第40話 幸せな時間
夕食も終わり、闘技場でかいた汗や埃を風呂で流し、
いつヒジリ達が来てもいいように、お菓子や飲み物を準備する。
テーブルの上にはクッキー、ナッツ、果物の盛り合わせ。
ティーポットには熱々のお湯、砂糖とミルクも完備。
カップも人数分、ちゃんと温めてある。
……うん、完璧すぎる。
「ふふふ。準備万端!
これでいつヒジリやリーネが来ても大丈夫っと」
そんな事を言っていたのが約1時間前。
ティーポットに入れたお湯も冷め、紅茶もだいぶ濃くなっていた。
「しまった。
女の子はお風呂とか色々長いんだった…」
しかもあの4人だ。
普通の「長い」じゃなくて、絶対フルコースだ。
冷めた紅茶を別の容器に移し替え、
新しい紅茶を入れ替えていると、部屋の扉を叩く音がした。
トントン。ガチャ!!!
あれ?鍵は閉めていたハズなのに?
「ハツキ~!勝手に入るぞ~」
「お邪魔します~♪」
「失礼致します」
「お…じゃま…しま…す」
リーネを先頭に、ヒジリ達がぞろぞろと部屋に入ってきた。
部屋の鍵はきっとリーネの魔法で解錠したのだろう。
もうリーネが居たら何でもアリの様な気がしてきた。
(いやこれもう鍵の意味なくない?)
「しかしさっきのヴェリエは本当に腹が立ったな」
どうやらリーネの怒りはまだ収まっていなかったようだ。
「ホントよね!!!あたしもムカついてしょうがなかったよ」
ヒジリも同じく怒りが収まっていなかった。
「リーネ様の怒りはワタシの怒りです」
「あれ…はダ…メ」
キューブもアオイも同じく…
こんな感じで怒りの女子会が小1時間くらい開催された。
その間、ボクはお菓子が無くなれば補充し、飲み物が無くなれば注ぎ回った。
完全に給仕役である。
(その怒りがこっちに飛び火しませんように・・・)
と心の中で何度も祈りながら。
「ふぅ~疲れたね」
「そうだな。まだまだ文句は言い足りないがそろそろ寝る時間だ」
「そうです。リーネ様は就寝時間です」
「ね…むい…」
4人同時に伸びをして、ぞろぞろと部屋に戻ろうとした瞬間。
「ちょ、ちょっと待って!!!」
思わず大声を出して、部屋に戻ろうとするヒジリ達を止めた。
女の子4人の視線が一斉にこちらに刺さる。
物理的ダメージは無いのに、精神的ダメージがデカい。
しかしその圧力に負けるわけにはいかなかった。
「明日からの予定は…?」
ん?と言って、”3人”同時に首を傾げる。
あ~みんなカワイイ・・・違う!!!
首を左右に振り、誘惑を振り払う。
「明日からアオイの両親探しするんでしょ?
まだ打ち合わせも話もしてないよ?」
あ~!!とヒジリ、リーネ、キューブは思い出したかのように手をポンと叩いた。
アオイはコクコクと頷いている・・・
あれ?様子がおかしい。
近付き様子を窺うと、目を閉じたまま反応が無い。
もしかして寝てます?立ったまま寝ちゃいました?
アオイさんの話ですよ~!!
顔の前で手をチラチラしてみたが起きる気配がない。
どうしようか?とヒジリに視線を送ると、それに気付いたリーネが何も無い空間から、
杖を出しアオイの頭をコツリと叩いた。
「…うっ…イタ…い」
小さな声で頭を摩りながらアオイが目を覚ます。
「これからお前の話をするのに、本人が寝ていてどうするのだ?」
一番眠たそうにしていたリーネが一喝する。
(説得力が無い…)
「ご…めん…な…さい」
頭を摩るのを止め、今度は目を擦りながら頭をペコリと下げた。
「さて、アオイの両親を探すのに必要な情報を教えてくれ。
その情報から私が魔法で場所を探す。
しかも現在居る、正確な場所をな。
但し、今のうちに言っておく。
もしお前の両親が死んでいた場合は、場所は探れない。
それでも良いか?」
リーネが真剣な眼差しでアオイを見つめる。
同じく真剣な眼差しでアオイは頷いた。
アオイの小さな肩は微かに震え、小さな手は強く握り締められている。
それを見たヒジリが音も無く、スッとアオイの後ろに立ち優しく抱きしめた。
「さあ始めるぞ、アオイ。
まずは目を閉じ、両親の顔、声を思い浮かべよ。」
「・・・・・・・」
「それで良い。次に両親と離ればなれになった場所を思い浮かべよ。
詳しければ詳しいほど良い。思い出せる範囲で良いから思い浮かべよ」
「・・・・・・・」
「よし。
最後だ。
両親に会いたいと強く願え。強く強く願え」
「・・・・・!!!」
リーネの体に黄色の光りが集まってきた。
部屋の空気が一瞬、ぴんと張り詰める。
「我が名はリーネ。
叡智を統べ、司る者なり。
現の理を隠伏し、従前の理を顕現せよ。
刻限神」
リーネを包んでいた黄色の光りが青に変わる。
青い光は水面のように揺れながら、リーネの足元から天井へと広がっていった。
「・・・ふ~」
リーネは額から流れる汗を拭い、ゆっくりとした口調で話し始める。
「アオイ・・・」
「は…い…」
「良かったな!両親とも、生きておるぞ」
その言葉を聞いたアオイは一瞬、間を置き小さな手で顔を覆う。
「よか…っ…た…」
指の隙間から涙が零れ落ちている。
ぽろぽろと床に落ちるその音が、やけに大きく聞こえた。
ヒジリもアオイにつられて、グスグスと鼻をすすり、
眼帯をしていない右目からは涙が流れていた。
「……なんでヒジリまで泣いてるのさ」
「だってぇ……良かったじゃん……」
2人をチラッと見渡し、リーネは話を続ける。
「アオイの両親は現在、この城から南方向。
・・・!ここはジョリの村だな。
ジョリの村の・・・
地下?人目につかない場所に居る。
ロセールに向かう途中にあるし、ちょうどいいな」
リーネが指をパチンと鳴らすと、包み込んでいた青い光りが消えた。
「アオイちゃん良かったね~♪」
アオイを後ろから抱きついたままのヒジリが、アオイの後頭部に顔を押し付けて喜んでいる。
「う…ん…
良…かっ…た…
でも…頭…イタ…いよ…」
ゴメンと顔を離し、頭を撫でた。
リーネは満足そうな笑顔の後、大きな欠伸をし、眠たそうに目を擦る。
リーネが寝る時間はとうに過ぎていた。
「リーネお疲れ様。
片付けはボクがやっておくからゆっくり休んで。
準備とかはまた明日やろう。
アオイもお疲れ様。両親が無事で良かったね」
そう言ってアオイの頭を撫でると、
「ん!…あり…が…とう」
ヒジリにも負けない天使の様な笑顔で答えた。
船を漕ぎ始めたリーネをキューブが抱き上げ、
「おやすみなさいませ。ハツキ様、ヒジリ様、アオイ様」
抱きかかえたリーネを起こさぬよう頭を下げ、部屋を出て行った。
「ボ…クも…ねる…ね…」
小さな体でペコリと頭を深げ、手を振って部屋を出て行った。
「おっ!アオイちゃん、ボクっコだったね♪」
ヒジリが楽しそうに声を上げる。
「そうだね。ちょっと意外だった」
「でもアオイちゃんが言うとカワイイよね♪
声もかわいいし。あたしの妹になってくれないかな~♪」
「そういやアオイちゃんって何歳なんだろうね?」
「たしかに!まだ聞いてなかったね。明日聞いてみようか?」
「まあ、ボク達より年下だよね~」
「きっとね♪年上だったらビックリだよ!
あたしもボクにしようかと思ったけど、ハツキもボクだから止めよう」
「それどう言う意味さ!!!」
「特に意味は無いけど???」
そんな他愛も無い話で笑い合える関係。
幸せを感じられる時間がヒジリと旅をするようになって増えた。
(ずっと一緒に居ような。ヒジリ)
「うん…ずっと一緒だよ」
ヒジリが小さく呟く。
あれ?声に出てました?
急に恥ずかしくなり、話をはぐらかす様に
「そろそろボク達も寝ようか?」
と言うと、ヒジリは小さく頷きトコトコとベッドに向かった。
「オヤスミ。ハツキ。また明日ね♪」
ベッドで横になり毛布に包まると、すぐにスースーと寝息が聞こえた。
……寝るの早すぎない?
うん!オヤスミね。ヒジリ。
今日は本当にお疲れ様。
「ちが~~~う!!!
ヒジリ、部屋に戻れよ!なんでココで寝るんだよ!!
色んな意味でボクが寝れなくなるじゃないか!!」
ヒジリを起こさぬよう、ソファに倒れこみ、顔を押し付け叫んだ。
そしてそのまま眠りについた。
今日も1日幸せでした。と思いながら。




