第41話 魔法の才能
窓から朝日が差し込み、柔らかな太陽の光が睡魔を追い払う。
……はずなのに、睡魔はなかなかしぶとく、まだ全滅していないのか、目がうまく開けられない。
「ん~……もう朝か。まだ眠いな……あと少し寝てようかな……。
あれ……体が……」
体が動かない。
前にもあったな、これ。
嫌な予感を覚えつつ、しぶとく残っている睡魔を無理やり追い払い、うっすらと目を開ける。
……そこには。
体に、白くて細い腕が、がっちりと巻き付いていた。
「なんでこんなに細い腕なのに外せないんだよ!」
体をよじって、腕をほどこうとするが、一向に外れる気配が無い。
むしろ締め付けが強くなってる気すらする。
力で外すのを諦め、ボクは最後の手段に出た。
「ヒジリの可憐なお胸……」
耳元で、極小ボイスで囁く。
次の瞬間、見えていた景色が高速で横に流れる。
いや、流れたのは景色じゃない。
移動したのは、ボクの方だ。
ソファの上にいたはずなのに、気付けば壁際。
「ハツキく~ん!!!
ホント何回言えばわかるんですか~!?」
ヒジリが目の前に立ち、冷静で、冷酷で、残酷な目でボクを見下ろしていた。
……うん。
なんで小声でも反応するのかな?って反省しながら、
ボクは誠心誠意、心を込めて土下座した。
ヒジリの機嫌をなんとか直し、朝食を取り、出発の準備をする。
「なんか魔法陣以外で移動するのって久しぶりだね」
「そうだね~。いつも一瞬で目的地に着いちゃうもんね。
久しぶりに妖精見れるかな???」
目を輝かせるヒジリ。
「見れると思うけど、疾風馬種の馬車だから、
ヒジリは追いかけられないね」
「えぇ~……」
ヒジリは妖精を見つけると、いつも追いかけて罠に嵌まる。
そのせいで目的地に着くまで、何度も時間がかかってきたのだ。
「うう~~~。カワイイのに……」
がっかりした様子で窓の外を見るヒジリ。
「今日も天気良いね~♪旅日和~♪
妖精もたくさんいるんだろうな~……」
妖精からしたら、ヒジリって完全にいいカモなんだろうな~、と思う。
準備も終わり、集合場所の大広間にヒジリと向かった。
リーネもキューブもアオイも、すでに椅子に座っている。
昨日の事を引きずっているのか、
王の様子は朝食の時から暗いままだった。
しかもボク達が来るまで、リーネ達3人の突き刺さるような視線を受け続け、
きっと針の筵状態だったのだろう。
ゲッソリとした表情で、王が口を開く。
「そろそろ出発するのか?寂しくなるな。
馬車の中に道具は入れておいた。
そしてこれが昨日の賞金だ」
ドサっと音を立て、金貨が入った皮袋をテーブルに置いた。
「ハツキが受け取って。あたしの物はハツキの物だから」
ヒジリがそれはそれは、輝く女神の様な笑顔で、ボクの顔を見つめる。
ホント、そう言うのヤメてください。
ほら見て、王の顔。
今にも泣き出しそうじゃん。
そこへリーネが追い討ちをかける。
「そうだな。ヒジリはハツキのだからな。
それにヴェリエのさっきの言葉は、
馬車も道具も用意してるから早く出て行け!って聞こえたしな」
腕を組み、半目で王を睨みつける。
「ヴェリエ王、お世話になりました。
馬車お借りします。ありがとうございました」
これ以上いると精神的ダメージが深刻になりそうなので、
早く出て行った方が良いと判断し、お礼を言って急いで大広間を後にした。
エーカーに案内され城門に着くと、
綺麗な葦毛の疾風馬種が2頭。
大きな幌付きの荷台が付いた馬車が置いてあった。
「こちらが我が城、最速の疾風馬種の馬車でございます。
どうぞご自由にお使い下さい。
そしてハツキ様、ヴェリエ様が大変失礼致しました。
ヒジリ様、リーネ様、キューブ様、アオイ様にもご迷惑をお掛けしました。
我が主に代わってお詫びを申し上げます」
エーカーは深く頭を下げた。
「いやいやいや!!!頭を上げて下さい。
ボクは気にしていませんので」
手を左右に振ると、エーカーは顔を上げ、ニコリと微笑んだ。
「それでは、道中お気を付けて。
良い旅を」
「お世話になりました」
全員で頭を下げ、馬車に乗り込んだ。
荷台の中は見た目以上に広く、とても快適な空間だった。
「ふむ。魔法で空間拡張されているな」
リーネが何かを探すかの様に、荷台の中を歩き回る。
「それでこの馬車には御者が居ないんだけど???」
御者が居ないのでは、馬車が目的地まで着かないし、
走らせる事すら不可能なんじゃないか?
探し物を見つけたらしく、嬉しそうにリーネが答える。
「魔法で馬車は操作させる。
私が御者なんていらないと言ったしな」
そう言ってお菓子袋の口を開け、楽しそうに詠唱を始めた。
「我が名はリーネ。
叡智を統べ、司る者なり。
道を照らし、旅の無事を約束せよ。
荒脛巾」
馬車の前部に、人の形をした光が現れた。
「よし!出発だ~~!」
リーネが出発の合図をすると、馬車が静かに、しかし力強く動き出した。
景色が、まるで飛んでいくかの様に流れていく。
「すご……く……はや……いね……」
アオイが目をまん丸くして、楽しそうに外を眺めている。
ヒジリがアオイの隣に腰掛け、同じ景色を見て声を上げた。
「アオイちゃん見て見て!!!ほら!あそこ!!!
妖精いるよ♪かわいい~♪」
「はや……すぎ……て……みえな……いよ……」
確かにこの速度で妖精を見つけられる動体視力は、普通じゃない。
ヒジリはがっくりと肩を落としながらも、楽しそうに会話は続く。
「そう言えばアオイちゃんって今、いくつなの?」
「ん……?……12……さい……だよ……?」
「12歳か~。あたしは16歳でハツキが15歳。
リーネとキューブはわからない」
「私はもう歳なんて数えるの止めたぞ」
「ワタシは匣なので年齢なんてありません」
「そう……なん……だ……」
「リーネも見た目こんなだし、みんな同じくらいって事にしておこうよ。
まぁキューブが見た目だけは保護者っぽいけど」
「確かにそうだな。しかし本来の見た目はキューブと同じだからな。
こんなまな板ではないからな!」
ヒジリをチラりと見て、リーネは皮肉をはらんだ笑みを浮かべた。
きっと「こんな姿」と言われたのが、よっぽど嫌だったのだろう。
ヒジリは自分の胸とキューブの胸を見比べ、
ぐぬぬ……と悔しそうに俯いた。
「そう言えばアオイちゃんも魔法使えるのよね?」
話題を変えるかのようにヒジリが質問する。
「ん!……つか……え……るよ……」
自分の背丈より大きい杖をぎゅっと握り、ニコリと微笑む。
「そうだったな。アオイよ、どの系統が得意なのだ?先天性なのだろう?」
興味を持ったリーネがお菓子を食べる手を止め、話に混ざってきた。
「ん!……せんて……んせい……
けいと……う……は……こう……げき……と……ぼう……がい……」
「ほほう、攻撃と妨害か!なかなか良い系統だな。
もし、もっと自分の力を伸ばしたいのであれば、私がいつでも教えてやるぞ」
「ん!……そのと……き……は……おねが……い……」
アオイは少し嬉しそうに、握った杖を見つめながら答えた。
「魔法良いな~。あたしも欲しいな~」
「ヒジリだったらどんな魔法を使ってみたいんだ?」
「それボクも気になるかも。やっぱり自己強化系?」
「ん~~そうだな~?自己強化のスピード系かな♪」
「自己強化のスピード系なら紋章の継承で覚醒すると思うぞ」
その言葉を聞いたヒジリがリーネのお菓子を取り上げ、
リーネの小さい体をガシガシと揺らしながら、
目を輝かせて聞き直す。
「その話ホント?あたしも魔法使えるの?
しかもスピード系の?」
「嘘をついてどうする?それにお前はもうすでに“魔法”使えてるじゃないか?」
取り上げられたお菓子に必死に手を伸ばしながら、リーネが答える。
確かにヒジリは詠唱し、何も無い所から剣を出せる。
エール一族に継承される召還魔法。
「そうか♪あたしすでに魔法使えてるのか~。
なんか嬉しいな~♪」
ヒジリはリーネから手を離し、
馬車の窓から景色を眺め、嬉しそうに足をバタバタさせていた。
「ヒジリはなんでそんなに魔法使いたいの???」
魔法を使いたがるヒジリに疑問を持ったボクは、そのまま聞いた。
答えは凄く単純だった。
「ハツキを護る為に決まってるじゃん♪」
窓からボクに顔と体を向き直し、
その顔を見たら誰であろうと見惚れてしまう様な笑顔で、サラリと答える。
そうだ。
ヒジリは、自分よりボクを優先して考えてくれている。
自分の命より、ボクの命。
でも、ボクもヒジリを失いたくない。
その気持ちが、思わず口から零れた。
「ボクもヒジリを護る為なら、いつでも命捨ててやるさ!」
馬車の中が急に静まり返り、
恥ずかしさという魔物が一斉に襲ってきた。
ヒジリと2人で俯き、黙りこくる。
「おいおい。お前たち、惚気るのは2人の時だけにしてくれないか?
聞いててこっちが恥ずかしくなる」
「ワタシも恥ずかしくなりました。若いって良いですねリーネ様」
「ラヴ……ラヴ……なん……だ……ね」
早く流れる景色に反し、
馬車の中には、ゆっくりと暖かい時間が流れていた。




