プロローグ
はじめまして、読んでいただきありがとうございます。
更新はきまぐれな作品です。ご容赦ください。
それでは、すこしでも心に残ったら幸いです。
……世界はクロかった。
ただただ、その世界はクロく、そいつ(・・・)は他の色を喰らっていく。
色んな色がいたが、最後は全て、喰われ、消えて、いつものクロいだけの世界にそいつと二人っきりになった。
そいつはなにもかもを喰らっていくヤミであった。
しかし、それをどうこうしようと思わなかった。
何も考えず、ただただそこにいるのは何もないから楽だったのかもしれない。
何かがやってきてもヤミが喰らっていて気づくことはなかったから楽だったかもしれない。
世界が終わっても分からないまま閉じていくだけだろうと感じていた。
だがある時、世界に初めて別の色が混じった。
眩しくて、熱く、そして妙な気分にさせられる。
どう扱っていいのか。初めて考えなければならなかった。
その時、ヤミは残っていた。
さらに濃いクロになった気がした。
世界が少し狭くなった、窮屈になったと蠢いているみたいだった。
またある時、さらに3つの色が混じった。
輝き、寒く、優しい。
煌き(きらめき)、暑く、あたたかい。
閃き(ひらめき)、温く(ぬるく)、楽しい。
そんな色が混じる。
何かを考えるが考えずにいられた。
ただそこにいるのが楽しく、安らぎ、落ち着いた。
世界に色が混じるのがその頃には慣れていた。
慣れてしまっていた(・・・・・・・・・)。
ヤミがさらに小さく、だが一層濃くなった。
なのに、不思議と静かにいた。
暴れるのをやめ、蠢くのもやめ、存在していないがごとくに息を潜めた。
だから、忘れてしまっていた。
やつは、ヤミは、なにもかもを喰らう飢えた存在であることを。
段々と世界が色々に色づき、綺麗になったとわかった。
だから(・・・)わからなかった(・・・・・・・)。
新しい色が世界に混じった。
それを気にもせず混じったのを見ていた。
その色はとても鈍く光っていた。
気がついたときにはその色が世界を塗りつぶしていた。
その自分の色に、世界全てを塗りつぶしていった。
クロだけの時には気がつかなかった。
ここを奪われたくない。
元に戻そうとした。しかし、最初の色がいなくなっていた。
抗おうとした。でも、色々な色が全て取り込まれていた。
取り返そうとした。が、2つの色しかを取り返すことができなかった。
目の前で楽しい色が塗りつぶされるのを分かりながら、逃げるしかなかった……。
その色がいなくなり、世界が空虚になっていた。
近くに取り返した二つの色がいたが、空虚だった。
恨みたかった。
怨みたかった。
呪いたかった。
だが、やつあたりにでしかない。
守れなかったのは、助けたかったのは、失くしたのは……
自分だ。
空虚な世界に1つの点が現れた。
--いや、その点は元からあった。
目を背き続けていたソレ。
他の色に紛れさせていたソレに目を向けた。
残っていた2つの色を捨てた。喰われないために。
点が広がりヤミとなった。ヤミは飢えを取り戻すように暴れまわった。
ヤミは辺りを食い荒らしていく。
空虚な世界全てを。
逃がした二つの色も。
すべてを塗りつぶして消えた色も。
己すら喰おうとした。
自分をも喰おうとした。
その地獄の中で自分は抗い、生き続けなければならない。
楽しい色が俺を塗りつぶしに来るまで。
それがーーーー自分の罪だから……
……目をあけると青空が広がっていた。灰色に見える雲から白い太陽の光りが差し込んでくる。
体を起き上がらせるといつもと変わらない校庭の風景が眼下に広がっている。
登校時間でもっとも人がやってくる時間帯で、人が絨毯のようにも見えるようだった。土の茶色。制服の黒のような紺色。そのなかに黒や茶、金といった頭のアクセントが混じって不思議な模様に見えてくる。
耳には生徒同士のあいさつや世間話が鳥のようにざわめいて聞こえてくる。しかし、そんないつもの風景がどうにも気に入らないのはさっきまで見ていた妙な夢のせいだ。
動くに動けず、叫びが叫びにならないほどの声となり、暴れるように抗い、ヤミに埋まっていく。
おかげで背筋を汗が伝っていくのを感じていた。風がいつもより寒かった。
「――いったい何なんだ?」
額から滲み出てくる汗を拭い、荒々しく屋上から去ることしかできなかった。
夢もヤミもそのまま記憶の奥底に沈めておく。だが、それは後で浮かびあがってくる。
隙間からこちらを覗いている目にも気づかずに……。
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