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Assassin  作者: 兎鈴
2章 怒りの具現
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15話 怒り、荒れ狂う者

 短剣を振り下ろした瞬間、その時は確実に殺ったという確信が封鬼の中にはあった。だが迂闊だった。

 吉樹浩二の属性は幻。使いようによっては、幻影を創り出すことも可能なのだ。

 その幻影を切り裂いた封鬼は、真正面から来る一撃を躱そうと回避姿勢を取る。

 だが、予想を遙かに上回る速度で迫った浩二の一撃。仕方なく封鬼は回避を中断し、防御姿勢を取る。

 次の瞬間、封鬼から感覚というものが消え去った。気付けば地面がすぐ後ろに広がっており、視界が歪んでいた。

 咄嗟に後ろへと飛び、体勢を立て直す。先ほどまでいた場所に、浩二の持つ紅剣が思いっきり突き刺さる。


「何故だ……解せん!」


 封鬼は浩二が幻影を創り出すことに疑問を感じていた。本来ならあのような技を習得するのに短くとも1年はかかる。だがそれを、よりにもよってスキルを与えられてすぐに実行した。

 報告書にあった、未知の力というのはこのことか。そう解釈し、封鬼は口元に笑みを浮かべた。


「吉樹浩二。お主は先ほどの雑魚より手応えがあって面白い。だが、忘れたわけではなかろう……。暗殺者は、スタミナがない。必要ないからだ。その分必殺の一撃を加えて瞬殺する、というのが暗殺者の本質だからな。だが、我ら暗殺者殺しはその逆だ。暗殺者を殺す為には、スタミナが尽きるまで踊らせればいい。この意味が分かるか?」


 浩二は剣を突き刺したまま動かない。ただ封鬼が言う戯言を、無言で聞き流していた。


「さて、そろそろお主もスタミナが限界だろう。安心しろ、我はお主を苦しませずに殺す。そこは約束しよう」


 ザッ!ザッ!

 地面をゆっくりと、しかし確実に歩く音が耳に入る。だがそれでも浩二は動く気配すら無かった。

 そして、封鬼が前傾姿勢に入り、一気に踏み込む。短剣の周りで水色の粒子が荒れ狂い、青白い閃光となって浩二の首を掻き斬ろうとする。


「さぁ、死ね!お前もあのクズと同じように」

「いい加減にしやがれクソったれがァァァァアッ!!!」


 ゴンッ!という音がする。その瞬間、浩二がいた場所が思いっきり爆発し、地面が抉れた。

 爆風で突っ込んできた封鬼が吹っ飛ばされ、元の位置に戻る。そのまま着地したかと思うと、エピの亡骸のある場所にいた浩二目がけて踏み込んだ。

 だがここで、異変に気付いた封鬼は、そのままブレーキをかけ、バックして距離を取る。

 浩二はエピの亡骸に突き刺さった剣を抜きとった。すると、凄まじい勢いで刀身が赤紫色へと変わっていく。どす黒いオーラを纏った剣は、紅剣と共鳴したかのように荒れ狂い、浩二と一体化したかのような錯覚を覚えさせる。


「お前は勘違いしてる」


 自然体に二振りの剣を構え、歩く。


「俺は暗殺者。それは事実だ。だが、俺には……」


 前傾姿勢。それを見た封鬼は、回避姿勢を取った。先ほどと同じ速度であっても回避可能。持ちこたえれば、確実に殺れる。

 だが、次の浩二の言葉は、封鬼を驚愕させた。


「スタミナって言う概念が無いんだよ。クソったれ」


 ダンッ!という音がしたと思うと、地面にひびが入った。封鬼は全力で左に回避すると、腰にある銃を抜いた。先ほどエピを貫いた、デザートイーグルだ。50口径の弾は人に当たれば即戦闘不能にする。

 ドゴォン!

 放たれた弾は、的確に浩二の右太腿を抉った。

 ドゴォン!

 そして2発目は、浩二の左脇腹を抉った。

 手応えはあった。致命傷ではないが、確実に動けない。

 あとはゆっくり殺せばいい。封鬼はその場で銃を落とす。そして、地面に伏し、血を流している浩二を見て嗤った。


「ッハハハハ!どれだけ足掻こうと、所詮この世界に来たばかりの新参が、我に勝てるはずがない!!こ奴は神々の刺客に対して喧嘩を売ったのだ!この麓城封鬼は、お前如きに斃されるほど軟弱ではないッ!!」


 嗤いながら、短剣を持ち上げる。そして振り下ろして止めを刺そうとした。

 が、出来なかった。

 浩二はゆっくりと、しかし隙なく起き上がる。そして真後ろに、紅剣を振る。

 スエーバックで避けると、封鬼は後ろに下がる。浩二は振り向き、剣を構えなおす。

 そこに張り詰めた、人間の域を超えたおぞましいほどの殺気と静寂。

 果たして、その静寂を破ったのは麓城封鬼。短剣は亜音速で、浩二を狩ろうとする。


「なめるなァ!」


 そして、短剣が浩二を穿とうとする直前で、張り詰めていた殺気が破裂した。

 パァン!という音と共に、2本の線が空中に弧を描く。それと同時に、麓城封鬼の短剣が粉々に砕け、両腕が肉片と化した。

 そう、浩二の剣は、音速を超えていた。

 この時は気付かなかったが、既に浩二は、怒りで我を忘れていた。


「地獄から迎えが来たぜ。乗ってきな」


 ザンッ!

 その斬撃は、何か言いたげにしていた麓城封鬼を木端微塵に砕き、肉片と鮮血をばら撒いた。

 そしてほぼ同時に、遠くから無音で何かが飛来してくる。

 ガキィン!

 浩二はそれを弾き、飛来物を撃ちだした奴を睨みつけた。


◆◇◆◇◆


「チッ!撤退だ。撃つのをやめろ。今すぐ戻るぞ」

「何でよ。あの弾は確実に」

「弾かれた。しかも俺たちの姿はあいつには視えてるはずだ。今のあいつには勝てない。スキルが若干だが暴走してる」

「矛先がこっちに向くとでも?」

「もう向いてるさ。現に……」


 バン!という音を立てて、隠れていた岩が割られた。


「対物ライフルだ。弾を弾く自信はあるが、今のあいつと近接戦闘は御免だ。さて逃げるぞ」

「……分かった」


 2人は音もなく森の方へと逃げていく。その間にも浩二は3発ほど撃ちこんだが、当たる気配が無かったのでやめることにした。

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