第35話 大会前日
大会前日、ボク達は王都ブリエヴィルに来ていた。
キューブはギルドの仕事があるという事で、宿屋に置いて来た。
「う~~!
私も行きたいのですが、我慢してお仕事をします。
しばらくまたお休みしなくてはならないので、今日中に全部片付けます。
明日は必ず行きます」
そんな事を、今にも泣きそうな顔で言っていた。
さすが王都。
人が多い。種族も多い。お店も多い。
口を半開きにして、きょろきょろと辺りを見渡していたら、ヒジリに言われた。
「恥ずかしいから! 子供に笑われるわよ」
半目で、哀れむような顔。
「しょうがないじゃん! こんなに大きい街、見たこと無いし。
ほら見てヒジリ! ケモ耳少女!! 尻尾モフモフ!」
猫みたいな耳と、ふさふさの尻尾を持つ少女が目の前を通り過ぎていく。
思わず目で追っていると、首の辺りにチクッと痛みを感じるような視線。
「へぇ~。ハツキは女の子なら誰でもいいんだね~。
護ってあげたくなっちゃった?」
ボクは慌ててヒジリの方を向き、直角になるくらい頭を下げた。
「すみません! 珍しかったんです!
ボクの村にはいませんでしたし、本当に珍しかっただけなんです!」
ヒジリは、軽蔑するような……人ではない“ナニカ”を見るみたいな視線をぶつけてくる。
「ヒジリ、そろそろ許してやれ。
ハツキも珍しいって言ってるし。な?」
見かねたリーネが助け舟を出してくれた。
「リーネがそう言うなら、しょうがないな。まったく~」
そう言いながら、ヒジリは大会の登録会場である中央噴水広場へ向かって歩き出す。
その後ろを追いかけようとすると、リーネがボクの背中をポンっと叩いて、
「女の嫉妬は怖いぞ~」
片目を閉じて、小声で囁いた。
「以後、気を付けます」
ボクも小声で返す。
「何やってるの~? 置いてくよ~!」
ヒジリの大声に呼ばれ、リーネと一緒に慌てて駆け出した。
中央噴水広場に着くと、人でごった返していた。
傷だらけの鎧を身に着けた屈強な男。
細身だが、隙の無い男。
ローブで全身を覆い、男か女かも分からない人。
明らかに戦いに向いてないですよね?ってくらい露出の多い女。
人間から亜人種、男性から女性まで。
様々な参加者が受付前に集まっている。
「うわ~、混んでるね~。
そして本当に色んな人がいるんだね~」
思わず、見たままの感想が口から出た。
「試合の当日、色々あたし我慢するから、ハツキもリーネも何も言わないでね」
そう言うと、ヒジリは一人で受付へ歩いていった。
どういう事だろう?と、リーネと顔を見合わせて首を傾げる。
しかし、その意味はすぐに分かった。
ヒジリが受付に着いた瞬間、そこかしこから悲鳴に近い声が上がる。
「うわ! 銀髪のバーサーカーだ!」
「今回、俺出るのやめようかな……」
「こりゃオッズ一気に変わるな」
「バーサーカーって言う割に小さくて可愛いな」
「銀髪のバーサーカー様よ! サインもらえるかしら?」
「本当に女なんだな……」
「左眼に眼帯してるけど怪我?」
「本当だ! なんか勝てそう!」
「最近見なかったけど、生きてたんだ……」
歓声、悲鳴、罵声が入り混じる。
「あ~~。そういやヒジリ、二つ名で呼ばれるの嫌がってたな」
「そうなのか? 私はいい二つ名だと思うのだが」
その喧騒の中、澄んだ声が広場に響き渡る。
「ヒジリ=ブラン=エール。
ここに参加する事を誓う!!!」
おおおおお!!と、広場全体が揺れるほどのざわめき。
「どいて!」
ヒジリの一言で、人の波が左右に割れ、道が出来る。
その道を、銀髪を揺らしながら颯爽と戻ってくるヒジリ。
戻ってくるなり、大きな溜息。
「はぁぁぁぁ~~~~。
疲れた……これだからイヤなのよ。
こんなカワイイ子を捕まえて、バ~サ~カ~って……」
「まぁ強ち間違いではな――」
ゴスッ!
体が一瞬、宙に浮いた。
「ハツキ君? 少し黙ろうか???」
呼吸が詰まり、声も出ない。
首をコクコク縦に振って意思表示する。
(不機嫌な時に余計な事を言ってしまった……)
「登録も終わったし、街中でも見るか?」
リーネが呆れた顔で次の予定を出す。
「そうね。でもまだ登録期間中だし、少し街を散歩しましょう」
そう言って、ヒジリは店が並ぶ方へ歩き出した。
リーネがボクの背中をポンと押す。
「お前は少しも勉強しないのだな」
「はぁ~……死ぬかと思った。
昨日ヒジリが言ってた“切ない思い”って、これの事だったんだな。
本当に気を付けよう……」
独り言を呟きながら、二人に置いていかれないよう雑踏を走る。
――――――
リーネが「お腹が空きすぎて死ぬ~」と騒ぎ出したので、早めの昼食を取る事になった。
ヒジリにブリエヴィルの名物を聞くと、
「なんだろう? お肉もお魚もお野菜も全部美味しいよ♪」
と、聞き甲斐の無い返答。
リーネは「全部食べたい!」と騒いでいたが、生憎所持金はそんなに持っていない。
残念そうなリーネを尻目に、手頃なジャンクフード屋を見つけ、
片手で食べられる魚の薄皮パイ包みを注文した。
新鮮な白身魚をフライにし、スパイスの効いたソースと野菜を、薄いパイ生地で包んだもの。
若い人に人気の食べ物らしい。
ベンチに座り、三人で一口。
さっぱりした白身魚に、ピリッとしたスパイス。
シャキシャキの野菜と、パリパリのパイ生地。
気付けば、手に持っていたはずの食べ物はもう無くなっていた。
リーネは口の周りのソースを指で拭い、ペロリと舐めて、
まだ食べ足りなさそうな顔。
ヒジリと顔を見合わせ、無言で無視した。
――――――
昼食も終わり、次は観光。
有名どころは
“夕陽の坂”、
“光の回廊”、
“中央噴水広場”。
中央噴水広場は人が多すぎるので却下。
夕陽の坂は夕方じゃないと微妙なので却下。
消去法で、光の回廊に決定した。
白い壁の建物が並び、赤と白のレンガ道。
太陽の光が反射し、白い道だけが浮かび上がって見える。
「眩しいけど……道が光ってるみたいだね」
「うんうん。綺麗だね。確かに光の回廊だ~」
「私の魔法ならもっと綺麗に出来るぞ」
その時、中央噴水広場の方から花火の音。
「あ! 対戦表出たみたいだよ」
ヒジリが音の方を見ながら言う。
さっきまでの笑顔とは違う、キリッとした表情。
「よし! 見てくるね!
どうせあたしより強い人いないだろうけど、念の為ね!」
――――――
掲示板の前。
参加者は百十人ほど。
「多……面倒くさ……」
ヒジリが空を見上げ、その視線の先に垂れ幕。
『銀髪のバーサーカー参戦!!!倒すのは誰だ!?』
笑いを堪えるボク。
ヒジリが睨み、掲示板へ。
そこにはさらに追い打ち。
『王ヴェリエ=フォン様ご観覧決定
優勝賞金 金貨100枚』
「……なんで……」
肩を叩き、リーネと二人で親指を立てる。
「あ~~もう!!!ヤダヤダ!!
明日は一人で行く!!!」
「ダメ~! 応援する!」
「私の魔法陣だ。私が居ないと使えんぞ?」
む~と頬を膨らませた後、諦めたように。
「あたしがなに言われても気にしないでくれる?……信じてくれる?」
ボクは頷いた。
――――――
宿屋に戻ると、キューブが頬を膨らませていた。
「遅いです!!! ご飯はとっくに出来ています!!!」
こうして大会前日は終わった。
テンション低めのヒジリ。
テンションMAXで食べるリーネ。
それを母親のように見るキューブ。
「明日は応援するからね!」
「言い忘れてたけど、ハツキも推薦枠で登録しといたから」
そんな事、今言います~~!?
おかしな宿屋に、ボクの悲鳴が響いた夜だった。




