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第2話 忘れられぬ過去

「今日はどんな宝箱――かわいいコに会えるかなぁ~♪」


まだ幼さの残る少年が、軽やかな足取りで歩いていた。

その隣を、屈強な体躯の男が、どこか誇らしげな笑みで見守っている。


「ねえねえ、お父さん」


「どうした、ハツキ」


「今日はなにかあると思う?」


「あるさ。天才トレジャーハンターである俺の勘がそう言ってる」


「昨日も一昨日も同じこと言って、なにもなかったじゃん」


がははは、と豪快な笑い声が塔に響いた。


その笑い声が、やけに安心できて。

ハツキはそれだけで胸の奥が温かくなる。



――牢獄の塔。


コツン、コツンと、二人分の足音が石壁に反響する。

湿った空気と、かすかに漂う鉄錆の匂い。


「ねえねえ、お父さん」


「どうした?」


「なんでここは牢獄の塔なの?」


男は少し考えるふりをしてから、肩をすくめた。


「昔な、王様や偉い人を閉じ込めてた場所らしい」


「なんで?」


「さあな。お偉いさんを、カビ臭い地下に閉じ込めるわけにもいかなかったんだろ」


「ふーん」


ハツキはもう興味を失ったのか、周囲をきょろきょろと見回している。


父は有名なトレジャーハンターだった。

依頼がない日は、こうして息子に鍵開けや罠の見抜き方を教えてくれる。


――いつか、自分も父のようになりたい。

世界に名を轟かせる、トレジャーハンターに。


「ほら、前に教えた空間把握、やってみろ」


ハツキは革袋から銅貨を取り出し、天井へ弾いた。

チャリン、と乾いた音が跳ね返る。


「……この階、なにかいる」


「正解だ。よくできたな」


大きな手が、わしわしと頭を撫でる。

それが嬉しくて、ハツキは笑った。


「でも、場所までは分かんないよ」


「慣れだ。経験を積めば、音と反響で違和感が分かるようになる」


「お願いすれば、ボクもお父さんみたいになれる?」


その言葉に、父の表情が一瞬だけ凍った。

感情の抜け落ちた、仮面のような顔。


だがそれは、すぐに消えた。


「……願いはな、呪いと同じだ」


低く、重い声。


「能力も魔法も、自分の手で掴むものだ。男なら――自分の力で、だ」


背を向けた父の背中は、ほんのわずかに震えていた。


その意味を、ハツキはまだ知らない。



やがて、か細い泣き声が聞こえてきた。


「……女の子?」


「そうみたいだな。行くか」


「もちろん! 男が女の子を助けないでどうするの!」


胸を張るハツキ。


鉄格子の奥。

そこには、小さな少女がいた。


手入れが行き届いた銀髪。

透き通る程きれいな白い肌。

暗い牢の中で、そこだけが浮いて見える。


「……だれ?」


「ボクはハツキ! 天才トレジャーハンターの……息子!」


渾身のポーズ。


「……気持ち悪いです。盗賊なんて見たくありません」


冷たい声。


完全に滑った。


胸に、地味にダメージが入る。


「どうしたのだ?」


父が穏やかに尋ねる。


「どうせ身代金目当てでしょう。両親が迎えに来ますわ」


強がるように、少女は笑った。

だがその指先は、鉄格子を強く握りしめていた。


――出してほしいんだな。


ハツキは鉄格子に近づいた。


「ボクが開けてあげるね」

「待て、ハツキ!!」


その瞬間――


天井から、赤黒い三本指の“何か”が、音もなく降りてきた。


……マジック・トラップ 発動……

鬼手デーモン・ハンド


「え……?」


理解するより先に、父が前に出た。


「大丈夫だ。待ってろ」


いつもの優しい笑顔。


「YES」


父の優しい声が響く。


次の瞬間。


ぐしゃり、と、嫌な音。


血が飛び散る。

赤い霧が視界を覆う。


――あれ?


何が起きたのか、分からなかった。


右腕と左足が、床を転がっている。

それが誰のものか、認識するまで、数秒かかった。


「……おとう、さん……?」


父の体は深く裂かれ、黒い模様が体中に浮かび上がり、ゆっくりと崩れ落ちた。


音だけが、やけに遠い。


「……どうして……」


声が出ない。

喉が動いているのに、音にならない。


「ハツキ……大丈夫か?……」


父は、もう助からない。

それでも息子を心配する優しい顔。

それでも笑おうとして、口角がわずかに上がった。


「これを……」


白い皮袋を、震える手で差し出す。


「最後に……この袋の中から道具を出してお前の技術を……見せてくれ……」


視界が滲む。

涙で、鍵穴が見えない。


「……やだよ……」


指が震えて、鍵がうまく入らない。

血で、滑る。


「できないよ……」


それでも。


――ガチャン。


鉄格子が、開いた。


「……できたよ……お父さん……」


返事はない。


ただ、親指を立てたままの、最高の笑顔。


「……褒めてよ……」


声は、崩れ落ちた。


その日、少年は独りになった。



「……ごめんなさい」


背後に、少女がいた。


「あたし、罠があるのを知ってた。でも……言わなかった」


「……一人にして」


少年は、その場に崩れ落ちた。


世界が、音を失う。


少女は、ただ立ち尽くすことしかできない。


胸の奥が、異様にざわつく。

理由も分からず、言葉だけが溢れた。


「……私が……あなたを護るから」


自分でも、なぜそんな言葉が出たのか分からない。

でも、それは“願い”のように重かった。


視界が、赤く染まる。


……この日、有名なトレジャーハンターは消息を断った……


・・・スキル

《移動する苦痛ペイン・ムーヴ

現在の習得者:0

スキルランク:S


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