表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
44/66

第38話 消滅した町

誰も居なくなった闘技会場。

闘技会場の中心で、ポツンとヒジリが立ちつくしている。


ゼロが入場口からテテテとヒジリの元に駆け寄り、

その右手を取り、ぐっと上に掲げた。


「参加者が辞退した為、優勝は――“銀髪のバーサーカー”こと、

ヒジリ=ブラン=エールちゃん!!!

おめでと~~♪」


さっきあった出来事の恐怖で、まだ体を震わせているはずなのに、

それでも仕事を最後までこなす姿を見て、

ボクはゼロを少しだけ見直した。


ヒジリに向けて拍手をしていると、魔法鏡からヴェリエ=フォン王の声が響いた。

先程まで王が居た場所に目をやると、魔法の膜も消え、

そこはすでにもぬけの空になっている。

王族騎士団か、防御壁を張っていた魔法使いが、

安全な場所へと移動させたのだろう。


「ヒジリ=ブラン=エールよ。

まずは優勝おめでとう。しかし事態は、最悪の状況である。

あの男が言っていた“町の消滅”は、確かに余の耳にも入ってきておる。

そこでお主に頼みたい事がある。

我が城に、足を運んでくれまいか?」


ヒジリは、声が響く魔法鏡をじっと見つめ、小さく頷いてから口を開く。

「あたしの仲間も一緒に行っていいですか?」

「そうか。仲間が居たのか。

それなら一緒に来るが良い」


ヴェリエ=フォン王は、どこか寂しげな声でそう答えた。


その後ヒジリは、すぐにボク達と合流し、親指を立ててニッコリと笑った。

「一応、約束は守れたかな?」

「うん!お疲れ様。でも、やっかいな事が起きちゃったね」

「しかし、私達の目的は変わらないだろう?

結局はリザーヴを倒さなくてはならないんだぞ?」


4人で頷き合い、闘技会場を後にして城へ向かう。

城は闘技会場から、すぐ近くにあった。

歩きながら向かう途中で、ヒジリがふと思い出したように聞いてきた。


「そうだ!あの女の子の罠って、魔法だったの?」

「魔法だったよ。しかも複数。

頭から足まで、全身。

一つでも発動したら致命傷になる場所に仕掛けてあった」

「そうだったんだ……でも、あの子が無事で良かった。ハツキ、ありがとうね」

「でも、まだあの子の親が……早く助けてあげないと」


ヒジリと一緒に「どうしたものか?」と首を傾げながら歩いていると、

リーネがあっさりと解決策を口にした。


「それなら、あの子供に親が攫われた場所を聞けば探れるぞ?」


さすが叡智を統べ、司る者(ソール・マスター)

そんな話をしていると、大きな城門の前に着いた。

そこには、手入れの行き届いた全身鎧に、

キラリと鋭く光る槍を携えた兵士が二人、直立していた。


「ヒジリ様ですね。話は聞いております。

同行者の方々も、どうぞお入りください」


ギギギ……と、地面を削るような音と共に、巨大な扉が開く。


城の中は石畳で、ひんやりとした空気が満ちていた。

周囲を見渡すと、闘技会場よりも遥かに歴史を感じる造りで、

思わず見惚れてしまう。


すると奥の方から、不意に声を掛けられた。


「お待ちしておりました。ヒジリ様とその御一行様。

王がお待ちです。どうぞこちらへ」


そこには黒の服を着た、年老いた男性が立っていた。

気配をまったく感じず、

元からそこに居たのかすら分からない。


黒服の男の後について行くと、大広間へと案内される。

「こちらでございます」

そう言って、自分の身長の二倍以上はある大扉を開いた。


中に入ると、部屋の中央に長方形のテーブルと、数十脚の椅子。

壁際には、いかにも高そうな壷や金色の燭台が並んでいる。

一番奥の椅子には、一人の人影と、その隣に小さな人影が見えた。


「待っておったぞ。

よく来てくれた、ヒジリとその仲間達よ。

まず、ヒジリ以外の者の名前を教えてはくれぬか?」


「初めまして、ヴェリエ=フォン王。

ボクはハツキ=サンブライトと申します」


ペコリと頭を下げ、自己紹介を済ませる。


「私はリーネ。叡智を統べ、司る者(ソール・マスター)

ヴェイア=フォンに魔法を教えた者だ」


――私の事を知らないのか?

そんな雰囲気を全身から醸し出し、腕を組んで不躾な挨拶をするリーネ。

王は少し考え、ハッとした表情になり、椅子から立ち上がって深々と頭を下げた。


「これは大変失礼致しました。

リーネ様と気付かず、申し訳ありません」


リーネは満足そうにその様子を眺めてから、

「まぁ、こんな姿だから気付かないのも無理はない。気にするな。

それより、もてなしはないのか?」

「申し訳ありません。すぐに用意させます」


王が手を叩くと、背後から先程の黒服の男が現れ、静かに用件を聞いていた。

「すぐに甘いお菓子を用意致しますので、少々お待ち下さい」


そう言われた瞬間、リーネの顔が満面の笑みに変わる。

その様子を微笑ましく眺めながら、キューブが話し始めた。


「私はキューブと申します。

現在、リーネ様の安息なる“ベッド”をしております」


王は完全に理解不能といった顔をしていたが、

正直、ボクも同じ表情をしていたと思う。


キューブの自己紹介が終わる頃、

テーブル一杯に、山のようなお菓子が並べられていた。

黒服の男が「どうぞお召し上がり下さい」と言うより早く、

リーネは両手いっぱいにお菓子を掴み、

「ウマい!ウマい!」と言いながらほおばっていた。


王は遠慮がちに、

「話を続けても宜しいでしょうか……?」と聞くと、

リーネは口を動かしたまま、うんうんと頷くだけだった。


コホン、と咳払いを一つして、王は話を続ける。


「それでは話を続けよう。余の事は知っておると思うので省く。

まず余の腹心、エーカー」


そう言われ、黒服の男が一歩前に出て頭を下げる。


「エーカー=ウェッジと申します。

王の護衛及び身の回りのお世話をしている、

影に潜む者(シャドウ・ウォーカー)でございます」


影に潜む者(シャドウ・ウォーカー)

闇に潜み、暗殺や偵察を得意とする職業。

どおりで気配を感じなかったわけだ。


王はエーカーの自己紹介が終わると、隣の少女へ視線を移した。

少女はリタイアしたあと、王族騎士団に保護され、そのまま王の元へ案内されていた。


「そして、この少女なのだが……」


少女はコクンと頷き、小さな声で話し始める。


「さっき……は……あり……がと……

アオイ……で……す……」


リーネと同じくらいの身長。

金髪で、片方の髪だけをリボンでまとめ、

白いワンピースを着て、身長には不釣り合いな大きな杖を持っている。

青空のように澄んだ瞳を潤ませながら、続けた。


「ホン……ト……に……

お父……さん……と……

お母……さん……を……見つけ……て……くれ……るの……?」


「もちろん!ちゃんとアオイちゃんのお父さんとお母さん、見つけてあげるから。

心配しなくていいよ」


そう言うと、アオイは青空色の目を細めて、嬉しそうに笑った。


「アオイよ。良かったな。

あとはヒジリやリーネ様と一緒に行きなさい」


王はそう言って、優しくアオイの頭を撫でた。


「さて、本題に入ろうか?」


こちらを向き直すと、先程までの柔らかな表情が一変し、

威厳ある王の顔に戻る。


「リザーヴの事は知っておるのか?」

「はい」

「そうか。リーネ様がいらっしゃるから、話も聞いておるのだな。

余は先日あった“町の消滅”……その時に知らされたのだ。

ずっと、お伽噺や絵本だけの話だと思っておった。

今となっては、恥ずかしい話なのだがな。


町が一つ、この世界から消えた。

その報せを受け、余はすぐにエーカーとその部隊に指示を出し、調査に行かせた。

消えた町の名は――“ロセール”」


ガシャン、と大きな音が部屋に響いた。

その町の名前を聞いた瞬間、

ヒジリは手に持っていた紅茶のカップを落としていた。


「王……様??今なんて……ロセール……?」

「うむ。ロセールだ」

「そ、そんな……嘘でしょ……???」


ヒジリは何か言おうとして、口を開いたまま固まった。

声にならない息だけが、喉から小さく漏れる。

その目は、もうこの部屋ではなく、どこか遠くを見ていた。


「すまぬヒジリよ。隠していても仕方ない事だと思ってな。

ロセールはエール一族、いや……ヒジリにとって思い出の場所だからな」


「はい……そうです。

ハツキ、ごめん。この話はあとでちゃんと話すから。

王様、話の腰を折ってしまい、申し訳ございませんでした。続きをお願いします」


そう言ってヒジリは俯きながら、

テーブルの上で拳を強く握り締めていた。

その指先は、白くなるほど力が入っているのに、

震えだけは止まらなかった。


王は静かに頷き、話を続ける。


「そのロセールにエーカーが着くと、

建物は全て破壊され、人々は消え、何も無くなっていた。

この状況……似ていると思わんか?」


ヒジリは何も言わず、ただ頷く。


「そうだ。ヒジリの故郷、“エール領”と同じなのだ。

余は亡き父の盟友であった前エール領主の弔いも兼ね、

エーカーに痕跡を徹底的に調べさせた。

何でもいい、痕跡を見つけて来いとな。

そうして見つけたのが……これだ」


王はエーカーから一枚の布を受け取り、広げて見せた。

そこには黒い三日月と、赤黒く滲んだ文字。


『全てはリザーヴ様の為に』


血で書かれた文字。

そして黒三日月(リュヌ・ノワール)の象徴。


「そこでリザーヴがこの世に実在すると確信したのだ。

だが、我々に対抗する手段が見つからず悩んでおった。

そこで闘技大会を思い出し、

そこからリザーヴを討伐出来る者がいないかと考えた。

……そこに、ヒジリが参加したわけだ」


賞金額を上げたのは、その為だったのか。


「しかし、誰もいなくなるとは思わんかったがな……」


王は暗い表情で苦笑し、静かに頭を抱えた。


「王でありながら、何一つ守れぬとは……滑稽な話だ」


「おい、ヴェリエよ?」


お菓子に夢中だったリーネが、唐突に口を開く。


「お前の足りん頭で悩んでも仕方ないだろう?

私はもう解決策を見つけ出し、リザーヴ討伐の旅に出ていた所だぞ。

まぁ、金が無くなって頓挫していたがな。

だが今回、ヒジリが優勝してくれたから解決だ。

もちろん賞金は、もらえるんだろう?」


「も、もちろんです……リーネ様。賞金はお渡しします……」

「それより、解決策はもうあったのですか?」

「当たり前だ!やっと揃ったのだ。

サンブライトとエールの血族がな。

あとは紋章の継承をし、ヤツを倒す!!!」


王の顔に、ようやく明るさが戻る。


「しかし私はヒジリの故郷に魔法陣を敷いていなかったのだ。

歩いていくとなると、1~2ヶ月はかかりそうだな。

ヤツらがそこまで待ってくれていればいいのだが?」


片方の口元を上げ、ニヤリと王を見上げるリーネ。


「は、はい!疾風馬種(ラピッド・シュバル)の馬車を用意させて頂きます!

それと旅に必要な物がございましたら、全てこちらで用意させて頂きますので、

なんなりとおっしゃって下さい!」


リーネの顔が完全に悪役だったのは、見なかった事にしよう。


「よし!決まりだな。

まずはアオイの両親を見つけてやるとしよう。

それが終わったら、継承だ!!!」


再びエーカーにお菓子を持ってこさせ、

リーネは嬉しそうに宣言した。


「そうだね。アオイの両親、見つけようね」


ボクがそう言ってヒジリを見ると、

暗い表情のまま、それでも小さく頷いていた。


「今から出発というわけには行かないだろう。

皆様にお部屋を用意させてもらう。

夕食が出来るまで、ごゆっくりして下さい。

リーネ様のお部屋には、後ほどお菓子を持って行かせますので……」


最初の威厳はどこへやら、

王の口調はすっかり敬語と素が混じった変なものになっていた。


エーカーが

「お部屋までご案内させて頂きます。こちらへどうぞ」

と言うので席を立つと、ヒジリが小声で、


「話したい事があるから……後で部屋に行くね……」


それだけ言って、エーカーの方へ走って行った。


ボクも置いていかれないように、王に頭を下げ、

急いで部屋へと向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ