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第3話 旅の仲間?

 ハツキの視界に、最初に飛び込んできたのは――

 うつ伏せに倒れている、一人の少女だった。


 腰まで伸びた銀髪。

 洞窟の薄暗がりの中でも、まるで月光を反射するように淡く輝いている。


 血も、傷も、見当たらない。

 ただ――異様なほど、白い。


「……なんで、女の子が倒れてるんだろ……」


 思わず、そんな言葉が口から漏れた。


 ついさっきまでの死闘も、

 白い鬼も、

 オークデーモンも――


 全部、この光景の前では現実感を失っていた。


 ――いや、落ち着け。


 ハツキは自分に言い聞かせるように、そっと近づく。


 呼吸している。

 胸が、微かに上下している。


 生きている。

 ……それだけで、なぜか胸の奥が少し緩んだ。


「……今この子が起きたら、完全にボクが何かした人みたいになるよな……」


 呟きながら外套を脱ぎ、少女の身体にそっと掛ける。


「よし。これで一安心……」


 そう言って、立ち上がった――その時。


 カサリ。


 背後で、布が擦れる音。


「……あれ……? ここ、どこ……?」


 か細い声。


 ハツキの背筋が、一瞬で凍る。


「――え!? ええぇぇ!?

 なんであたし、服着てないのーーっ!!」


 完全にパニックな声。


 だがハツキは、あえて振り返らなかった。


(……待て……待て……これは罠だ……)


「ねぇ、キミ……」


 少女の声。


 聞こえないフリを決め込む。


「無視しないでよっ!!」


 次の瞬間、視界の端に白い影。


 振り返る前に、理解してしまった。


 ――回り込まれた。


 そこに立っていたのは、


 銀髪。

 碧に紫を溶かしたような瞳。

 透き通るほど白い肌。


 外套に身を包み、

 現実感のないほど整った顔立ち。


 なのに――


 なぜか、心臓が嫌な音を立てた。


(……綺麗、なのに……なんだ、この違和感……)


「大丈夫よ。なんとなく、今の状況は理解してるから」


 少女は、妙に落ち着いた声で言った。


「そ、そうなの……?」


「――初めまして。

 私、ヒジリ=ブラン=エールと申します」


 外套の端をつまみ、優雅にカーテシー。


 その動作が、あまりにも“様になりすぎていた”。


「は、初めまして。ボクはハツキです」


 胸の奥が、ざわつく。


 理由は分からない。

 でも――どこか、懐かしい。


「ブラン=エール……?

 もしかして、あの空挺騎士団の?」


「はい。三年前、何者かの襲撃によって全滅しました」


 さらっと言う内容じゃない。


「……一夜にして消えたって、あの話か」


「私はその時、外出しておりましたので」


 あまりにも、平然とした声。


 三年前。

 その言葉に、父の背中が脳裏をよぎる。


 助けられなかった記憶。

 置いていかれた感覚。


「……それはそうとして」


 ハツキは視線を逸らしたまま言った。


「その……前、そろそろ隠したほうが……」


「――っ!!」


 ヒジリは固まり、次の瞬間、しゃがみ込む。


「きゃーーっ!!

 アンタ、そういうのはもっと早く言いなさいよ!!」


「いや……可憐で清楚だったから……」


 ――言ってしまった。


 ドンッ!!


 鳩尾に走る、完璧な一撃。


「次、変なこと言ったら――殺すわよ?」


「……はい……」


 視界が暗転した。


 ◇


 次に目を覚ました時。


後頭部に柔らかいものが触れている……ような気がした。

いや、触感はまったく感じない。

でも、なぜか安心して、自然に息が落ち着いた。

視覚と心で、膝枕を認識しているような感覚だ。


「あ、起きた? おはよう」


 視界いっぱいに、銀髪。


「……あ……生きてます……」


 なぜか敬語。


「それなら良かった」


 ヒジリは微笑み、

 ハツキの上着を着たまま、隣に座っていた。


(……なんでだろ……

 殴られたのに……安心してる……)


「ハツキ?」


「な、なに?」


「このあと、どこに行くの?」


「宝箱回収して、村に戻る予定」


「じゃあ、あたしも行く」


「……え?」


「行く当てもないし。

 それに――」


 一瞬、言葉が止まる。


「……あなたのそばにいると、落ち着くの」


 胸の奥が、ざわりと揺れた。


 理屈じゃない。

 でも、その言葉が――やけに重い。


「……もちろん、いいわよね?」


 優しい笑顔。

 なのに、どこか逃げ道を塞ぐような視線。


「ぜ、ぜひ……」


 声が、震えていた。


 こうしてハツキは――

 自分を救った存在と、再会しながらも、


 “護られている”ことにも気付かないまま、


 運命の少女と、並んで歩き出したのだった。


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