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第28話 ガーディアンの塔

倒れたあと、リーネの回復魔法で怪我を治してもらい、ボクは無事に復活した。


リーネは、

消滅(デリート)の反動からか、

キューブの中に戻ると、そのまま眠ってしまったらしい。


そして――

ヒジリだけが、なぜか元気そのままで朝を迎えた。


「おっはよ~~~!!!」


ドスン、と勢いよくベッドに飛び込まれ、


「ぐえ~~!!」


変な声と一緒に、強制的に意識を現実へ引き戻される。


「ハツキ、朝だよ!今日は天気イイよ~♪

リーネはちゃんと自分で起きて、朝ご飯食べてるから!

ハツキも起きて、ご飯食べて、早く出発しようよ~!」


天気はいいかもしれないけど、目覚めは最悪だ。


朝食と旅立ちの準備を終えたヒジリは、終始ニコニコとした笑顔を向けてくる。


リビングへ行くと、リーネがパンを頬張っていた。


「おはよう。調子はどうだ?

私の回復魔法は効くだろう?フェーリアにも負けなかったんだぞ!」


フェーリア……

お母さん、か。


ちゃんと、覚えていてくれているらしい。


ヒジリの作ってくれた朝食を口に運びながら、そんなことを思う。

それを見ていたヒジリは、やっぱりニコニコしていた。


いや、先ほどからずっとだ。

まるで「何か言う事ないの?」とでも言いたげな顔。


……うん。

起こしてくれた(・・・・・・・)時から、気付いてたよ。


言うべき、だよな。


「ヒジリ?……髪型、変えた?」


「うん♪やっと言ってくれた~!!でも遅い~!

それに髪型だけじゃなくて、服もなんだけどね」


小さな顔の横で、銀髪が綺麗に編み込まれている。

黒の闘いの正装(バトル・ドレス)も、どこか露出が増えていた。


「リーネにちょっと改良してもらったの♪

少し露出多くなっちゃったケド……カワイイ~??」


……確かに、カワイイ。


露出が増えた分、視線の置き場に困るけど。


「う、うん。カワイイよ」


素直に言うと、ヒジリは嬉しそうにしながら台所へ向かった。


「どうだ?私のセンスは?

布の面積を減らす必要は無かったが、敢えて少なくした!

ハツキへのサービスだ♪」


今度はリーネが、誇らしげに胸を張る。


……お前……。


「ありがとうございます♪リーネ様♪」


深々と頭を下げ、心から感謝した。



洗い物も終わり、準備も万端。

いよいよ出発――という空気になった、その時。


「そういえば、ハツキ」


リーネが、何気ない調子で言った。


「昨日のカートス戦でな。

少しだけ、気になる挙動があった」


その一言で手が止まる。


消滅(デリート)は、確かに能力を消した。

だが……消え方が、想定より“浅かった”」


浅い……?


「表に出ていた力は消えた。

だが、その奥――能力構造の根本までは、

消去出来ていない感触があった」


ヒジリが首を傾げる。


「つまり……どういうこと?」


「能力を一つしか持たない相手なら問題ない。

だが、複数の力を持つ存在や、

能力が重なっている相手だと、同じ結果にはならない可能性がある」


一瞬、空気が張りつめた。


「じゃあ……次は危ない?」


ヒジリが不安そうに聞く。


リーネは、あっさり首を横に振る。


「いや。気付いた時点で、もう組み直している」


さらりと言う。


「次からは“能力単位”ではなく、

存在そのものが持つ力の構造を捉える。

通じない相手は、もう想定済みだ」


……頼もしすぎる。


「ただし――」


リーネは、二人を見た。


「相手が複数能力者だった場合、

一瞬で終わるとは思わない方がいい。

私が対応するが、油断はするな」


「……了解」


それで十分だった。



リーネの話が終わり、外へ出る。

昨日とは打って変わって、空は快晴だった。


「ん~~~!キモチイイ♪」


ヒジリが背伸びをしながら、遠足にでも行くような調子で言う。


今日こそ、新たなる旅の始まりだ。


目指すは、リーネの街から東にある――

ガーディアンの塔。


そこでボクは、

ヒジリを……

リーネを……

護る力を手に入れる。


ガーディアンの塔までの道のりは、そう遠くはない。

何事もなければ、二、三日といったところだ。


「ヒジリ、今度は妖精を見つけても追いかけるなよ~」


注意しておかないと、また時間を食いそうなので釘を刺す。


ヒジリはそっぽを向き、口を尖らせながら


「は~い……」


とだけ返事をした。


それを見て、リーネが楽しそうに笑う。


……やっぱり、仲間が増えるのはいい。


――――そう思っていた。


ガーディアンの塔へ向かう道中、何事もなく到着。

そう言えたら良かったのに。


注意したにもかかわらず、ヒジリは何度も妖精を追いかけ、

そのたびに罠に引っかかる。


その都度、ボクが

2重罠・強奪ダブルトラップ・スティール

で解除し、体力を消耗しては休む……の繰り返し。


最初のうちは、リーネも

「ホントに引っかかるんだな!」

なんて笑っていたが、最後の方は完全に呆れた顔になっていた。


「「ヒジリ、お前な……」」


声を揃えて言う。


「わ、わかってるわよ!

でもカワイいんだから仕方ないじゃない!

逆に、なんで追いかけないのか不思議なんだけど!」


完全に逆ギレだ。


ボクとリーネは同時にため息をつき、

ガーディアンの塔を見上げた。


塔の頂上は雲の上。

どこまで続いているのか、まったく見えない。


登る前から考えたくもないが……

頂上に行くまで何日かかるのだろう。

回復アイテムや宿泊用のアイテムは足りるだろうか。


そして何より――

どんな試練が待っているのか。


人それぞれ試練は違う、とリーネは言っていた。

ボクに出来るのだろうか。

もしここで失敗して、証の継承が出来なかったら……。


塔を見上げたまま、唾をゴクリと飲み込む。


次の瞬間、背中を押され、前のめりになった。


「なにやる前から悩んでるの?

失敗したら、また挑戦すればいいじゃん!

それに何かあったら、あたしが護るし。

ハツキは、ただ前に進めばいいよ♪」


後ろから聞こえてくるヒジリの声は、どこか天使みたいに優しかった。


……確かに。

やる前から悩んでも仕方ない。

失敗したら、また挑戦すればいい。何回でも。


……でもたぶん、挑戦できるよね?


余計なことを考えそうになり、首を振る。

そして、塔の頂上を見据えた。


「よし! 出たとこ勝負!! みんなヨロシク~!」


ヒジリもリーネも頷き、

いつも通り手を重ねて、


「お~!!」


と声を上げた。



ギギ……と重い音を立て、扉が開く。


何もないフロア。

奥には、上層へと続く階段だけが見えていた。


「……何も無いね」


ヒジリが率直な感想を口にする。


確かに、不自然なくらい何もない。


2重罠・強奪ダブルトラップ・スティール


本当は力を温存しておきたかったが、仕方ない。

最初から罠に引っかかる失敗だけは避けたかった。


……このフロアにトラップは存在しません……

……終了致します……


「え!?」


「どうしたの、ハツキ? ヤバい?」


「いや……本当に、何も無い。上に行こう」


完全に肩透かしだった。


次の階も、その次の階も――何も無い。


「ねえ……この塔、変じゃない?

なにも無さ過ぎじゃない?」


ヒジリが、皆が思っていることを口にする。


「何も無いに越したことはないだろう?

私たちは、上るしかないのだぞ」


リーネはそう言い、階段に足を掛けながら振り返る。


「たぶん次の階には居るぞ。楽しみだな!」


自然と体に力が入る。

ヒジリも、同じように真剣な顔をしていた。


――――――――

ガーディアンの塔 5F

――――――――


目の前には、鋭く光る曲刀と、体半分を隠すほどの大盾を持った

骸骨騎士(スケルトン・ナイト)

が立っていた。


「待っていたぞ。証を継承する者達よ――

我は不死の騎士――汝の力の全てをもって討ちほろ……」


「我が名はリーネ。

叡智を統べ、司る者なり。

(ことわり)を破壊し、顕現せよ。

火竜・ボルケイノス」


言い終わる前に、骸骨騎士は炎に包まれ、灰となった。


「話が長い!!! 手短に話せ!!!」


……喋ってたんだけどな。

ヒジリと二人、呆然と立ち尽くした。


リーネ様怖い…


――――――――

ガーディアンの塔 10F

――――――――


やはり、居た。


フロア中央に立つのは、

土人形(ゴーレム)


頭は天井に届きそうなほど高く、

全身が岩の塊で出来たような、歪な人型。


今回は……話を聞こうか。

そう思った瞬間。


天使の翼(アンジェ・エール)


背後で、床が砕ける音。


次の瞬間、風が横を駆け抜け、

ボクの視界からゴーレムの姿が消えた。


ドゴォン!!


壁に何かが叩きつけられる鈍い音。

砂埃の向こうで、巨大な土塊がゆっくりと崩れ落ちていく。


「フフフ♪ 蹴り一発でしたぁ~♪

リーネには負けられないよ!!」


ヒジリは、腕を組んで得意げに笑っていた。


なにを競っているの…?

この子たち、普通に怖い。


「……ねえ、二人とも」


思わず、声が出る。


「これってさ……

ボクの“試練”なんだよね?」


二人が同時に、こっちを見る。


「でもさ、リーネは魔法で消し飛ばすし、

ヒジリは蹴り一発で終わらせるし……」


言葉を選びながら、続ける。


「その……

君たちがここまで頑張って登るのって、

……アリなのかな?」


一瞬、静かになる。


ヒジリは、きょとんとした顔で首を傾げた。


「え? なんで?」


「だって……

ボクが“護る力”を手に入れるための場所でしょ?

なのに、ほとんど何もしてないのに、

どんどん上まで来ちゃってて……」


自分で言いながら、情けなくなる。


「……ズルしてる、みたいで」


その言葉に、ヒジリは一瞬だけ驚いた顔をして、

次の瞬間、笑った。


「ズル? 何それ~!」


そう言って、ボクの額を指で軽く突く。


「ハツキさ、勘違いしてるよ」


「え?」


「これは“一人で頑張る試練”じゃないでしょ?」


ヒジリは、当たり前みたいに言った。


「一緒に来たんだから、

一緒に登るのが普通じゃん」


その横で、リーネも腕を組みながら頷く。


「そもそも、“力を得る資格”とは

戦闘能力だけの話ではない」


「……どういう意味?」


「誰と来るか。

誰に支えられているか。

それも含めて、継承条件だ」


リーネは、静かに言う。


「お前は、もう“一人で戦う存在”ではない。

それを自覚出来ている時点で、

試練としては十分すぎる」


……ズルなんかではなくて、


むしろ――

ちゃんと“仲間に頼れているか”を試されているのか。


そう思った瞬間、

胸の奥にあった引っかかりが、すっと消えた。


「……そっか」


ボクが小さく笑うと、ヒジリも笑った。


「ほらほら、先に進も♪」


リーネが、ため息混じりに言う。


「考えすぎだ。

試練とは、悩みながら進むものだろう?」


そして、ぽつりと付け加えた。


「……だが、確かに。

この塔は、少し“ヌル過ぎる”な

修行にもならん。もう面倒だ、飛ぶぞ!!」


リーネが、急に詠唱を始める。


え、飛ぶ?

いや、飛ぶって……フロアを飛ばすってこと?


そう思っている間に詠唱は終わり、

ふわり、と足元の感覚が消えた。


転移(ゲート)


視界が一瞬、真っ白になる。


次の瞬間――


「ここが頂上だな」


リーネが、何事もなかったように言った。


「……もう、あなた達なんでもアリなの?

番人の話も聞かないし、

何もさせず倒すし、

挙句の果てにフロアすっ飛ばして頂上って……」


言わずにはいられなかった。


なぜなら――


玉座に座る“鬼”は、

こちらを睨みつけているように見えた。


「ほら…怒ってる…」


玉座に座る“鬼”は、確かにこちらを睨んでいた。


ただそれだけなのに、

さっきまでの軽い空気が、一瞬で消え失せる。


リーネも、ヒジリも、もう笑っていない。

この場に立っている全員が、無言で“何か”を感じ取っていた。


――これは、今までの戦いとは違う。


言葉にしなくても、分かる。

この先にあるのは、たぶん――


「……来るね」


ヒジリが、ぽつりと呟いた。


リーネは何も言わず、鬼を見て警戒する。


ボクは、唾を飲み込みながら、玉座を見上げた。


何が起きるのかは、まだ分からない。

でも確実に言えるのは――


ここからが、ガーディアンの塔の“本番”だ。

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