表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/40

第20話 それでも護れた

ヴォルズの能力が解け、立っていることすら出来なくなったハツキは、その場に倒れ込んだ。


「ハツキ! ハツキ!」


薄っすらと残る視界に、泣きじゃくるヒジリが映る。


「死なないで! お願い!! ハ……ツ……」


――ハハハ。

もうムリだ。


意識が、ゆっくりと遠退いていく。


護れた。

自分の“大事”だと思える人を、護れた。


もう、満足だ。


   ◇


夢を見た。


とても、とても綺麗な場所。


風は穏やかで、痛みはなく、時間の感覚さえ曖昧な世界。


そこに――

大好きな、父と母が立っていた。


「お父さん……お母さん……」


声が、震える。


「……会いたかった」


父は少し困ったように笑い、頭をガシガシと撫でる。


・・・ よくやったな、ハツキ ・・・


懐かしい。

大好きな感触。


母は、優しく抱きしめてくれた。


・・・ 頑張ったわね、ハツキ ・・・


懐かしい。

大好きな温もり。


ああ……。

ボクは、ちゃんと頑張れたんだ。

褒めてもらえた。


けれど――

母は、そっと首を横に振った。


・・・ でもね、ハツキ

・・・ 本当は、ここで終わるはずだったの ・・・


「……え?」


胸の奥が、ざわつく。


父が、静かに口を開いた。


・・・ ペイン・ムーヴは

・・・ “誰かを護るために、自分を壊す力”だ ・・・


・・・ だからこそ

・・・ お前には、継がせるつもりはなかった ・・・


母も、ゆっくりと頷く。


・・・ あの力はね

・・・ 一度使えば

・・・ 痛みを拒めなくなる ・・・


・・・ 誰かの苦しみを

・・・ 自分のものとして

・・・ 受け入れる事が

・・・ 当たり前になってしまうから ・・・


「……じゃあ、なんで……」


母は、少し目を伏せて言った。


・・・ それは

・・・ あなたが、選んでしまったから ・・・


父の視線が、真っ直ぐに突き刺さる。


・・・ お前

・・・ 死ぬと分かっていても

・・・ “それでも護る”と

・・・ 迷わなかっただろう ・・・


脳裏に浮かぶ。

泣き叫ぶヒジリの姿。


「……ヒジリを、護りたかった」


父は、深く息を吐いた。


・・・ ああ

・・・ それが、引き金だ ・・・


・・・ ペイン・ムーヴは

・・・ 血じゃない

・・・ 覚悟に反応する力だ ・・・


母が、そっと抱きしめる。


・・・ 本当はね

・・・ 普通に笑って

・・・ 普通に傷ついて

・・・ それでも誰かと生きる

・・・ そんな人生を

・・・ 歩いてほしかった ・・・


「……ごめん」


父は、強く首を振った。


・・・ 謝るな

・・・ 選んだのは、お前だ ・・・


・・・ 俺たちは

・・・ 止められなかっただけだ ・・・


世界が、歪み始める。


・・・ 代償は

・・・ お前の心と身体に

・・・ 確実に刻まれる ・・・


・・・ それでも

・・・ 戻るか? ハツキ ・・・


ハツキは、目を閉じた。


ヒジリが、泣いている。


「……戻るよ」


「ヒジリが泣いてるなら、戻る理由はある」


父と母が、同時に微笑んだ。


・・・ なら、行け ・・・


・・・ 私たちの息子 ・・・


・・・ どうか

・・・ 人である事を

・・・ 忘れないで ・・・


「「 ハツキ=サンブライトに継承する

       移動する・苦痛(ペイン・ムーヴ) 」」


   ◇


首に、焼け付くような痛み。


~~ 戦いの平地 ~~


・・・ 習得者 ハツキ=サンブライト ・・・

・・・ 代償 ウロボロスの呪紋 ・・・

・・・ 継承確認 終了しました ・・・


「「頑張れ、ハツキ」」……


移動する・苦痛(ペイン・ムーヴ)

・・・ 対象者 ヒジリ=ブラン=エール ・・・

・・・ 移動先 ハツキ=サンブライト ・・・

・・・ 死亡確率 85%以上 ・・・

・・・ 発動確認 YES・NO ・・・


「YES」


「ヒジリ……あとは任せた……」


   ◇


「おはよう。ヒジリ。また泣いてるの?」


目を覚ますと、見覚えのない場所にいた。


「ハ、ハツキ~~! ハツキ! ハツキ!!!」


ヒジリはポロポロと大粒の涙を零しながら、ハツキに縋りつく。


良かった。

本当に、良かった。


彼女の足は真っ赤になっている。

どうやら今まで、ずっと膝枕をしていてくれたらしい。


死んでなかった。


これからも、ヒジリを護ってあげられる。


顔に零れる涙が、なぜか暖かく感じた。


「ここはどこ?」


一夜限りの宿(ディスポ・コテージ)も使い切っちゃったし、

あんな場所に居たくなかったから……少し歩いて見つけた洞窟の中よ。

リーネの街まで行きたかったけど、ハツキをこれ以上、危険に晒したくなかったから。

ハツキの熱も下がらないし、あたし……どうしていいのか……」


ヒジリは両手で顔を覆い、泣き出してしまう。


両手、両足、肋骨四~六本の骨折。

全身打撲に内臓損傷。


ボクは痛みを感じない。

でも、ヒジリはこの痛みを感じていた。


奥歯を噛み締める。


ヴォルズ……。


   ◇


「でもあたし、完全に気絶してたわよ。結構賭けだったわよね」


「そうでもないんだな♪

ペイン・ムーヴは怪我で意識を失ってる場合、意識回復も可能なんだ」


「だから声を掛けたんだよ。

そのままにしたら『あれ? あたし治ってる~♪』とか言ってバレそうじゃん」


「あたし、そんなにおバカさんじゃありません!!」


ヒジリは頬を膨らませる。


「でも運も良かったと思う」


「そうよね。2人とも生きてるし」


「それだけじゃなくてさ。

ヴォルズが『動けない』って言ったでしょ?」


「言ってたわね」


「もし『その場に止まる』だったら、ボクは倒れられなかった」


「あ!!

骨バッキバキだもんね!

そこで急に倒れたら、当たらない!とか言われちゃうかも……」


「それにヒジリ、背中にまだ天使の翼(アンジェ・エール)付いてたでしょ?

あれも速度倍増だよね」


「そうそう!

微風の外套エアー・オーバーコートより少し効果落ちるけど、結構速いよ♪」


「……ホント、運が良かった」


「そうね……」


「ね? そろそろ実感してもいい?」


「ボクも同じ事思ってた」


「「 せ~の! 生きてて良かったよ~!!! 」」


笑い声が洞窟内に反響した。


ああ。

またヒジリの笑い声が聞けた。


嬉しい。

また、ハツキの笑顔が見れた。


   ◇


~~ 戦いの平地 ~~


ヴォルズとの死闘があった平地。


折れた武器。

血に濡れた地面。

そして、動かなくなったヴォルズとレイズの死体。


それを見た瞬間、ヒジリに倒された45人の仲間たちは、

誰一人として振り返ることなく、闇の中へ逃げていった。


――静寂。


風が吹き、血の匂いだけが残る。


その時だった。


ヴォルズの死体の傍で、

空間が、ぐにゃりと歪んだ。


何も無いはずの場所から、

人の輪郭が、ゆっくりと滲み出る。


「……カシラぃ……」


姿を現したのは、一人の男。


「なんで死んじまったんだよ……」


ヴォルズの傍に膝をつき、

死体を抱き起こすようにして縋りつく。


「まだ、早えだろ……?」


震えた声。

だが、その口元は――どこか歪んでいた。


カシラにもらった、この透明なる影インビジブル・シャドウでよ……」


男は、自分の胸を指で叩く。


「ずっと見てたんだぜ?

気配も消して、息も殺して……全部、な」


視線が、ヴォルズの首元へ滑る。


「なのにさぁ……」


男は、低く笑った。


「負けるとこまで、ちゃんと見せてくれるとは思わなかったよ」


ヴォルズの頬を、指で叩く。


「なあ、頭。

死ぬなら死ぬで、もうちょい粘れよ」


「こんなガキ共にやられて終わりとか、

笑えねえだろ?」


沈黙。


返事はない。


男は、ゆっくりと立ち上がった。


「……でもな」


声の調子が、変わる。


「正直に言うとよ。

この瞬間を、ずっと待ってた」


男の口元が、大きく歪む。


「お前の能力。

正直、無駄遣いだと思ってたんだよ」


「透明になったら、物にも触れねえ。

攻撃も出来ねえ。

逃げるしかねえ力」


「……ほんっと、糞みてえな能力だ」


男は、ヴォルズの胸に手を突っ込んだ。


ぐちゃり、と嫌な音が響く。


「でもよ」


血に濡れた手を引き抜く。


そこには――

半分になった心臓があった。


まだ、僅かに脈打っている。


「発想が足りねえだけだろ?」


男は、笑う。


「俺ならな……

“消えたまま、喰える”」


心臓を、口元へ運ぶ。


「なあ、頭……

死んだら能力くれるって約束してたよな……

覚えてるよな……」


一瞬だけ、真面目な声になる。


「安心して死ね」


「お前の能力――

俺が、完成させてやる」


――ぐしゃり。


歯で噛み千切り、

そのまま、喰らった。


血が溢れ、

顎から、首から、胸元まで真っ赤に染まる。


男は、咀嚼しながら笑っていた。


「……っは」


「やっぱクセぇな……」


口元を拭い、

動かなくなったヴォルズを蹴り上げる。


空間が、再び揺らぐ。


男の身体が、半透明になる。


「ほらな」


地面の石を踏み――

今度は、確かに音がした。


「触れるじゃねえか」


嗤う。


「じゃあな、ヴォルズ」


「莫迦なカシラ


男は、闇の中へ歩き出す。


「……リーネに行けば、また会えるかな?」


舌なめずりをしながら。


ヒジリ(……)ちゃん」


   ◇


冷たく固い地面の上で、2人は眠った。


なにも感じないけど、

ヒジリが傍にいると、暖かい。


2人は久しぶりに、深く眠った。


半分の月が、静かに――

そして優しく、2人を包み込んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ