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ある盾役の憂鬱 外伝Ⅱ<孤高の魔人と癒しの聖女>  作者: SDN


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7/8

不本意

「助けていただいてありがとうございます」


 女が礼を言う。そのほっとしたような表情が、カイルの顔を見た途端、驚きと喜びが入り混じったものに変わった。


「あなたは……カイルさん!?」


「やぁ、また会ったね。怪我はないかい?」


 女はわずかに頬を赤らめて頷いた。


「大丈夫です。あなた方に助けてもらうのはこれで二度目ですね」


「三度目がないよう願っているよ」


 カイルの軽口に、女も「そうですね」とはにかんだ笑顔で応じる。

 そんな再会劇が繰り広げられている一方で、イスタリスはひたすら困惑していた。

 というのも、ローブ女のことを知っていたからである。それもつい一年前まで嫌というほど見てきた顔だった。


 ダイアナ=ギスラー。

 魔法学校の同期生で、貴族家出身のれっきとしたお嬢様である。

 真面目で成績優秀な才女。孤高を気取っていたイスタリスが他の生徒と距離を置いていたなか、やたらと口煩く絡んできた迷惑極まりない女でもある。魔法学校卒業後は王宮魔法士になったと聞いていたので、もう二度と会うこともないだろうと思っていたが、まさかこんなところで遭遇するとは……。

 なんにせよ、積極的に関わりたくない相手だった。

 幸い、ダイアナはカイルとの会話に夢中でこちらに気付いた様子はない。イスタリスは気付かれぬうちにと回れ右した。


「おーい、イスタリス!」


 カイルの呼ぶ声が無慈悲にもイスタリスから逃亡する機会を奪った。

 仕方なく振り返ると、ダイアナの目が驚いたように見開かれていた。

 互いに咄嗟に言葉が出ず、期せずして見つめ合う形となってしまった。


「ん? ひょっとして彼女と知り合いなのか?」


 カイルの問いかけに、イスタリスはやむなく頷いた。


「知り合いっていうか、あれだ、いわゆる同期生って奴だ。魔法学校のな」


 カイルは「えっ」と驚きの声をあげてダイアナを見た。


「君は魔法士だったのか……てっきり行商人かと思ってたよ。でもなるほど、そういうことならふたりが知り合いなのも当然か」


 カイルはひとり納得したように何度も頷く。


「……久しぶりだな、万年二位女」


 イスタリスはダイアナの魔法学校時代の渾名を持ち出して挨拶した。


「ちょっと、その呼び方はやめて。それよりもどうしてあなたがこの街にいるの?」


「はん、そりゃこっちの台詞だ。お前、たしか王宮魔法士になったはずだろう」


「私はもう王宮魔法士じゃないわ」


「は?」


「私は冒険者になるために、このレニゴールの街に来たの」


「冗談ならクソつまらねーし、本気だとしたらなおさらタチの悪い話だな」


「私は本気よ」


 そう言い切ったダイアナの顔を見て、イスタリスは彼女が本気だと悟った。そもそも魔法学校時代から糞がつくほどの真面目な性格だった彼女がその手の冗談を言うはずがなかった。


「あんな猿並の知能しかなさそうな連中に引っかかってた間抜けが、よくもまぁそんな偉そうな台詞を吐けるもんだな」


「あ、あれは……冒険者が集まっていそうな店がどこか探していたら、突然あの人たちに声を掛けられて、それで――」


「いいか、ここはお前みたいな世間知らずのお嬢様がくるところじゃねぇ。痛い目見ないうちにさっさと王都に帰れ」


「なんであなたにそんなこと言われなきゃならないのよ!」


「ええっと、お取り込み中すまないが、ちょっといいかい?」


 カイルが強引に割って入ってきた。


「ダイアナ、君は元王宮魔法士なのかい?」


「え、ええ、まぁ……一応は」


 ダイアナの返答は妙に歯切れが悪かった。


「さっき彼が言ってた万年二位女っていうのは?」


「そ、それは……」


「こいつ、魔法学校でずっと成績が二番目だったのさ。それでついた渾名だ。ちなみに不動の一位は俺だ」


 イスタリスは言い淀むダイアナに代わって答えた。


「ついた、じゃなくて、あなたが勝手につけたんでしょ!」


 そう喰ってかかるダイアナを、カイルは「まぁまぁ」と宥めつつ、「それで君の魔法適性は?」と尋ねた。


「か、回復魔法です、けど……」


 カイルの顔に「我が意を得たり」とばかりの笑みが浮かんだ。


「それは素晴らしい。俺たちはちょうど回復役(ヒーラー)が仲間にほしいと思っていたところなんだ。ここで君と再会できたのもなにかの縁だ。ものは試しで俺たちとパーティを組んでみないか?」


「わ、私を、ですか?」


「ああ、魔法学校を次席で卒業したんだろう? だったら申し分ない」


「でも私はこの街に来たばかりで、冒険者のことだってまだぜんぜんわかっていないし……」


「誰だって最初はそうさ。冒険者のことは俺たちが色々と教えられるし、それにさっきみたいな連中よりも、知り合いがいるパーティの方が安心だろう?」


 そう言われたダイアナは、実に嫌そうな表情を浮かべながら視線をイスタリスの方へと向けた。


「ひょっとして、この人も一緒のパーティなんですか?」


「そうだけど、なにか不都合でも?」


「えっと、普通に嫌なんですけど……」


 ダイアナはちゃんと不満を口に出せる性格の持ち主であった。

 このアマ……と口に出そうになるのを、イスタリスはぐっと堪えた。この際断ってくれた方がありがたい。


「とりあえずお試しでいいから。一度組んでみてやっぱり嫌だなと思ったら辞めてもらって構わない。彼ともそういう約束で組んでいるんだ」


「でも……」


「何事も経験さ。失敗したら、それを次に活かせばいい。これから冒険者として活動するなら、気に入らない奴とだってパーティを組む機会もあるだろう。その練習だと思えばいい」


「……」


「もちろん無理強いはしない。ただ、俺はここで君と再会したことに運命を感じてる。ぜひ一度君とパーティを組んでみたい。真剣に考えてみてはくれないか?」


 立て板に水のように説得の言葉を並べていくカイル。

 徐々にダイアナがほだされていく過程を、イスタリスは絶望の心持ちで眺めていた。


「そ、そこまで言ってもらえるなら、とりあえずお試しで……」


「ありがとう、ダイアナ。これからよろしく」


 満面の笑みを浮かべて手を差し出すカイル。

 ダイアナは頬を上気させながら、「こちらこそ」とその手を握り返した。


「イスタリスもそれでいいか?」


 カイルの問いかけに、イスタリスは真顔で答えた。


「あ? 心の底から嫌だが?」


「まぁそう言うなって。じゃ、決まりだな」


「てめぇ……」


 するとリアムと握手を終えたダイアナが、不服そうな顔で目の前にやってきた。


「一応、よろしくとだけは言っておくわ」


 言葉だけで、握手の手は差し出してこない。

 イスタリスとしても、そんなことする気はさらさらなかった。

 とはいえ、ダイアナの回復魔法の腕前は魔法学校で『癒しの聖女』とまで謳われていたほどである。どこの馬の骨ともわからない奴と組むよりかは信用できるだろう。

 それに、この世間知らずを放っておけば、また馬鹿どもに引っかかる可能性が高い。別にどうなろうが知ったことではないが、さすがに変死体で発見された日には寝覚めが悪いし、酒も不味くなる。

 気に入らなければいつも通り抜ければいいだけだ。イスタリスはそう自分を納得させた。


「よし、それじゃパーティ結成祝いといこう。人数も増えたし、女性もいるとなると、いつもの店というわけにもいかないか……」


 カイルは少し考えてから、ぽんと手を叩いた。


「よし、ここは奮発して『奇跡の大樹亭』にしよう」


 カイルが口にしたのは、この街で一番人気の酒場の名だった。


「おい、あそこは高い。言っておくが俺は金ねぇぞ」


「大丈夫、それくらいの持ち合わせはある。こうしてパーティメンバーが揃ったんだ。前祝いにぱーっといこう」


 カイルは上機嫌に言った。


「ま、お前が払ってくれるなら文句はねぇけどな」


 浴びるほど飲んでやる、と心に決めるイスタリスであった。



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