21話 大乱戦
『第五次ヴェルタイト南部紛争ってとこか。笑えんな』
そんな声が、スピーカーの向こうから聞こえてくる。どすの利いた声だ。
「いつも思うんだけど、仕向けてきたのはどこの誰だっけ?私は何もやっていないし何も聞いてないわ」
『まぁそう言うなよ。俺だってさすがに負けるのは分かってる。何度やったってスキルを持つ奴らには叶わないってことだ』
「へぇ。もしあんたがスキルを持ったあっち側の人間ってことがばれたら、どうなるか楽しみだわね」
薄暗い部屋の中にある椅子に座っている女は嗤った。だが、次の瞬間には眉間に皺が寄っていた。
『誰かが言わなきゃノープロブレムだ。実際スキルが無くとも俺は元々傭兵だ。あんたみたいな、絶対の力なんざ無くとも騙しとおせるのだ。低レベルのスキル使いなら容易くばらせる』
「あら、今すぐ肉塊に変えてあげてもよろしくて?」
『……分かった。さっきのは撤回しよう。それにこんな下らねぇ茶番交わしてる暇は無いんだ。俺は今日、ステージに立たなきゃならないしな』
「珍しいわね。負けるならあっさり負ければいいのに」
『負けはもう認めてるさ。そうじゃなくて、戦場内に何人か関係ないスキル使いが紛れ込んでることが分かった。そしてここからが本題だ』
スピーカーの向こう側から聞こえてくる声が低くなる。
『吉樹浩二が出た』
その言葉を聞いた瞬間、女は歯軋りをした。
『いいか、よく聞け。お前がどれだけ浩二……吉樹浩二を恨んでいたかは知ってる。だがお前が行けばおそらくラヴォルの言っていた計画というものが全て駄目になる』
「それでも私は、あいつをぶち殺さなきゃ気が済まないわ!」
『分かってる。だがここは抑えてくれ。俺が様子を見る。おそらく奴はお前を殺したことが、トラウマになってるはずだ。それを突けば、あとは廃人同然だ』
スピーカーの向こう側から、低く笑う男の声が木霊した。
◆◇◆◇◆
カルマの周りは高さ10メートルほどの壁があり、入り口が北側と南側の2つある。ミラ軍は既に全区域を制圧しており、どちらの入り口にも兵士が見張りをしていた。
ドォォォン!
激しい爆発音が響くと同時に、遠くで一斉に銃声が鳴り響いた。
「……さて、始まったぞ。俺たちは東側にある武器庫を目指す。そこで武器を調達し、場にいる奴ら全員を殲滅。これでいいか?」
「うん。まずは、あの門の前にいる兵士を全員殺さなきゃね」
「俺は左を」
「私は右ね」
2人はそれぞれ飛び出していき、街の門の前にいる兵士を殺していく。
浩二は右側にいる3人を手際よく紅剣で斬った。斬られた兵士たちはたちまち爆散し、跡形もなくこの世から去っていく。
月菜は弓を放つ。放たれた矢は、業火を纏いながら左側の敵を一掃した。
「行くわよ」
「おう」
2人は戦場の中に飛び込んだ。目指すは、東側にある大きな武器庫だ。
◆◇◆◇◆
『ミラ将軍!第1部隊が全滅!裏から回り込まれたようです!』
「なら別の部隊を応援に回せ。数で押せば問題ない」
『了解!』
ミラと呼ばれた男は、カルマの街の中でも一番大きなビルの屋上にいた。黒衣を纏い、背中の鞘には二振りの青竜刀が収まっている。
ふと遠くを見る。目線の先から、何かが飛来してくるのが見えた。
無線を切ると、ミラはビルの屋上から飛び降りた。直後、ビルが大爆発を起こした。
ドンッ!という音と共に地面が抉れる。だが、かなりの高さから落下したはずだが、何故かミラに怪我は無い。
「俺のいる場所にミサイルをぶち込むとはな。これは少し、本気でやらないとな」
立ち上がる。手にはいつの間にか、刀身が黒いコンバットナイフを持っていた。
そして、近くで索敵をしていた解放軍の兵士を見つけた。人数は3人。ミラは音もなく走り寄ると、一番後ろを見ていた兵士の首を掻っ切った。そして音で気付き、振り返った2人の兵士の右胸を、どちらも一突きで殺害した。
コンバットナイフの刃に付着した血を死んだ兵士の着ていた服できれいに拭うと、無線機を取り出した。
「俺だ。第6部隊、応答せよ」
『どうかしましたか?ミラ将軍』
「この街に潜り込んだ3人目のスキル保持者は誰だか分かったか?」
『はい。東側にある大きな武器庫の近くで発見しました。偵察に行った2人の兵士が重傷です』
「よく生きて還ってこれたな。で、誰だ?」
『先ほどネットワークに問い合わせたところ、序列23位の冥夜朱雀だということが分かりました』
「……あの中二病の剣士か」
『どうかしましたか?』
「いや、何でも無い。それにしてもよくやった。お前たちは前線基地へ帰還。明日の夜戦の準備に回れ」
『了解しました』
無線を切ると、ミラは先ほど屋上が爆破されたビルへと入っていった。
「……まだ出番はないようだな。とりあえず、奴らが互いにぶつかって自滅するのを待つか」
◆◇◆◇◆
北側の門は、解放軍が使用した煙幕弾によって何も見えない状態となっていた。ミラ軍は闇雲に撃っているが、マズルファイアが見えているため、それらを撃っていくのが、桜木芽衣の仕事だった。
ドゴンッ!ドゴンッ!
引き金を引く度に、強い反動と発射音が響く。だがその分威力も桁違いで、1人を撃ち抜く度に、ミラ軍の方から悲鳴や怒号が上がっていく。
バレットM82。50口径の弾を使用したアンチマテリアルライフルは、腕に着弾すれば腕が一瞬で消え去り、体の中心部に着弾すれば、真っ二つになった上に吹っ飛ぶほどの威力がある。ましてや芽衣が撃ってる場所は、門から100メートルほどしか離れてない高台の上だ。本来2キロほどの長距離狙撃で使う銃を、この近距離で撃ってしまえば、どれほどの威力になるかは容易に想像がつく。
『デルタ以下ゴルフ小隊は突入せよ』
無線が流れてきた。声の主は、先ほど会った佐倉希留という女だ。
ちなみに芽衣はエコー小隊の1人として動く事になっていた。高台から降りると、エコー小隊の兵士たちが全員待機していた。
「……行くぞ」
芽衣が声を掛けると、エコー小隊に所属している10人の兵士たちは、静かに頷いた。
そして、100メートルほど先にある入り口まで、静かに走っていった。




