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居候のきゅーぴっど!  作者: 逸鬼
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え!? 本当にあなたですか?


 宿題が終わらない。さてどうしようか。

 もう朝のホームルームが始まりそうな時間だ。実に四十分はプリントと睨めっこしていたことになる。

 さっき我が友人のクラス委員長様々にプリントを借りたが、なにせ時間が足りない。借りる時にも呆れられたというのに、これで出来なかったら更に言われたい放題になる。

 さすがにそれは回避すべきだ。絶対に。あいつの口撃こうげきはたまにねちっこくなるのだ。俺が勉強面でサボった時は特に。

 俺が取り組んでいるプリントは、数学の一次不等式とかいうもの。

 場合わけやらなんやらで頭を抱える内容である。

 とりあえず、プリントをどんどん写していく。が、あと二問くらいのところで、学校の一日が始まるチャイムが鳴った。

 慌てて席に着く人とか、鳴り始めてから教室に入るやつまで……自由すぎるだろ、おい。

(あーぁ。また学校か。篠宮さん見てがんばろう)

 って、そんな事考えてる場合じゃない。一時限目までに終わらせないといけないプリントがあるのだ。ていうか、篠宮さんまだ教室に居ないし。詰んだ!

 気を落としていても仕方ないし、俺はまたプリントにペンを走らせる。そうすると、これまたタイミングよく教室の後ろ扉が開けられ、

「おら、さっさと席に着け馬鹿ども。ホームルーム始めっぞ。遅い! 急がないと遅刻扱いだって言ってるだろ」

 あんまりな暴言とともに、俺たちのクラスの担任……沢中が登場した。

 生徒相手に馬鹿どもって……最近じゃなかなか居ない教師だと思う今日この頃。

 まだまだ三十も歳はとってないだろうに、よく頑張るよな。

「桐谷、号令」

 号令を出すのはクラス委員長の仕事だ。いや、まぁ俺の友達だけどさ。

 あいつ……桐谷の号令でクラス全員が立ち上がる。挨拶。

「ぉはょぅざいま……」

 って小さっ!

 ボソボソと言っててほとんど聞こえなかった。 

 四十人でこの大きさって、なんだか不安になる。いつものことだ、とか言ったらそれこそアウトだけど。

 そんな挨拶に何を思ったか、沢中が文句を言ってきた。

「相変わらず元気のねぇ奴らだな。ちったぁ変わるってことしたらどうだ?」

 俺はあんたが俺たちに向かって挨拶をする姿なんて、滅多に見ませんよー? あんたも変わったらどーですか?

「週末なんだから、もうちょっと溌剌としやがれ」

 個人個人で大分変わってくると思う問題だろ、それは。

 俺からしたら、土日は篠宮さんに会えるわけでもないから、週末は淋しさがあったりするし。

「とりあえず連絡事項から言うぞ。まずは課題だ。前回は出が悪かったからな。今回ので反省くらい見えねぇと、この先大変になるってことを覚えておけよ」

 へいへい。分かってますって。……いや、分かってますからこっちを見ないでくれませんかねぇ!?

 あんまりにも睨みが効いていたもんだから、思わず手が止まってしまう。

「さっさとやれ、大崎」

「……はい」

 担任からの有り難い許可が下りたので、さっさと片付けに入る。どうやら、クラスの中じゃやってないのは俺くらいらしい。いつもなら一緒にやっていない奴らに視線を向けると、俺が必死こいてやっているプリントを見せながら、したり顔をしてくる。裏切り者めっ。

 と、まぁそんなことを考えてるうちに後一問だ。なんとか大丈夫だろう。

「他はやってあるな? 日直、あとで集めて俺のところへ持ってこい」

 今日の日直って誰だったっけ?

 そういえば、まだクラスメイトの名前と顔が一致しなかったりするんだよな。中学も一緒だった人と、篠宮さんは別として。

「二つ目だが、来週からテスト週間に入るってことは覚えてるよな?」

 あ、忘れてました☆

「はぁ。最下位、ちったぁ自覚しやがれ。俺が助けてやれんのは、理科だけだぞ」

 さすがに人の成績をばらすのは問題じゃないんですか。知ってる人は、とっくに知ってるわけだけれども!

 ていうか、理科が出来るなら数学とか英語も多少なりとも出来るんじゃないのか?

「まぁ最下位じゃ、教えたところで理解にまで及ばないか」

 それ以前の問題突くんじゃねぇよ!

 俺だって努力してんの。わかりますっ?

「えー、まぁこんなことは自己責任だから放っておくとして、連絡は以上だ。無反応にも飽きたしな。それじゃお前ら、今日も勉強はしっかりするように」

 たまに教師っぽいこと言いやがる。理由がなんか悲しいけど。

 って結局まだあと一問が終わってないし。

「起立」

 おい、待て桐谷。俺はまだ課題が終わってない!

 いま挨拶が終わったらすぐに回収されますから! 人によっては提出を待ってくれないんだから、やめてくれ!

 そんな俺の願いは、周りがぞろぞろと立ち上がる気配に掻き消された。

 はいアウト。万事休すって言うんだっけ?

 立ち上がったあと、やっぱり小さな挨拶を聞きつつ、俺は速攻で着席。机の上に転がしていたシャーペンを取る!

 中学で鍛えてきた、『答え写し』のスキルをフル活用に。

「隆也、終わりそうか?」

「にやにやしながら言ってこないでくれませんかねぇ、桐谷委員長?」

 挨拶が終わると同時に寄ってくる。言動からして馬鹿にされてる気しかしない。

「いや、そんな必死になってやっている姿を見ていては、笑わずにはいられないさ」

「くっ……そのねじ曲がった性格を真っ直ぐにすることを要求する! お前は俺にもっと優しくしても良いはずだ!」

「なに、充分優しくしているじゃないか。隆也には特に。お気に入りなんだから、そうするのは当然だ」

「お気に入りの方向性がおかしい、絶対にっ」

 からかうためのお気に入りとかだったら……い、いや、やめておこう。なんだかんだ言っても友達と呼べる相手、のはずだ。

 俺自身も、桐谷と話しているのはなんだかんだで楽しいし。

「ねぇ」

「ん? 誰だ?」

 ふとした拍子に話し掛けられて、若干驚きつつ返事をする。

 女子の声だ。でもなんで俺と桐谷が声をかけられるんだ?

 すると、桐谷が、

「あぁ、篠宮か。どうかしたのか?」

 なんとも驚きな発言をしてくださいました。

 え? え?

 篠宮さん?

 あの無口でいつの間にかどっか行ってて、ここ一週間ユキのおかげで毎朝教室に二人っきりで居て、でも俺のことを完全に無視する篠宮さん?

「あ……本当だ」

 見ると確かに篠宮さんである。俺の机の前に立っていて、なにげに近い。

 もちろん、俺の動揺かなり激しくなっております。

 だって始めて話し掛けられたんだぜ?

 もうそれこそ俺の気分はうなぎ登りなわけでして!

 が、そんな俺の思いとは裏腹に、篠宮さんはなんとも聞きたくない一言を言ってくれました。

「プリント、あとは大崎くんと桐谷くんだけなの。早く出して?」

「え、あ、うん。わかった」

 思わず返事をしてしまったが、プリントを回収しにきたってことは、今日の日直は篠宮さんなのか。黒板消したりするのって、なかなか大変なんだよな。とくにチョークの粉が降ってきて、思わず咳こんだりするのがどうも苦手で……。

 そんなことを考えつつ、手元のプリントに目を落とす。

 あっれー?

 まだ終わってないよ?

「残念だが隆也、タイムリミットだ。俺のプリントは提出させてもらうぞ」

「え? あ、おい待ってて! あともう少しなんだからよ!」

 なんとかプリントを確保したままにしようとしたが、頭を叩かれ、ひるんだ隙に一瞬でとられた。いや、だから分からないんだって。自力じゃ時間がめっちゃかかりますから!

「よろしくな、篠宮」

「ん、あとは大崎くんだけね」

「ご、ごめん……あと少し時間を」

 ちょっと必死になってお願いしてみると、案外もう少しは待ってくれるらしい。

(思ったよりも、話がしやすいな)

 何度も言っているけど、篠宮さんはクラスの中じゃ誰かと仲良くしているところを見たことがない。かと言って、クラスの外はどうかと言うと、いつの間にか消えていて何をしているのかわかりやしない。

 そんな人だから、話しづらいようなイメージがあったんだよな。毎朝あいさつしても返してくれないからって理由もあるかもしれないけど。

 そういえば、朝のホームルームの時もいなかったな。いつ来てたんだろ。

「では隆也、せいぜい迷惑にならないように頑張ってくれたまえ」

 これでも頑張ってはいるってーの。

 それでも出来てないから苦労してるってのに……。

「はぁ……やるか」

 えっと……とりあえず場合わけは終わってるんだよな。で、こっから…………何をすりゃいいんだ?

 三分経過。わかんねぇ。キラッ。

「それね」

 そんな悩みまくってた挙げ句、助け舟を出してくれたのは意外なことに篠宮さんだった。

 俺の机の隅にプリントの山を置き、隣まで移動してくる……って、え?

 か、かかか顔が横にあるんですけど!

 これってどんな状況ですか!?

「ねぇ、聞いてる?」

「あ……ご、ごめん。もう一回だけお願いしていいかな?」

 危ない危ない。唐突すぎて若干トリップしかけたぜ。そんなことじゃ俺は負けたりなんかしねぇ!

 こんな篠宮さんが隣にいるなんて、まずありえないんだ。止めてたまるか。

 絶対にだ!

 その熱意が伝わったのかどうかはわからないが、俺が悩んでいた問題について解説を始めてくれた。

「ここで符号が変わるから、ここも変わるの。あとは、数直線を書いて確認してみれば……ほら、こんな感じで出来るから」

 こ、これは……俺的にはかなり幸せと言いますか……うん、幸せ!

 篠宮さんが少し乗り出して問題を指差しながら教えてくれるおかげで、彼女の顔が近くはないけど、でも遠くない位置に!


 俺、今なら悔いがないと思う!


 って待った待った。

 せっかく教えてくれるんだから、きちんと聞かないとな。

 篠宮さんの教え方は、頭が……主に勉強面においてだけだと思いたいけど、よろしくない俺でもかなり理解しやすかった。

 うんうんと悩んでいた問題があっさりと終わり、なんとか緊張を押し退けてもお礼を言い、プリントを手渡した。

「あ、ありがとう。おかげで助かったよ

「ん、それじゃ、わたしは提出してくるから」

 あれ?

 そういえば、初めて篠宮さんとまともな会話をした気がする。

 思い返してみても、やっぱり彼女と言ったら、無口だとか、いつの間にかどっかに行って、いつの間にか戻ってくる、みたいな印象しかない。

 加えて言えば、挨拶を無視するという……俺ってなんか嫌われてるのか?

 いや、でも嫌われてるんだったら、いま話しかけられたのは?

 宿題を待ってくれた挙げ句に手伝ってまでくれたし……。

 ……ただの気分屋とか?



 結局、どんなに考えようが、俺なんぞに女子のことはわからないのである。

 女子の知り合いなんて本ッ当に少ないからな!

 悲しいくらいに!

 数少ないながらも名前を出すとすると……。数名いなくはないけど、知り合いと呼べるのかすら怪しいレベルだ。

 ちなみにユキはノーカウントで。あれは幼女だ。改めて俺はロリコンでないと言っておく。


 結果はもちろんというか、『解なし』だった。


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