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ある盾役の憂鬱 外伝Ⅱ<孤高の魔人と癒しの聖女>  作者: SDN


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歪な共鳴

 暫定ながらカイルたちとパーティを組むことになったイスタリスは、彼らと共に酒場を出た。「とりあえず親睦を深めよう」というカイルの提案に乗り、河岸を変えて飲み直すことになったからである。

 普段なら親睦なんぞクソ喰らえなイスタリスだが、「奢るよ」と言われて断る理由はなかった。


 カイルを先頭に市場を歩く。ニーレ王国の辺境に位置するレニゴールだが、北の隣国との交易が盛んなことから人の往来は多い。まだ日が高いこともあって、市場は多くの人で賑わっていた。


「ところで、あんたの行きつけってのはどこの店だ?」


 イスタリスは前を歩くカイルに尋ねる。


「ここからちょっと行った裏路地の奥まったところにある店だ。知り合いの店でね、小さくて汚いがツケがきくんだ」


「その店に女はいるのか?」


「むさくるしい親父がひとりでやってる店だ。だいたい仮に女がいたとしても、金がない俺らじゃ相手にされないさ」


「なんとも世知辛い話だな」


「なに、これから稼げばいいだけの話さ」


 カイルの返答に、イスタリスは「ちげぇねぇ」と頷いた。前衛と組めたことで稼ぐ準備が整ったことはたしかである。彼らが噂にたがわぬ実力の持ち主であれば、切迫した財政事情とも遠からずおさらばできるだろう。


「ところで、パーティは俺を含めて三人なのか?」


「今のところはね」


「……お前ら、本当に二人でやってたんだな」


「この街で普通にやってたら名を上げるなんて不可能だからな」


 しれっと答えるカイル。

 大抵のモンスターは徒党を組んでいることが多い。たった二人で多数のモンスターを相手にすれば、簡単に囲まれ、退路を塞がれてしまう。それがどれだけ危険な状況か、一度でもモンスターと戦ったことがある者なら誰だってわかる。だから冒険者は通常四人から六人でパーティを組むのが常識とされているのだ。

 カイルは一見理知的に見えるが、中身は相当にヤバい奴なのかもしれない、とイスタリスは思った。


「そこまで腕に自信があるなら、冒険者なんてやらずに傭兵でもやって戦で手柄を立てた方が手っ取り早く名を上げられるんじゃねぇのか?」


「俺は命令するのもされるのも嫌いでね。冒険者の方が性に合ってるんだ」


「はっ、物好きだな。……で、これまで二人でやってきたお前らが、どうして今さらパーティを組もうって気になったんだ?」


 その問いに、カイルは少し表情を引き締めた。


「ここ最近、北のラウスピッツ山から出現する大型モンスターの個体数が増えているって話があるんだ。実際、俺たちも何度か予期していなかったタイミングで遭遇している」


「ほう、大型モンスターね……」


 大型モンスターとはその名のとおり巨体を誇るモンスターである。人間の数倍もの身長を持つ巨人族や、家屋よりも大きな四つ足の獣。あたり一面を燃やし尽くす炎竜に、通り道にある全ての物を押しつぶす大蛇……。通常のモンスターと違い、大型モンスターには単体で街ひとつを壊滅させるだけの力がある。まさに人類の平和を脅かす存在だった。


「現状だと大型モンスターは騎士団を動員するか、複数の冒険者パーティを編成して対応することがほとんどだが、このままだといずれ手が回らなくなるのは目に見えている。そこで俺は対大型モンスターに特化したパーティを作り、単独で討伐を可能にすることで一気になり上がるつもりでいるんだ」


 そう口にするカイルの目には、見る者を魅了する力強い輝きが宿っていた。


「それ、本気で言ってんのか?」


「もちろん。そのために君を仲間に誘ったんだ。人間性を度外視してもね」


「……」


「イカレていると思うか?」


「思うが、その考え方は嫌いじゃねぇな」


 イスタリスはにやりと笑って答えた。

 そのくらいでなくては組む価値がない。


「もちろん、一朝一夕には無理だろう。さしあたっては、回復役(ヒーラー)をひとり仲間にしたいと思っている」


「まぁ、大型モンスターとやり合う以前に、パーティとしてまともに活動するなら回復役(ヒーラー)は必須だわな。で、誰か当てはあんのか?」


 イスタリスの問いに、カイルは少し間を空けてから答えた。


「……あると言えばあるが……ないと言えばない」


「なんだそりゃ?」


「優秀な回復役(ヒーラー)は引く手数多だ。そう簡単には見つからないさ」


 薬草やポーションという回復手段はあれど、戦闘中に服用するのは難しいし、効果もたかが知れている。その点、回復魔法の効果は絶大だ。瞬時に傷を癒すことのできる回復役(ヒーラー)は、一人いるだけでもパーティの生存率が飛躍的に高まる。

 ただ、回復役(ヒーラー)という職を選ぶ人間で、冒険者をやりたがる者はあまりいないのが現実だった。


「……ところで、俺はさっきからあんたとばかり喋ってるが、こいつは喋れるんだよな?」


 イスタリスはずっと黙ったままの大男を見ながら尋ねた。


「彼は無口なだけでちゃんと喋れるよ。な、リアム?」


 呼びかけられたリアムは「ああ」と声に出して答えた。

 見た目の印象通りの低い声。風貌だけなら間違いなく強者の風格がある。が、その表情はまるで石像のように変わらない。奇妙な野郎だな、とイスタリスは思った。


 それから三人は市場の中心を外れ、少し入り組んだ路地に入る。

 しばらく歩いていると、リアムが唐突に足を止めた。


「どうした?」


 カイルが声を掛けるが、リアムは黙ったまま一点をじっと見つめている。

 イスタリスはその視線の先を追う。

 薄暗い路地の向こうで、ガラの悪そうな冒険者風の男四人がローブ姿の女一人を取り囲んでいた。魔法士特有のかすかな魔力の波動を感じることから、どうやらローブの女は魔法士のようだった。


「ただのナンパだろ? ほっとけよ」


 イスタリスはそう言ってみたが、リアムは足を止めたまま動かない。


「最近は、この街にやってきたばかりの冒険者志望の人間を言葉巧みにひと気のない路地へ連れていって金品を奪うという犯罪が横行しているらしい。冒険者をやろうなんて人間は身寄りのない奴がほとんどだから、事件が公けになりにくいんだ」


 リアムの代わりにカイルが解説した。


「だが、あれは金目的だけって感じじゃねぇだろ」


 ローブの女はこちらに背を向けているせいで顔は見えないが、男どもの顔に好色そうな笑みが浮かんでいることから、美人の可能性が高そうだった。


「この街も冒険者が増えたのはいいんだが、それに比例してああいう手合いも増えてきたのは考えものだな」


 カイルが呑気に感想を口にしている間にも事態は進行し、男のひとりが強引に女の手首を掴んだ。


「ちょっと、離してっ!」


 という女の叫び声がかすかにここまで届く。


「……カイル」


「わかってる」


 リアムとカイルはそんなやり取りをすると路地に向かって歩き出した。


「おいおい、まさか関わろうってのか?」


「ああいう場面で女性にいいところを見せたくて腕を磨いてきたところもあるからな。せっかくの機会だ。存分に堪能させてもらうさ」とカイル。


「なら勝手にやってくれ。俺はここで見物してるから」


 イスタリスはその場で腕を組んで高みの見物へとしゃれこむことにした。

 これからパーティを組もうって連中があの程度のごろつきを軽くあしらえないようではこっちが困るというものだ。


 カイルとリアムは無言のまま男達に近づくと、ローブ女との間に割って入った。


「あぁん、なんだてめぇらは!? 邪魔すんならぶち殺……」


 男の威勢は、ゴーレムのごときリアムの巨躯を見た途端、急速にしぼんだ。

 とはいえ冒険者は舐められたら終わりの職業である。仲間の手前ということもあってか、男は「邪魔だって言ってんだろうが!」と叫びながらリアムに殴りかかった。


 リアムは避けようとすらしなかった。それなりに勢いのある拳が顎に直撃するも、何事もなかったかのように加害者の顔を見返した。


「こ、こいつ……っ!」


 さすがにこの展開は予想していなかったのか、男たちの間に動揺が走る。

 そのタイミングを見計らっていたかのようにカイルが告げた。


「そこまでにしておいたほうがいい。彼は手加減を知らないからな。顎を砕かれて悶絶するか、五体満足のまま立ち去るか、好きな方を選べ。ちなみに俺のおすすめは後者だ」


 男たちは互いに目配せし合った後、「お、覚えてやがれ!」という独創性とは無縁な捨て台詞を吐いて走り去った。



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