第7話 ハルの村
~ ハルの村 ~
「……今は空位になってる、トレジャーハンターマスターが作った村?
認められた人しか住めないし、来ることさえ難しいって言われてる……?」
ヒジリは驚愕のまま、ハツキの肩をがしがしと揺さぶった。
「うん」
揺らされながらも、ハツキはどこか照れくさそうに頷く。
「ハル=サンブライト。お父さんが最初にここに住んでさ。
そこから、お父さんに憧れたトレジャーハンターたちが集まって……それで、この村ができたんだ」
一拍置き、軽く舌を出して微笑む。
「で、お父さんが死んじゃって。
よく分からないまま、ボクがこの村の代表になっちゃったってわけ」
「……軽く言うことじゃないでしょ、それ」
「そうかな?」
でも、その笑顔はどこか無理をしているようにも見えた。
「今日はさすがに疲れたよ。
ボクは家に帰るけど……ヒジリは、ちゃんと宿まで行ける?」
「宿なんて使わないわよ。ハツキの家でいい」
「えっ!?」
「えっ!?」
予想外の返事に、今度はハツキの方が固まった。
「だ、だって……ボクは男だし。ヒジリは女の子だよ?」
「ハツキ君は、あたしを襲えない」
ニヤニヤと、小馬鹿にするような笑みを浮かべるヒジリ。
「ボクだって男だよ~。今日は満月だし、狼男に変身しちゃうかもだよ~」
「はいはい。どうぞどうぞ。
襲えるものなら襲ってみなさいよ。あたしに勝てるなら、ね?」
ヒジリの口角が、わずかに上がる。
「も~~~う! めんどくさい!
勝手にどうぞ! 散らかってるけど気にしないでね!」
ぶつぶつ文句を言いながら歩き出すハツキ。
それを、楽しそうに追いかけるヒジリ。
辺りはすでに、すっかり暗くなっていた。
ふとヒジリは立ち止まり、月明かりに照らされた高台の方角を振り返る。
見えないはずの墓石に向かい、深く頭を下げた。
「ヒジリ=ブラン=エール。
命に懸けて、お護りします。……どうか、安心してお眠りください」
静かな誓いは、夜風に溶けていった。
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先を歩くハツキは、まだ文句を言い続けている。
「まったく……ヒジリは勝手なんだから」
ヒジリは小さく笑いながら歩いていたが、やがて足を止めた。
目の前にあるのは、大きな家――そして、その前に集まる人だかり。
「……こんな時間なのに、ボクの家の前にこんなに人が?」
「おーい! みんな今の時間は夕食だろ!
掟は守れよ――」
言い切る前に、声が重なった。
「あ! ハツキだ!」
「ホントだ! すっごく可愛い子連れてるぞ!」
「羨ましいな~!」
「昨晩はお楽しみでしたね♪」
「良かった、ちゃんと帰ってきた……」
「生きてて良かったよ、心配したんだから」
「……え? あれ、もしかして銀――」
村人たちは思い思いに声を投げかける。
「おい! 誰だ!
“昨晩はお楽しみ”とか言ったヤツ!!!」
ハツキは怒鳴りながらも、どこか嬉しそうにみんなに応える。
「まったく困ったもんだよ……ね、ヒジリ?」
振り向いたが、そこにヒジリの姿はなかった。
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ヒジリは、人混みの端で一人の男の口を塞いでいた。
耳元に唇を寄せ、低く囁く。
「あたし、その二つ名……嫌いなの。
だから、ナイショにしててね?」
そして、可愛らしくウィンク。
男は顔を青ざめさせ、必死にこくこくと頷いた。
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「どうしたの、ヒジリ? どこ行ってたの?」
「“昨晩はお楽しみでしたね”って言った人に教えてきたの」
「……なにを?」
「あたし、まだ“処女”よって♪」
ハツキの顔が、みるみる紅く染まる。
それは、先ほどの夕陽よりもずっと濃い紅だった。
「は、はいはい! 終了終了!
みんな家に帰って! ご飯食べて、ゆっくり休んで!
それで明日も、また一生懸命お仕事がんばること! いいね!?」
村人たちは口々に笑い、からかい、そして帰っていく。
「ハツキもやるねぇ」
「いいもん見れた」
「元気そうでなによりだ」
「昨日は心配で寝れなかったよ」
「昨晩はお楽しみ――ぐっ……」
ばた、と倒れる者まで現れた。
「明日、あの子のことじっくり聞いてやるか」
「おやすみ、ハツキ」
「またね、ハツキ」
「ちゃんと休めよ」
それぞれが、言いたいことだけ言って帰路につく。




