果てなきウィズディア
老婆は語る――かつて叡智を誇っていた王国を幻にしてしまった存在“モール”は、最果てにある“ウィザニア”から来ていると信じられていた。
きゃつらは醜悪であり、妖艶であり、肉塊である。突如現れた災害。そう思われていたモールでさえ、人々は慣れてしまったという。いつしか日常に成り下がった災害は――驚異であり、怪異であったが――常識になり、ただの謎と成り下がった。
どこから来るのか。
どこへ向っているのか。
どこで産まれているのか。
その場所を知らしめたのは、英雄でもなく覇者でもない、ただの愚者であった。
唯一、そこから生還をはたした愚者は、声高に懇願したという。
くすんだ鉄の軽鎧。顔には泥がついていた。地に膝を付き、天を仰いでいう。
「奴らを。奴らを殺し尽す為なら、王にさえ逆らってみせよう。だから、だから頼む。俺を! 俺たちを助けてくれ!」
その言葉を聞いた男らは罵った。
その言葉を聞いた女らが嘲笑った。
その言葉を聞いた子供らでさえ石を投げた。
皆が口々に愚者を否定していた中、名乗りをあげた男たちがいる。
「こいつは凄いぞ。あれを殺し尽すというのだから」
銀の軽鎧を輝かせている冒険者をしていた男は、鞘から剣を抜いて高々と掲げ、周囲に視線を巡らせた。
「貴方が抜いたから、彼まで黙ってしまったではないですか」
音を静止させた剣に槍を近づけ、軽快な音を鳴らす男は重厚な金の鎧。
「お、俺は」
「おりゃ、乗るぜ」
「私も参加しますよ」
愚者は泣き喚きながらも、感謝したという。
そ奴らが後の勇者、覇者、愚者となる男たちの出会いである。
老婆は謡う――緑が溢れる大地に語り継がれる“果てなきウィズディア”を。
2013/03/03 一部編集。




