第34話 取り戻した日常
母の日記を読み終え、自分の大事な人を護りたいと、改めて強く思った。
母は父を護る為に願い、手に入れた能力。
父がボクを護る為に使い、命を落とした能力。
移動する・苦痛
代償は、使えば使うほど使用者の命を削る。
母は自己回復能力に長けていた為、代償の進行は遅くなっていた。
自己回復能力を手に入れたボクは、これからも――
ヒジリ、リーネ、キューブを護りたいと、心から誓った。
そんな気持ちで外を見ると、太陽もだいぶ傾いていた。
思った以上に時間が経っていたらしい。
荷物もまだ纏めていないし、今から出発しても夜がすぐに来てしまう。
だから、出発は明日にする事にした。
「今日はゆっくり休んで、明日からまたガンバろう!」
ボクがそう言うと、ヒジリもリーネも嬉しそうに頷いた。
ヒジリはいつもの様に、夕食作りを始める。
トントントン。
やはり、何度聞いても心地の良い音だ。
幸せで、平穏なひと時が戻ってきた。
リーネはお腹が空き過ぎているのか、ヒジリの傍から離れない。
ヒジリが料理の味付けを終えると、
「味見!!!」
と叫びながら、ちょびちょびと食べ始めている。
「平和が一番だな」
そう心の中で思いながら、その様子を眺めていた。
調理を終え、テーブルに豪華な晩ご飯が並ぶ。
肉料理、魚料理、スープにサラダ。最後にデザートまである。
全員で「いただきます」と手を合わせて、食べ始める。
ヒジリの手料理は、やっぱり美味しい。
皿に盛られた料理が、どんどん減っていく。
食べている内に、ふと疑問が頭に浮かんだ。
この料理に使った材料代って……どうなってるんだろう?
宿泊代は父が払ってくれているのはわかっている。
でも、日常で使った材料費や、
リーネが食べまくっている料理代の金額は確認していなかった。
「ねえ、リーネ? ここで使った材料とかってタダ?」
知っているのかどうか分からないが、とりあえず聞いてみる。
「何を言っているんだ? もちろん後払いだ」
……やってしまった。
何も考えず、使いまくっていた。
慌てて真珠龍の皮袋をひっくり返し、持ち金を確認する。
チャリン。
チャリーーン。
……ふふふ。
金欠だ。
回復アイテム、罠、武器……色々揃えるのに、だいぶ使っていた。
それを見ていたヒジリが、不思議そうに聞いてくる。
「お金無いの? 金欠?」
その言葉に、小さく頷く。
金欠に気付かなかったなんて……普通に恥ずかしい。
「な~んだ! 早く言ってよ!」
「え!? ヒジリ、お金持ってるの?」
「ん!? 無いよ」
にっこりと、天使の笑顔で微笑むヒジリ。
リーネは食事の手を止めることなく、魚を頬張りながら、
「私も無いぞ!」
とアピールしてくる。
「……ボク、明日からギルドで討伐依頼クエストでもこなして、お金稼いでくるよ」
やはりヒジリは、不思議そうに首を傾げた。
「そんな事しなくても、月1で開催される賞金付きの大会に出ればいいじゃん。
ちょうど明後日に開催されるはずよ?
王都だから少し遠いけど」
なんだって~!!!
そんな素晴らしい大会が、毎月行われていたなんて。
宝箱にしか興味無かったから、知らないのも当然……かな……?
「ちなみにあたし、永久出場権あるから予選無しですぐに出れるよ。
ただ、少し切ない思いはするけど」
最後の一言が引っかかるが……なんて心強いお言葉。
「お願いしてもいいですか?」
ヒジリを見つめ、手を合わせて頭を下げる。
「まぁしょうがないよね。
継承の旅に行かなきゃだし、サクっと稼ぎますか。」
苦笑いを浮かべながら、了承してくれた。
そんな話をしている内に、料理を全て食べ終えたリーネが言う。
「王都なら、私の魔法陣があるからすぐに行けるぞ」
よし! 決まりだ!!
「それじゃ明日、王都に向かって大会の登録と事前調査。
その2つが終わったらココに戻ってきて、
大会当日また王都に向かう。これでどう?」
ヒジリもリーネも頷き、2日間の予定が決まった。
食べ終わった料理を片付け終わると、
リーネはもう眠いらしく、ベッドに向かっていく。
「私はもう寝る。また明日な。
わざわざ早く寝てやるんだ、あとは2人でごゆっくりな♪
……運命ってやつ、ちゃんと大事にしろよ?」
ニヤニヤしながら手を振り、部屋の扉をバタンと閉める。
……変な気を使ってくれて、本当にありがとうございます。
そんな事言われたら、逆に意識するっての!!!
そう思いつつヒジリを見ると、顔を赤く染めて俯いている。
うわあああ。
そんな表情されたら、こっちも意識するに決まってるじゃないか。
「あの~」
「あの~」
同時に声を発する。
……よくあるよね。うん。わかってる。
お先どうぞ、という感じで手を出し、
また同時に声を発する。
訪れる沈黙。
「……」
「……」
そして、これも同時に――あはは、と笑い声。
「何やってんのよ、ハツキ」
「ヒジリの方こそ、なんなんだよ」
「だってリーネがあんな事言うから……意識しちゃってさ……」
「ま、まあ、そうだよね」
「こうやってまたハツキと2人っきりで話せる機会が来るなんて、
あの時は思ってなかったから。だから……」
ヒジリは、少し間を置いて。
「……嬉しい♪」
「ボクは、またこういう時間が来るって信じてたよ。
必ずヒジリを見つけて、一緒に居るって信じてたから」
「ねぇハツキ……
……泣いてもイイ?」
ヒジリの頬に、涙が伝う。
今は右眼からしか流れない涙。
とても綺麗な涙だった。
ズビズビと鼻を啜り、一呼吸。
潤んだ瞳で、真剣な顔のままヒジリが見つめてくる。
その表情にドキリとして、思わず唾を飲む。
「ど、どどどどうしたの? ヒジリ?」
「あのね?」
「う、うん」
心臓がバクバク言ってるの、聞こえてないよね……?
「ハツキ?」
「は、はひっ!!!」
緊張の余り、ハイが言えなかった。
「ゆ、ゆ……」
「ん? ゆゆ???」
「指輪、無くしちゃった!!!
ハツキから貰った指輪が無いの!
ゴメンなさい! 本当にゴメンなさい!」
ヒジリは椅子から立ち上がり、頭をペコッと下げる。
ドザッ!!
ボクは思わず、椅子から滑り落ちた。
「そ、そんな事???」
「そんな事って何よ! ハツキから貰った大事な指輪なの!!」
今度は違う意味で、顔を赤くしている。
「ヒジリ……コレ……」
小指にはめていた指輪を見せる。
それを見た瞬間、ヒジリの顔がパアッと明るくなった。
「ありがとうハツキ。見つけてくれてたんだ♪」
「まあね」
「え!? なんかハツキ冷たくない???」
「気のせいだよ。せっかくあげたのに、置いていくんだもん」
「それは……」
ヒジリは泣きそうな顔で俯く。
……これ以上はマズい。
小指から指輪を外すと、
ヒジリは嬉しそうに目を輝かせ、両手を差し出してきた。
「ハツキ。……また付けてくれる?」
今度は躊躇なく、左手を出してくる。
なんだこれ。照れるぞ。
「今度はもう外さないでね! 次は拾わないから!!」
照れ隠ししながら、左手の薬指にはめる。
指に通すと、ピッタリ合うサイズに変わった。
「うん! 今度はもう絶対に外さない!
無くさない! ありがとうハツキ♪」
……絶対に外さないって……。
急に恥ずかしくなって背を向け、風呂場に向かおうとすると、
「え!? なにこれ?」
と、後ろからヒジリの声。
振り向くと、ヒジリが
両思いの石を指輪から取り出していた。
「この色……」
……ああ。蒼色になってたね。
気持ちが無くなっちゃって……。
「コレ見て」
ヒジリが、石を目の前に突き出す。
淡い紅紫色。
見たこともない、とても綺麗な色だった。
「これって……どうしてこんな色なの?」
そう聞くと、ヒジリは俯いたまま、静かに答える。
「これは……ね。
運命の……運命の人との色。
ずっと一緒に居る人同士が持った時に出る色」
顔に、熱が集まる。
運命の人、か。
……そうだね。
命を懸けて護りたい人なんだから。
「ヒジリ。
今度こそボクが護るから。
だからムリはするな。
指輪を無くすような事もしないで。わかった?
ボクの傍から離れないで!!!
……まあ、ボクが死に掛けなければいいんだけどね」
ヒジリは目を逸らさず、真っ直ぐボクを見つめて頷いた。
「わかったよ、ハツキ。約束する。
でも最後の一言、いらないけどね!」
そう言って、笑ってくれた。
久しぶりの幸せな時間。
戻ってきた、幸せな時間。
この気持ちを忘れず、ずっと護っていこう。
窓の外は、もう真っ暗。
新月の夜。星だけがキラキラ輝いている。
少し騒がしくて、静寂な夜。
「「……あっ! 流れ星!!! 」」
この気持ちを忘れず、ずっと護っていこう。
――今度こそ、もう何も失わないために。




