勧誘
ニーレ王国の北端に位置するレニゴール領。北には魔の山と呼ばれるラウスピッツ山を擁し、多くのモンスターが生息する魔境の地として知られている。
レニゴールの領都は四方に高い防壁を設けてモンスターの襲撃に備えているが、モンスターはなにも大きな街だけを狙うわけではない。奴らは神出鬼没で、近隣の村や集落に現れては人や家畜を襲う。
そういったモンスターを討伐することを生業としているのが冒険者である。
レニゴールの街は別名『冒険者の街』と呼ばれ、多くの冒険者が集う一大活動拠点となっている。
特に酒場は情報を交換する冒険者たちの溜まり場となっており、店主は彼らに集めた情報を提供し、時には仕事の仲介まで行う。制度化されているわけではないが自然とそうなったのだ。
そんな街にいくつか点在する酒場の一軒に、イスタリスはいた。
先日パーティを解雇された彼は、心機一転とばかりにレニゴールの街に活動拠点を移したのである。
ただ、自身の能力に見合うパーティとなると、そう簡単に見つかるものではない。
おまけに生来の性格の悪さと人を見下す悪癖のせいもあって、イスタリスは未だパーティに所属することができずにいた。
ここ数日はカウンター席を占拠して無為な時間を過ごしている。懐にそれほど余裕があるわけではないので、この調子だと数日で路頭に迷うことになってしまうだろう。
一人で仕事をしようかとも考えたが、魔法士が単独でモンスター討伐に挑むのはリスクが高過ぎる。魔法の詠唱中に狙われたらひとたまりもないからだ。
となれば、どこかのパーティに頼み込んで入れてもらうしかないわけだが、貧して頭を下げることができるくらいなら最初からこうはなっていない。
「魔法学校主席卒業の末路がこのざまじゃ、いい笑い話だな」
いっそそれをネタに詩でも作って吟遊詩人にでも売り込んでやろうか、そんな下らないことを考え始めた矢先だった。
「――失礼、君がイスタリスかい?」
背後から声をかけられて振り返ると、二人組の男が立っていた。すらりとした優男と熊のような大男だ。どちらも若いが身に着けている装備品はかなり使い込まれている。
「そうだが、あんたらは?」
「俺はカイル。君と同業だ。で、こっちはリアム」
リアムと呼ばれた大男は、注意していないとわからない程度に小さく会釈した。
「カイルとリアム……」
この街に来てまだ日の浅いイスタリスだが、その名は聞いたことがあった。
最近名が売れ始めた冒険者がたしかそんな名だった。なんでも、とんでもない技量を持つ剣士と馬鹿みたいに頑丈な戦士の二人組で、特定のパーティは組まずにモンスター討伐依頼を成功させまくっているのだという。
イスタリスは胡乱げな視線でふたりを交互に見やった。
「それで、目下売り出し中の冒険者様が俺に何の用だ?」
「パーティを探している魔法士がいるって噂を聞いてね。ちょうど俺たちも後衛の攻撃役を探していたところなんだ」
カイルと名乗った男はそう答えた。
「勧誘ってわけか……。カイルとか言ったか? あんた、俺の名を知っているってことは、俺がどういう経緯でこの街に来たのかもご存知なんだろ?」
「ああ、少し調べさせてもらったよ。王都の魔法学校を主席で卒業しながら冒険者やってる変人で、味方を巻き込んで攻撃魔法を使うイカレ野郎。他所の街でもそれが原因で何度かパーティをクビになったとか。それでついた渾名が『味方撃ちのイスタリス』だ」
「そこまで知っていて俺を誘うのか?」
「俺たちは世界最高のパーティを作るつもりなんだ。となれば相応の実力を持った奴じゃないと話にならない。魔法学校を主席卒業したほどの実力者を仲間にできるのなら、多少のことには目を瞑るさ」
「世界最高のパーティとは……こりゃまたずいぶんと大きく出たな」
「やるからには頂点を目指さなきゃ意味がないからね」
カイルは平然と言ってのけた。
「だがいいのか? ご存じのとおり、俺はあんたらがいようがおかまいなしに爆裂魔法をぶち込むぜ?」
「かまわない。魔法の種類、詠唱速度、威力。それらの情報をある程度把握できていればこっちで対処できる」
こいつ本気で言っているのか――イスタリスはわずかに目を細めた。
いくら事前にわかっていても、戦闘中に後方から飛んでくる攻撃魔法に対処するのは口で言うほど容易くない。これまでのパーティメンバーだって決して腕が悪かったわけではないのにまったく対処できていなかった事実がそれを証明していた。
「あんたはよくてもそっちのデカいのはどうなんだ? さっきから一言もしゃべってねぇが」
イスタリスはカイルの背後に立つ大男を顎でしゃくった。
「彼なら問題ないよ」
大男の代わりにカイルが答えた。
「信用できねぇな」
「それはお互い様だろう。こっちだって君の実力をこの目で見たわけじゃない。本当に魔法学校主席卒業したのかどうかだって怪しいものだ。他人のなりすましって可能性もあるしな」
「そんなことを言い出したらきりがねぇだろうが」
「その通りだ。だから一度組んで君の実力を見させてもらいたい。昼間から飲んでるくらいだ。どうせ暇してるんだろう?」
「暇なのは事実だが、それと俺があんたらと組むかどうかは別の話だ」
イスタリスはそう返したものの、心の中ですでに答えは決まっていた。
このふたりが噂に聞く冒険者なら、実力的には申し分ないだろう。どのみち、このままだと路頭に迷うだけである。もとより他に選択肢などないのだ。それに態度こそ気に入らなかったが、カイルという男に興味が湧き始めているのも確かだった。
「……いいだろう。あんたらと組んでやる。ただし、気に入らなかったらすぐに抜けるからな」
「決まりだな。それじゃよろしく頼むよ」
カイルが握手を求めて手を差し出す。イスタリスはそれに応じようとして、その前にどうしても訂正しておかねばならないことがあったことを思い出した。
「言っておくが、あんたらが俺を品定めするんじゃない。俺があんたらを品定めする側だ。そこを勘違いするな」
カイルは一瞬驚いたように目を見張り、次いで楽しそうに「いいね、それくらいじゃないと」と笑うのだった。




