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果てなきウィズディア  作者: 香月咲人
序 章   ―――胎動―――
4/5

其のさん

  *****


 銀貨を指で弾きながら溜息がこぼれた。

 これが夢であればと、何度思った事だろうか。それでも感覚という全てが現実だと語っているのに嫌気がさす。


「これが金ね。こんな狭いとこで、勉強させられるとは思わなかったな」

「これでも一等の馬車よ。感謝しなさい。姫様に」


 真島隆也の前で腕組みしている女は――リネルと名乗っていたが、隆也は忘れている――蒼い髪をひとつに纏めている。

 ありえねえ。蒼? 鎧に剣。次は馬車に銀貨ときたもんだ。これが、幸雄の言ってたロマンか。


「姉御。戻りやした。兄さんに似合う服と革鎧で」

「鎧まで? おいおい。俺は何か? 冒険者か?」


 隆也が驚いているのをよそに、服を受け取ったリネルが睨んでくる。


「早く着替えて。説明を続けるから。冒険者って、そっちにも居たのね」

「いねえよ。つか、ここで着替えろと?」

「なに? 引き千切るわよ?」


 なに、この馬鹿女?


「まあまあ、姉御。こんなんでも客人だ。片耳にしちゃまずいですって」


 なに、このチャラ男?


「仕方ないわね。どこまで説明したかしら」


 この馬車は狭いし、これが客人の扱いとか、最低な奴らだ。

 高さだけはあるが、横幅がない。大人が四人もいれば、肘が当たるのを気にしなければならない。

 幸いなことに、チャラ男が手綱を引いているから、実質二人か。確かに十分っちゃあ、十分だな。


「ユライルって国が、姫さんだろ? カクシカが巫女。自由すぎる国が、ティタニア。んで、村が近いから、服を買いに行った所で、金の説明を」

「そうそう。今の銀貨が一エル。銅貨が一〇〇テルで、一エルになる計算よ。一〇エルあれば銅紙幣一ピルになって、一〇ピルあれば銀紙幣一レルになるわ」

「あ? 一円、百円、千円、一万か」


 服を着替え終わった隆也が鎧を睨んでいる。


「なにそれ」

「俺の国の紙幣価値。金の呼び名がめんどくせえが、わかった。実物はあんのか?」

「あるわ。さっきまで、エルがなかったけどね。お釣りあったし」

「見せてくれ」


 銅貨も銀貨も雑だな。中心付近に混じっているだけか。パチンコ屋の景品みたいだな。紙幣も同じか。なるほどねえ。


「まあ、呼び名がわかんなくても、銅貨、銀貨、銅紙幣、銀紙幣で覚えておけばいいわ。貴族か、貴族と付き合いのある商人ぐらいしか言わないし」

「んじゃあ、説明すんな」

「なに? 姫様の気持ちを馬鹿にするわけ? 引き千切るわよ?」

「お前のことがわかってきたよ」

 金を返しながらも思考する。「それじゃ、一旦、まとめるぞ」


 主な国は三つ。

 神唱国カクシカは神様万歳。

 夢幻国ユライルは姫が美しい。

 独走国ティタニアは自由すぎる。


 酷いまとめ方だと思うなかれ、それしか説明されていないのだから。


「違うわ。姫様はとても美しいの。それを言葉で説明できていると思わないことね」

「お前が馬鹿だということはわかった。それで、ユライルに向かってるわけだが、今後の事を知りたい。俺に何を期待している?」


 隆也の眼が細くなると、リネルは笑った。


「理解が早くて助かるわ。貴方の仕事は簡単よ。抑止力になって欲しいのよ」

「抑止力……って事はだ。その、俺らを召喚したとかいう」

「カクシカの巫女よ」

「そう。カクシカに対してか?」

「それだけじゃないけど、主にそれね。貴方には武力を期待している」

「なるほどね。ったく、めんどくせえ。幸雄の奴は上手くやってるのかねえ」


 隆也が落ちたのは、幸いにしても村が近い草原であった。あの地震があった瞬間、道路標識が折れ曲がってきたのだ。幸雄を突き飛ばし、紙一重で避けられた事は幸運だと思っている。

 草原でひとり、立ち尽くしていた所、この馬車が通りかかったので声をかけた。


 それにしても第一声が“異界人だな”とは思っていなかったが。



  *****


 真栄田幸雄は爆笑していた。


「そ、それほど、可笑しかったでしょうか?」


 真赤なローブを羽織っている女性は周囲に助けを求める眼を向けていた。


「いや、異界人ですからね。こちらとは常識が違うのかも知れません」


 真青なローブを羽織っていた男性が渇いた笑い声を出している。


「ああ、笑った、笑った」

 涙を拭うように目を擦りながらも、幸雄は二人を見た。「それで、真赤な巫女がニア様。真青のローブが」


「システィです。姫の護衛も兼ねているので、蒼のローブを着ています。普段はそこの者らと同じように、白のローブですが」

「そうですね。システィには苦労をかけます」

「いいえ。これも神の思し召し。本来であれば、カグラ様が同行されるのですが」

「私の我が儘です。本当に申し訳ありません」


 ニアが頭を下げるのを見て、システィが慌てている。


「まあ、そんな事は置いといて」

 幸雄が言うと、周囲の人間の視線が集まった。「失敗しちゃダメでしょ?」


 幸雄が爆笑していた原因は、召喚に成功したものの“呼んだ場所がわからない”と言う事であった。


「確かに。肝が冷えましたが、こうして、ユキオ様に会えましたし」

「いやいや、もうすぐ死ぬ所だったけどね。まさか狙ってたとか?」

「あ、あれは、偶然です!」


 システィの顔が真赤になっているのを見て、幸雄の溜飲は下がっていく。

 さすがに考え過ぎか。命の危機を救ったから言う事を聞けぐらい言われるかと思ったが?


「システィの言う通りです。神の信託があったので、あの場所に向かったら、幸雄様とモールが戦っている様子でしたので、かなり慌てました。それと同時に納得もしました。幸雄様のお姿は、とても輝いておりましたから」


 文字通り発光していた。


「まあね。やればできるかなあ? そう思ってたし」


 幸雄が落ちた場所ではモールが争っていた。食物連鎖の一端を見た幸雄は、すぐさま木の陰に隠れた。

 まあ、即座に見つかって、殺されかけたけど。こう、うん。中二病的に発光してみたら上手くいって良かった。


「あの光がなければ、発見は困難を極めていたでしょうね」

「そうですね。あの召喚時の膨大な魔素を考えると、幸雄様ひとりに対しては大き過ぎる気がしたのですが」

「ああ。僕一人じゃないと思うよ。その地震……じゃなくて召喚に巻き込まれたのは、後二人いるはずさ」


 幸雄の言葉でニアが固まった。


「今、二人と?」

「そうだよ。ひとりは真島隆也。身長も君らぐらいある。僕の側に居たし、こっちに来てると思う。もう一人はどうだろ? 来ているかも知れないし、来ていないかも知れない」


 ニアの眼が閉じられた。それを見て怪訝そうに幸雄が呟いてしまう。

 なにをしてるんだろう?


「神からの信託でしょう。巫女はいつ信託を頂いてもいいように、準備をしておりますので」


 まるで電波だ。常に待ち受け状態ってわけだ。

 システィの説明を聞きながらも、幸雄は頷いている。


「システィ。異界からは三人来たようです。一人はユキオ様。そしてユキオ様が仰ったタカヤ様は、ユライルの使者と共に居るようです」

「ユライル?」

「国の名です。私達の召喚を知っていたようですね」

「生きているわけだね。もう一人は? 楓?」

「はい。その……ユキオ様のご友人なのでしょうか?」


 ニアの顔が俯き加減になる。


「そうだけど……まさか!」

「いえ。生きています。生きていますが」

「居場所がわからない? 神でも?」

「いえ。わかっています。ステニアの谷に落ち、さらに落ちたと、神は仰っています」

「落ちて、落ちた?」

「はい。現在地はわからないと。ただ、生きている事はわかっているようです」


 はあ。神も万能じゃないのね。それにしても楓も来ているわけだ。


「なるほどねえ。これこそ、ロマンだな!」


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