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第46話 恋の余韻と、白き血脈

昨日の夜の出来事が頭から離れず、結局ほとんど眠れなかった。


ヒジリとのキスは、これで二回目。

一回目は最上回復薬(エリクシル)が飲めない状況だったから、

「ヒジリの優しさ」ということで、無理やり納得していた。


でも、今回は違う。

……違うはずなんだ。


そう、思いたい。


旅を続けるうちに、ヒジリと一緒に過ごす時間は増えていって。

それに比例するみたいに、ヒジリを好きって気持ちも、どんどん大きくなっていって。


そんなヒジリからの――あの距離で、あの仕草で。

あんな風に見つめられて、あんな風に触れられて。


……意識しない方が、無理だった。


思い出しては枕に顔を埋め、足をバタバタさせて、

また勝手に妄想して……そんなことを繰り返しているうちに、朝になっていた。


寝不足のまま迎えた朝食は、昨日に引き続きキューブ特製『魔力回復』料理。

怪しい特製ダレが気になるけど、味はやっぱり美味しい。


……いや、美味しいけどさ。

これ、ほんとに“ナニ”なのかな。材料、絶対まともじゃないのだけはわかる…


「さて、だいぶ魔力も回復したし――『ブラン』探しでもしようか」


片付けが終わった頃、リーネがいつもの調子で宣言した。


昨日の出来事なんてなかったみたいに、ヒジリはいつも通りで。


「うん♪ 早く継承しちゃって、リザーヴをサクっと倒しちゃお♪」


その言葉で、ようやく現実に引き戻された。

ボクの中に残っていた、昨日の夜の余韻が、まだ消えきらない。


……恋してるのは、事実だ。

でも、今は気にしないようにしよう。


ヒジリの紋章継承が、先だ。

そう自分に言い聞かせた、その瞬間。

場の空気が、ふっと引き締まった


リーネは何もない空間から、大きな杖を取り出し、

アオイの両親を探した時と同じように、ヒジリに語りかける。


「ヒジリよ、想像するのだ。

お前の中にある、エールの血脈を」


「呼び起こすのだ。

エール一族を守ってきた、偉大なる白き竜を」


ヒジリは静かに目を閉じる。

祈るように、胸元に手を当てて。


「そうだ。

その白き竜は、もっと大きく、もっと神々しい。

白より白く、数多の光よりも眩い。

畏怖と尊厳、すべてを包み込む大いなる白の竜――」


ヒジリの周囲に、キラキラと光が集まり始めた。

空気が澄んで、世界そのものが静かになる。


リーネは小さく頷き、杖を握りしめる。


「我が名はリーネ。

|叡智を統べ、司る者なり《ソール・マスター》なり。

(うつつ)(ことわり)を隠伏し、従前の理を顕現せよ。

刻限神(クロノス)


光が弾け、杖へと収束する。

そのまま地面へ振り下ろすと、砂の上に巨大な地図が描かれ、ある一点に印が灯った。


「……ふむ。ブランは、まだ存在しているな。

一先ず安心だが……これ、どこだ?」


リーネはこめかみを掻きながら、首を傾げる。


「ねえねえ、こういうのってハツキの出番じゃないの♪」


ヒジリにそう言われて、思わず視線を合わせる。

……なぜかヒジリも顔を赤くして、同時に俯いた。


リーネとキューブが、不思議そうに首を傾げている。


「……う、うん。ボクのスキルで場所はわかるよ」


真珠龍の皮袋(パールレザー)に手を入れ、呟き、数秒待って取り出す。

白紙の羊皮紙を地図の上に置き、指を少し噛んで血を一滴。


指し示す場所(アンセイニェ・リュー)


羊皮紙に、同じ地図と詳細が浮かび上がる。


「場所は『空白(そらしろ)の山』。

ここから西。……結構遠い」


浮かれながら説明していたら、


「あ~~!空白の山か。それなら魔法陣があったな、キューブ?」

「はい。以前行った際、面白い魔物がいたので敷いておきました」


……全部持っていかれた。

ボクのスキル、完全に前座だった。


「じゃ、行こうか」


リーネが何気なくそう言って、足元に魔法陣を出し軽く踏む。


次の瞬間、視界が反転した。

転移後、そこは――

異様なほど寒かった。


「寒っ!!なにここ!?」

「……前はこんな寒くなかったぞ?」


感覚のないボクでも、体の動きが鈍るのがわかる。

このままじゃ、ブランに会う前に凍死しかねない。


真珠龍の皮袋(パールレザー)から羊皮紙を取り出し、血を垂らす。


「みんな、ボクの近くに来て」


光彩の外套(ルミエール・ルマント)発動!!」


羊皮紙から魔法が流れ出し、

虹色の光が、全員を包み込んで、

冷気だけを弾くように、光が外套みたいに重なっていく。


「わ~!寒くない!」

「さすがだな」

「リーネ様の体調が守られました」


こういう状況になる可能性は、いくらでもある。

父に教えてもらったスキルが役に立ち、

少しだけ、誇らしかった。


白い息を吐きながら、全員で歩き出す。

そのまま山を登り、色々あって――


いつも通り妖精に引っかかるヒジリとか、

木の影からずっとついてくる鹿に好かれるリーネとか、

白い霧の中から現れた雪狼に追いかけられたりもしたけど、

なんとか頂上付近まで辿り着いた


「……疲れた」

「さすがに色々ありすぎたな」

ヒジリとリーネがため息をつく。

その時だった。


「……あれ?」


視界の端で、ヒジリの白い息がふわりと揺れた。

寒さと疲れで吐いた息が、細く伸びて、すぐに霧に溶けていく。


……それ自体は、何もおかしくない。

雪山なんだから、当たり前の光景だ。


でも。


ヒジリが一歩、前に出た。

リーネも、少し位置を変えた。

キューブは、後ろから二人を追うように歩いている。


それなのに――

白い息の形だけが、さっきとほとんど同じだった。


角度も、広がり方も、消えるまでの時間も。

まるで、同じ映像をもう一度再生しているみたいに。


(……偶然?)


そう思おうとして、やめた。

このメンバーで、同じ状況が、同じ形で起きる確率なんて、ほぼゼロだ。


しかも、よく見ると。

周囲の雪も、霧の流れも、微妙に“繰り返してる”。


同じ場所を歩いているはずなのに、

景色だけが、数秒前とズレていない。


理由はわからない。

でも――これは“偶然”じゃない。


確かめるしかない。

スキルを起動すると、世界がモノクロになる。

見えているはずの景色が、全部“解除対象”に変わった。


「やっぱり…」


対象:渦巻く壁トゥルビヨン・ミュール

解除で反動代償あり。


反動代償……?

……隠されている。

ここに、重要な“なにか”が。


残り時間、60秒。


考えてる時間なんてないな……


「……YES」


視界の奥で、何か“作られたもの”が軋んだ。

ガラスが割れるように、景色が崩れていく。


白一色だった世界が、色彩を取り戻す。


「なにこれ!?」

その中心から――

小さな“白い何か”が、ころころと転がり出てきた。


「きゃ~~~♪カワイイ~~!!」


ヒジリが真っ先に駆け寄り、抱き上げる。


「ひんやり♪プニプニ♪でもちゃんと顔ある~♪」


でも、その瞬間。

急に真顔になり。


「……ところでコレなに?」


そう言って差し出された“白い生き物”は――

泣きそうな顔で、ボクたちを見上げていた。


まるで、自分が何なのか、わからないみたいに。

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