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ある盾役の憂鬱 外伝Ⅱ<孤高の魔人と癒しの聖女>  作者: SDN


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解雇

「今日限りで、お前にはパーティを辞めてもらう」


 喧騒に包まれた酒場の一角。パーティリーダーのハリスの声は、やけにはっきりとイスタリスの耳に届いた。

 冒険者になって一年。解雇(クビ)を告げられたのは、これで三度目である。今のパーティに加入して三か月だから、これまでに比べればもった方ではあった。


「俺が解雇(クビ)だって? そりゃまたなぜ?」


 イスタリスはわざと驚いたような表情を作って聞き返した。モンスターの討伐依頼を成功させた祝いの席での解雇通告とは、あんまりな仕打ちではないか。

 とはいえ、そうなる理由には十分すぎるほどに心当たりがあった。あえて聞き返したのは、これから行われるやり取りが、パーティを脱退する上で欠かせない儀式みたいなものだと思ったから、という実にくだらない理由だった。


「イスタリス、お前はとにかく独断専行がすぎる。パーティの連携ってものをまったく考えてない!」


 ハリスが指を突きつけながら言う。


「だが、普通に戦うよりも早くモンスターを全滅させられただろう」


「結果だけを見ればな」


結果(それ)以外になにが必要なんだ?」


「過程だ! お前のせいで俺たちは死にかけたんだぞ!?」


「大げさだな。ちゃんと加減しただろう」


「そういう問題じゃない! どこの世界に仲間を巻き込んで爆裂魔法を使う奴がいる!?」


 ここにいたな――とはさすがに挑発が過ぎるので、イスタリスは人の悪い笑みを浮かべるに留めた。

 先の戦闘で、イスタリスは前衛を巻き込むようにして広範囲の爆裂魔法を使ったのだ。

 したくてしたわけではない。そうしなければならない状況だったからそうしただけの話である。むろん、それが加害者側の勝手な言い分だということはイスタリスも承知している。彼らと同じ立場にいたら自分もキレているという自信すらあった。


「お前の実力なら、あんなことをしなくても十分にモンスターを倒せたはずだ」


「それじゃ効率が悪い。ちまちま一匹ずつやってたらこっちの魔力が先に尽きる。周囲に他にもモンスターがいる可能性を考えたら、できる限り魔力は温存しておくべきだろうが」


「だからって仲間を巻き込むなんて――」


「だいたいな、あの戦いだってお前ら前衛がちんたらやってたせいで何度も後衛が狙われたんだぞ。それに対処しなきゃならないこっちの身にもなってもらいたいもんだ」


「イスタリス、お前っ――!」


 ハリスの声と拳が怒りで震える。それでも一線を越えなかったのは、彼が良識と忍耐強さを備えた人間であることの証だろう。


「まぁ落ち着けよ、ハリス」


 イスタリスは空になった杯を振って、ウェイトレスにお代わりを注文する。


「俺だって別に心が痛まないわけじゃない。お前たちに申し訳ないことをしたという気持ちだってある。だが、俺たちがやってるのは仲良しこよしのごっこ遊びじゃない。殺し合いだ。状況によっては心を鬼にして味方を巻き込まなきゃならないことだってある」


「たしかにそうかもしれないが、お前のはそういう次元の問題じゃない! お前は仲間に向けて魔法を撃つことに躊躇いがまったくない。今はまだいい。だが、必要に迫られたとき、お前は平然と俺たちを犠牲にするんじゃないのか、どうしたってそう思ってしまう。そんなんでこの先一緒にやっていけるはずがないだろう!」


「そいつは心外な言われようだな」


 そう口にしながら、イスタリスはちらりと他のメンバーたちの表情を窺った。ハリス以外の前衛の戦士二人と、同じ後衛の回復役(ヒーラー)。みな程度の差こそあれ、概ねハリスの意見に賛同しているようだった。


 味方を巻き込んで攻撃魔法を使う。

 それが人道にもとる行為なのは間違いない。

 だが、感情的な面を無視すれば、最も効率が良い戦法なのも確かなのだ。

 モンスターに殴られるか。

 味方の攻撃魔法に巻き込まれるか。

 相手や手段が違うだけで、受けるダメージそのものに大して差はない。むしろ何度もモンスターの攻撃を受けるよりも、魔法一発で終わらせた方が回復役(ヒーラー)の負担も軽いし、痛い思いをする回数だって少なくて済む。

 そもそも、戦闘が長引いて良いことなど何もないのだ。

 独断専行が過ぎるのも、リーダーであるハリスが目の前に敵に夢中になりすぎていて全体が見えていないからだ。彼がどういう理由でリーダーに選ばれたのか知らないが、こと戦闘において指示役を務めるにはあまりにも視野が狭い、というのがイスタリスの評価だった。


 もっとも、それを言ったところで、ここまで関係がこじれてしまっては無意味だろう。所詮は加害者側の一方的な主張に過ぎないのだから、感情的になっている被害者を納得させることは難しい。以前のパーティではそれで殴り合いにまで発展したこともあった。


「……イスタリス、お前は本当に俺たちのことを仲間だと思っているのか?」


 ハリスが最後通牒だとばかりに問いかけてきた。


「もちろん思っているさ」


「そうは思えない。お前は心の中で俺たちのことを見下しているんじゃないのか?」


「それも心外だな。ちゃんとわかりやすく見下しているつもりだったが……」


「――ッ!」


 ぐっと怒りを飲み込み、大きく息を吐き出してからハリスは告げた。


「……とにかく、もうお前とは一緒にやっていけない。お前はクビだ。これはお前以外のメンバーの総意だと思ってくれ」


「わかったわかった。短い間だが世話になったな」


 イスタリスは軽い調子で言うと席を立った。


「イスタリス。お前はたしかに凄い魔法士だが、あんなやり方をしていたら、いずれ誰からも相手にされなくなるぞ」


 余計なお世話だ――とは言わず「ご忠告、感謝するよ」と後ろ手に手を振りながら、イスタリスはその場を後にした。


 外に出て空を見上げると、憎たらしいくらいに美しい星空が広がっていた。

 この世にはあの星空のように掃いて捨てるほどの冒険者がいるが、煌めく一等星のごとき強い輝きを放つ逸材がはたしてどれだけいるのだろうか。


「やれやれ、どこかに俺と組むに相応しい奴らはいないものかね」


 そう嘯くと、イスタリスは雑踏の中をあてもなく歩き出した。



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