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第27話 消滅~delete~

骸骨を踏付け遠吠えする狼…


『冒涜する魔狼』(カース・ウォルフ)の証。


そしてボロのローブを纏った男がヴォルズの名を口にした。


ヒジリの能力を喰いにきた?


この男は何を言っている?


まさかこの男も…


人を……


人を喰って能力を持っているのか???


「うはははは!

大体考えてる事はわかるぜえええ!

そうだあああ!

喰ってやったさあああ!

最初、俺に寄越した能力が使えなかったからなああ!

ヴォルズ(バカ)の能力が欲しくて喰ってやったああ!

あのヴォルズ(バカ)の“心臓”を!!

ヒジリちゃんがキレイに半分にしてくれたから

喰いやすかったぜええええ!

それにしてもあのヴォルズ(バカ)

なんでこんなガキ共に負けたんだあああ?

あ!そうかあああ!

あのヴォルズ(バカ)

この能力の本当の使い方をまったくわかっちゃいなかったからなあああ!

わかっていたらこんなガキ共に

負けるハズがねえんだよなあああ!

なあ?ガキ共??」


狂っている。

完全にコイツは狂っている。


分かり得ない恐怖からなのか怒りからなのか、わからない。

体が震える。


「ふざけ…!!」


「ふっざけんな~~!!!」


ヒジリが先に叫んだ。


「喰った???

アンタ何人食べたの?


ヴォルズの前に何人食べた…?


アンタももう人間じゃないよね…?

死んで殺した人に謝らないと――」


冷静で冷酷で残酷な目。


「おおおおおお!

コワイコワイいいい!

怖いからそのまま動かないでねえええ。

そしてしゃべらないでねええええ!!」


男は歪んだ笑みを浮かべ、自分の()()()()()


「ちなみに俺の名前なあ。

カートスって言うんだぜえええ?

覚えとけよおおお。

お前らを殺す男の名前だからなあああ!!」


そして、ゆっくりと()()()()()


「ハツキ・ヒジリ・ギルドの受付ぇぇ!!」


「……動くな」


低く、ねっとりとした声が頭の中に響く。


その瞬間。


筋肉に力を入れようとしても、命令が届かない。

それだけじゃない――胸が、動かない。


息を吸おうとした。

だが、肺が膨らまない。


(……っ、呼吸が……)


喉がひくりと震えるだけで、空気は一切入ってこない。

見えない手で首を締められているような圧迫感。

視界の端が、じわりと暗く滲み始める。


「何も出来ないだろおおお!」


カートスの声が、やけに遠く聞こえた。

酸素を失った思考が、急速に鈍っていく。


ヒジリもキューブも完全に止まっている。


「ねえ?ねえ?

ビックリしたああ?

声も出ないし、息も出来ないだろおお?

複数箇所完全に止める場合

()()()()()()()()()()()()()()()

が必要なんだよおお!

全てを完全に止めなかったから

あのヴォルズ(バカ)は死んだんだ!!」


……完全に油断した。

真実に成る嘘(ライズアンドトゥルー)を警戒するべきだった。



そのとき、


・・・ まったく、ウルサイ男だな ・・・


頭の中で、リーネの声が響いた。


・・・ 人が気持ちよく寝ていたというのに ・・・


寝てた???

このピンチに???


・・・ すぐに助ける。少しだけ待っていろ ・・・

・・・ ただし、先に断っておくぞ ・・・

・・・ 消滅(デリート)を使う ・・・


消滅(デリート)


その言葉を聞いた瞬間、

空気が、ほんの一瞬だけ――重くなった。


・・・ 私は、まずお前たちを助ける ・・・

・・・ 安全を最優先だ ・・・

・・・ 使用不可時間(クーリングタイム)がどれほどかは分からんが ・・・

・・・ まぁ……そのうち、また使えるようになるだろう ・・・


意外と、余裕だな……リーネ。


・・・ わたしの力を ・・・

・・・ 少しだけ、見せてやろうか ・・・

・・・ まずは…… ・・・


……おい、キューブ……

……お前はギルドの受付ではないだろう……

……お前はキューブだ。動けるはずだ……


「あ!そうでした♪」


キューブが手をポンと叩く。


「なんで受付が動いてんだよおおおお!?」


キューブはその場で形を変え、匣になる。


そして、匣がゆっくりと開く。


リーネが中から現れた。


その光景に、カートスが一瞬、完全に固まった。


「……な、なんだそれ……」


その隙に。


リーネが詠唱を始める。


我が名はリーネ。

叡智を統べ、司る者(ソール・マスター)なり。

永遠の刻を彷徨いし貪欲なる魂共よ。

カートスのチカラを喰らい尽くせ。


消滅(デリート)


灰色のナニカが、カートスの全身に纏わりつく。


「な、なんだこれえええ!

ヤメろおおお!!

俺から奪うなあああ!!!」


拘束が解けた。


次の瞬間――

肺が一気に膨らんだ。


「――っ、は……!」


空気が喉を焼くように流れ込み、

反射的に何度も息を吸う。


胸が上下する。

視界に色が戻り、止まっていた時間が再び動き出す。


――その時。


風を裂く音。


ヒジリが、地を蹴っていた。


「ヒジリ、殺すな!!!

そいつから聞きたいことがある!」


「わかったぁ~♪

じゃあブン殴るだけねぇ♪」


ヒジリが翼を展開し、突っ込む。


ズドン!!!


「あれ!?……殴った感触、無い……」


「ハツキ!!!

移動する苦痛(ペインムーヴ)!!!」

リーネが叫ぶ。


何もない空間からヒジリの右腕に、

突然ナイフが突き立てられた。

血が噴き出す。


次の瞬間。


その“傷そのもの”が空間を歪めるように移動し、

ハツキの右腕へ。


ヒジリの腕から傷が消え、

ハツキの腕から血が溢れる。


「……あ……」


痛みは、ない。

でも視覚だけが現実を突きつける。


「ハツキ!!!」


「大丈夫。

痛くない。ちゃんと移ったよ」


「うひゃひゃひゃ!

なんでヒジリちゃんを刺したのにお前から血がでてるんだあああ?

まあいいかぁ!

透明なる影(インビジブルシャドウ)だぁ!」


カートスの姿が消える。


次の瞬間。


ヒジリの首元にナイフ。


「ちっ!ヴォルズ(バカ)からせっかくもらった能力が消えちまった!

昔の使えねぇ能力に戻っちまったよ!

腹立つからヒジリちゃんから殺すか…

だから動くなよおお?

この白くてキレイな首、

切っちゃうよおお?」


血が一筋、ナイフを伝う。


「……カートス」


ボクは静かに言った。


「人を殺そうとする時ってさ、

自分も殺される覚悟があるんだよな?」


「バ~~~カ!!知らねええよ!!

この女の首なんて直ぐ落ちるぜえええ!!!」


「カートス!!

もうお前は動けないよ」


親指を下に向ける。


「だってもうお前は

(トラップ)に掛かってるから」


ハツキは、真珠龍の皮袋(パールレザー)から一枚の羊皮紙を取り出し、

腕に刺さったナイフから伝う血を指で掬う。


魔法陣とも呪符ともつかない、

複雑な紋様が刻まれた羊皮紙。


そこに、自分の血をなぞるように垂らす。


黒き茨の(ヴァンエピーヌ)(ノワール)


――瞬間。


地面が、軋むような音を立てた。


カートスの足元から、黒い茨が噴き上がり、

絡みつくように両脚を締め上げる。


同時に、冷たい風が吹き抜け、

その身体を包むようにまとわりついた。


凍るほどではない。

だが、筋肉の動きを鈍らせるには十分すぎる冷気。


「……っ、なにを……」


カートスの動きが、目に見えて遅くなる。


ハツキは静かに言った。


「お前はもう、(トラップ)の中だ


……じゃ、ヒジリに任せる」


「うん♪」


ヒジリが一瞬だけ目を細める。


そして。


全力の右手(・・)が、

カートスの顔面に叩き込まれた。


ズゴンッ!!!


衝撃で吹き飛び、

カートスは白目を剥いて失神した。


「……気絶しただけだよね?」


「うん。多分」


「たぶん!?」


「なんてね!!」



茨に絡め取られたカートスを見下ろして、

ヒジリは大きく息を吐いた。


拳をゆっくり下ろす。


「殺してないから安心して。

ちゃんと生きてるよ」


リーネが近づいてきて、

拘束されたカートスを睨みつける。


「うむ……聞きたいことは山ほどあるが…

この状態ではムリだな…

しかしどうやって奪った能力を昇華させたのか…」


ヒジリは少し考えてから、言った。


「じゃあ……今日はここまでにしよ。

みんな消耗してるし。

無理して聞き出しても、ちゃんとした答え引き出せないと思う」


リーネは一拍置いて、頷く。


「……それもそうだな。

今の状態では、冷静な尋問は出来ん。

とりあえずどこにいてもわかるように探索魔法は掛けておく!」


ヒジリはカートスを見て、はっきり言った。


「とりあえず今日は起きないだろうし、

ハツキの茨で拘束してるし、リーネの魔法もあるしこのままにして明日ギルドに連れていこ。

ちゃんと罪は償ってもらわないと」


「尋問は、明日」



……


「それにしても疲れたぁぁぁ~」


その場に座り込む。


「ハツキ~~~!

ちゃんと護ってくれてありがとう!」


「また泣く」


「泣いてないもん。雨だもん」


リーネがよろめきながら近づく。


消滅(デリート)の消耗、

想像以上だったな。

やはり試し撃ちは大事だ」


再び訪れた

『冒涜する魔狼』(カース・ウォルフ)の悪意。


父の言葉を思い出す。


――常に、感覚を研ぎ澄ませ。


「「「今日は帰ろうっ!!!」」」


出鼻は挫かれたが、

三人で力を合わせた勝利だった。


ボク達は再び

「おかしな宿屋」へ戻るため、入り口へ。


ドサっ。


「きゃ~~!ハツキ、ハツキ!!!」

ヒジリの声が、少し遠くに聞こえた。


ああ……そっか。

ボク、倒れちゃったか……


視界の端で、

リーネとヒジリが慌てて駆け寄ってくるのが見えた。


……冒険の始まりとしては、

ちょっと情けなさすぎだな……


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