形跡なし』
ヘッドギアから、エコー小隊の隊長の声が聞こえた。
「すぐに離れろ。命令だ」
スコープを覗いたまま、芽衣はそう呟くようにして言った。
無線が途切れる。するとタイミング良く、浩二が吹っ飛ばされる瞬間が目に飛び込んできた。
静かに照準を合わせる。戦場となっている第二都市カルマ及びその周辺地帯の上空には、積乱雲が形成されているところだった。風が少しづつ強くなる。だが、芽衣はそのことをまるで気にしない。
もう少しすれば雨が降り、おそらく竜巻が発生するだろう。経験上、芽衣はそう予想した。頭の中で系かうしていた予定が少し変更される。だが、影響はない。
指先が引き金に触れる。瞬間、指先に力が入る。
◆◇◆◇◆
気付けば、背中に壁があった。
全身が痛む。だがそれを上回る恐怖が、浩二を支配していた。
「お前は強かった。俺とここまで戦えたのは、お前が初めてかもしれない。これで、封鬼が殺されたのも納得がいく。だが俺とお前には、序列の壁があるんだよ。お前はスキルを使い、俺はスキルの力を全く使わなかった。お前は俺には勝てない」
輝はにやりと笑うと、浩二に一歩ずつ近づく。死神の足音と間違うほどの殺気と恐怖が、浩二に襲いかかる。
だが、浩二は口を開く。
「その攻撃についてと、神々の刺客について……教えろ。頼むから………教えてくれ!」
浩二はこの時、まだ諦めていなかった。だがここで少しでも立ち上がろうとすれば、一瞬で殺されるだろう。
実際脇腹が少し裂けており、そこから血が流れ出ていた。痛みはアドレナリンのおかげで全く感じてない。だが、血溜まり地面に出来るほどの流血量は、放っておけば危ない。
輝は足を止めた。躊躇していたというのが正しいだろう。ただ輝はその素振りを見せずに、剣を持ったまま浩二を見た。
「攻撃については簡単だ。無属性の制御が得意なんだ。そして、神々の刺客については……冥土の土産に教えてやろう」
ここで、輝は浩二を殺すことを決意した。浩二はそれを感じ取り、動こうとしたが、体が動かない。
「8つの属性を司る、刺客。火、水、緑、風、光、闇、幻、無。それぞれの属性の中で、最強の者たちが集まった集団だ。俺は無属性の刺客。そしてお前が殺した麓城封鬼は水を司る刺客だ。それ以外にも、まだ6人がこの世界のどこかで息を潜めている」
右手に持っていた青竜刀が、振り下ろされようとする。




