えっと……結局どちらさまで?
状況を整理しよう。現在午後八時。
俺は高校で出された課題を、なんとか悩みながらやっていたわけだ。まったく進んでないけど。
で、まぁ高校生になったは良いけど、彼女は相変わらず出来ない俺は、日々の不満を晴らすべく叫んだわけだ。
「彼女が欲しい!」
とな。
そしたら、いきなり頭を叩かれた。無茶苦茶カワユイ幼女様に。
そんでもってこれがもう見事に痛いんだよ。後頭部をバシーンと良い音響かせつつ、力を込めた一撃だ。
もちろん俺はMでもなければ、ロリコンでも無いので興奮はしていない。
しかーし!
問題は別にあるのだ。
目の前にいるこの少女、というか幼女を俺は初めて見たのだ。
面識?
ゼロに決まってる。
ではなんでそんな幼女が俺の部屋にいるのか。
聞くな。
むしろ、こっちが知りたいっての!
「で、結局のとこ……どちら様で?」
頭の中で考えていても仕方ない。とりあえずは本人に質問だ。
「さっきから言っておるではないか。大崎隆也、お前の恋のきゅーぴっど、なのだ」
いや、だからそんなドヤ顔で言われてもねぇ?
「そんなこと言われても、訳がわからないんだけど……」
いくら勉強が出来なくても、多少の常識くらいはある。
さすがに、こんな突拍子もないことを言われて『はい。そうですか』なんて言えるわけがない。
無理、不可能、インポッシブル!
……最後のは最近知ったばかりで、意味が合ってるかなんて知りません。
「むぅ……そんなに疑うと言うなら、証拠を見せてやるぞ?」
「証拠?」
これまた大きくでたな。証拠? そんなものどうやって用意するんだよ。
と、思っていたのだが。
「そうじゃ。では手始めに……隆也、おぬしの意中の相手を誰か当ててやろう」
そう言って幼女……ユキは不適に笑った。
つもりだろうが、可愛いだけで雰囲気も何もないっての。
でも、本人に自覚はなし。
っとと、それはともかく。
「そんなことが出来るのか?」
半信半疑で聞いてみる。まぁ無理でしょうけどね。
「なに、わしにかかれば簡単なものだな」
幼女がわしって……でもなんか妙にマッチするのが恐ろしい。
「言ったな? ならやってみろよ」
ふん、どーせ何も出来ずに謝ってくるんだろ?
この見知らぬ幼女は、きっと親戚か何かなんだよ。
だから母さんは、ユキちゃん、だなんて呼んだだよな。うん。
小さい子供だから、俺をからかおうとしてるんだろう。
俺が知らない親戚が居たかどうかは怪しいが……きっといるってことで。
で、例の自称恋のきゅーぴっどはと言うと、いつの間に着替えたのか、黒いトンガリ帽子にマントという……。
「それって、魔女っ子のコスチュームだよな!?」
「あ……間違えた」
か、カワエエエ!?
間違えたとか言って、顔赤くするとは思わなかったぞ!
まったく、愛情とか抜きにして、純粋に――……カワエエッ!
「そうそう、こっちじゃ、こっち。隆也くん、調子はどう?」
「それは白衣の天使だ!」
ちなみに幼女なので、俺には効きません。効果はいまひとつだ!
「む……これも違ったか。えっと……これだったかの? 逮捕しちゃうぞ!」
「夢の婦警だと!? つか、それもおかしい!」
「お帰りなさいませ、大崎さま。夕食に致しますか? それとも……」
「今度はメイドだと!? そしてこれは定番のアレか!」
「意中のお相手を当てて見せましょうか?」
「なんでだよ!? テンプレ外した上に面白くもなんともねぇよ!」
「むむ。しかし今のやり取りの間に終らせたぞ?」
「いつの間にですか。そんなことしてる様子なかっただろっ」
「何を言うか。仕神術を使うために、格好も動作も大して意味はないのじゃぞ?」
「今までのやり取り無意味でしたか。そうですか!」
つ、疲れた。こいつ、何処からこんなにコスチューム出してるんだよ。思わずツッコミ入れちまった……。
いきなり騒いだせいか、その反動の疲れが来た。
「で、シシン術? なんなの、それ」
今の俺の心境は、やけにうるさいやつを相手するという事態のせいか、疲れ半分、楽しさ半分と言ったところか。
「簡単に言ってしまえば、われら、神に仕えるものが使う魔法のようなものじゃ」
「まったまた〜。そんなに嘘が好きなのかい?」
「むぅ。なぜそんなにうたぐり深いのじゃ?」
少なくとも、サラッと言ってすぐに納得出来るものじゃない。
そうであってたまるか!
「うぐぐぐ…………ええい!」
この子、見てるだけでもめっちゃ飽きないんですけど。
さっきから表情がコロコロ変わって……もう、なにこの面白さ!
恥ずかしがったり、困った顔したり、今はカワイイ顔して睨んで来たり。
なんか普通に楽しいし、悪ふざけに付き合うくらい良いかもな。
「大崎隆也! おぬしの意中の相手は」
「ん? 分かったなら言ってみろよ」
どうせ当たらないだろう、と俺は幼い子供を微笑みながら見る。
しかし、そんな微笑みをあっと言う間に失いましたとさ。
「この娘……篠宮楓じゃろ?」
何処からか出した写真を片手に、俺のクラスメートの名前を出してきた。
つか、どうして名前を知ってんだよ。
「いや、違います」
「な、なぬ!?」
とりあえず否定。即答だ。
いやー……危ない危ない。
幼女相手に一瞬とは言え、動揺してしまった自分が恨めしいぜっ!
しかし……篠宮さん、やっぱり写真写りが良いな。
綺麗さがさらに五割増し!
いや、しかしやはり実際に俺が俺自身の目で彼女を見た方が最高に可愛く、綺麗であるのは間違い。
俺の持論としては、女性の美しさはやっぱり生で見て自分の記憶に入れ込むべきだと思うわけだ。
つまり、俺が何を良いたいのかと言うと、俺が恋してやまない篠宮楓さんの魅力は写真なんかで表現仕切れるわけがない! ということだ。
しかし、まぁ写真にも写真なりの良さがあるのは認める。
「……隆也、おぬしの目がこの写真から離れておらぬばかりか、だんだんと距離が近くなっているのじゃが……」
「……ハッ!?
い、いや、これは別に俺が彼女を好きと言うわけではなくてだな、ただこの写真のアングルで見る篠宮さんは初めて見るレア物じゃないかと思っただけでして!」
あ……。
「うむ。完全に墓穴を掘っておるな」
「し、しまったぁぁぁ……」
まさか俺より人生経験が少ないはずの幼女に負けるとは……。
「で、でもどうやって分かったんだよ」
そうそれだ。もしかしたら、ただあてずっぽうに言ったのかもしれないしな!
……さすがにそれは無いと思うが淡い期待というものだ。
「これは比較的簡単じゃぞ?
仕神術でおぬしの心から探っただけじゃ」
「へ? 心から探った?」
俺の問いにユキは頷いて、説明をしてくれた。
のだが、俺からしたらちんぷんかんぷんなことだらけだった。
「えっと……とりあえず、俺の心から探れるのは記憶じゃなく記録、だっけ?」
「そうじゃ。例えば、おぬしが篠宮楓が好きだ、という事実は記録として探れるが、おぬしの気持ちは分からず、記憶などの映像なども見れぬ」
うん、分からない。
とにかく、プライベートは……筒抜けだが、全てが知られるわけじゃないと。
「これでさすがに、おぬしも信じずにはいられないのではないか?」
「ま、まぁ……うん」
でも、なぁ……。やっぱり信じれるものじゃない。
しかし、そんな疑う姿勢を崩さない俺を見て、ユキはペラペラと色んなことを喋りだした。
もう、それはそれは、俺しか知らないはずの、加えて忘れたいと願っている事実が彼女の口から出るわ出るわ。主に想い人関連の。
唖然としながら聴き続け、十分ほどして俺は恥ずかしさからキブアップをし、ユキの話を信じることにした。
「分かった、分かったから。信じるからもう止めてくれ」
「あれは……む? そうか?
ならば仕方ないなー、ユキ様と読んだら考えなくもな」
「誰が呼ぶか」
一発叩いてやった。